三人の連携
◇ ◇ ◇
「始め!」
教師の声が響いた。
その瞬間。
「来る!」
リナが叫ぶ。
向かい側の三人が。
一斉に杖を構えた。
「炎よ――!」
「大地よ――!」
「風よ――!」
三つ。
同時。
「ヒルメ!」
「うん!」
ヒルメが一歩前へ出る。
以前なら。
ここで。
ただ大きな結界を出していた。
けれど。
今は違う。
どこへ。
どれくらい。
どれだけの魔力を流せばいいのか。
一か月の修行で。
少しずつ分かるようになった。
「聖なる光よ――我が祈りに応え、堅牢なる守護の牢獄となれ!」
杖を振る。
「《ガーディアン・プリズン》!」
ガァン!
三人の正面。
光の壁が現れる。
直後。
ドドドン!!
炎。
岩。
風。
三つの魔法が。
光の壁へ激突した。
「……!」
衝撃。
しかし。
結界は揺れただけ。
壊れない。
「今!」
リナが叫ぶ。
「ミア!」
「うん!」
ミアが。
ヒルメの右側から飛び出す。
「大気を巡る風よ――我が意志に従い、敵を貫く一条の槍となれ――」
相手の一人が気付く。
「右だ!」
「遅い!」
ミアが杖を振る。
「《ウィンド・ランス》!」
バシュッ!
風の槍が。
一直線に飛ぶ。
「《ストーン・ウォール》!」
地面から。
石の壁がせり上がる。
ドォン!
風の槍と。
石壁が激突。
「防がれた!」
「次!」
リナは。
すでに左へ走っていた。
「炎よ――我が手に集いて、小さき火球となり敵を撃て――」
走りながら。
杖を構える。
「《ファイア・ボール》!」
ボンッ!
「くっ!」
相手の女子生徒が。
横へ跳ぶ。
火球が。
そのすぐ横を通過した。
「外した!」
「わざとよ!」
「え?」
火球を避けた先。
そこには。
「こんにちは。」
「!」
ヒルメ。
「いつの間に!?」
ヒルメは。
すでに結界の後ろから移動していた。
杖を。
相手へ向ける。
「聖なる光よ――我が祈りに応え――」
「まずい!」
「ヒルメを止めろ!」
二人が。
同時に杖を向ける。
だが。
「遅い!」
ミアが。
その間へ入る。
「《ウィンド・ショット》!」
バン!
風の塊が。
一人の腕へ当たる。
「くっ!」
杖が逸れる。
そして。
ヒルメの詠唱が終わる。
「邪なるものを穿つ一条の光となれ――」
「《セイクリッド・レイ》!」
シュン!
光が。
女子生徒の胸元へ直撃した。
「きゃっ!」
バン!
身体が吹き飛ぶ。
だが。
舞台へ叩きつけられる直前。
ブゥン!
足元の魔法陣が。
強く輝いた。
パァン!
女子生徒の身体が。
光に包まれる。
そして。
シュン!
舞台の外へ転送された。
『戦闘不能!』
教師の声。
「一人!」
ミアが叫ぶ。
「油断しない!」
リナが返す。
「まだ二人いる!」
「分かってる!」
ヒルメは。
すぐに杖を構え直した。
◇ ◇ ◇
「くそっ!」
残された男子生徒二人が。
顔を見合わせる。
「先にあの光の奴を落とすぞ!」
「分かった!」
「え。」
ヒルメが。
自分を指差す。
「私?」
「当たり前でしょ!」
リナが叫ぶ。
「今一人落としたんだから狙われるわよ!」
「そっか!」
「嬉しそうにしない!」
二人が。
左右へ分かれる。
「《ストーン・バレット》!」
「《ウィンド・カッター》!」
岩の弾丸。
風の刃。
別方向から。
同時にヒルメへ飛ぶ。
「ヒルメ!」
ミアが叫ぶ。
「大丈夫!」
ヒルメが。
杖を握る。
以前なら。
正面。
一枚。
それだけだった。
けれど。
「《ガーディアン・プリズン》!」
ガァン!
右。
一枚。
「もう一枚!」
左。
ガァン!
二枚。
別々の方向。
二つの光の壁が。
同時に現れた。
ドン!
ガァン!
岩と風。
それぞれが。
結界へ激突する。
「……!」
相手の二人が。
驚いた。
「二枚!?」
ヒルメ自身も。
少しだけ目を丸くする。
「できた。」
「今驚くところ!?」
リナが叫ぶ。
「だって。」
「修行では長く維持できなかったから。」
「本番で試さないで!」
「でもできたよ!」
「結果論!」
その時。
「隙だ!」
男子生徒の一人が。
ヒルメへ向かって走る。
魔法を防がれたなら。
直接。
近距離から撃つ。
「《ストーン――》」
「させない!」
ミアが。
間へ飛び込む。
「《ウィンド・ショット》!」
バン!
「ぐっ!」
男子生徒が。
後ろへよろめく。
「ミア!」
「今!」
「うん!」
ヒルメが。
杖を向ける。
だが。
「ヒルメ!」
リナの声。
「後ろ!」
「え?」
もう一人。
ヒルメの背後。
「もらった!」
杖先に。
風が集まっている。
「《ウィンド・カッター》!」
至近距離。
避けられない。
「ヒルメ!」
ミアが叫ぶ。
その瞬間。
ヒルメは。
考えるより先に。
杖へ魔力を流していた。
少なく。
速く。
必要な分だけ。
「《ガーディアン・プリズン》!」
ガンッ!
小さい。
人一人を守るだけの。
小さな光の壁。
バシュッ!
風の刃が。
弾かれる。
「なっ!?」
「……。」
ヒルメが。
自分の出した結界を見る。
今までより。
ずっと小さい。
でも。
速い。
「……できた。」
「だから戦闘中に感動しない!」
リナの声。
「前!」
「うん!」
ヒルメが。
身体を反転させる。
「《セイクリッド・レイ》!」
シュン!
「うわっ!」
光が。
男子生徒の肩へ直撃する。
ブゥン!
保護術式。
パァン!
その身体が。
舞台外へ転送された。
『戦闘不能!』
「あと一人!」
ミアが叫ぶ。
◇ ◇ ◇
最後の一人。
風魔法を使う男子生徒が。
三人を見る。
「……。」
ヒルメ。
リナ。
ミア。
三人。
対して。
自分一人。
「……まだだ!」
杖を構える。
「風よ――!」
周囲へ。
魔力が集まる。
リナの表情が変わる。
「少し大きいのが来る。」
「どうする?」
ミアが聞く。
「予定通り。」
「ヒルメが防ぐ。」
「私とミアで左右から。」
「分かった。」
「うん。」
三人が。
同時に動く。
「《ウィンド・ストーム》!」
ゴォォォォ!!
強烈な風が。
舞台を駆け抜ける。
「ヒルメ!」
「任せて!」
ヒルメが。
杖を地面へ向ける。
「《ガーディアン・プリズン》!」
ガァァン!!
今度は。
大きい。
三人を覆う。
巨大な光の壁。
暴風が。
結界へ激突する。
ゴォォォォォ!!
「……っ!」
ヒルメの髪が。
風に揺れる。
でも。
結界は。
壊れない。
「行ける!」
ヒルメが叫ぶ。
「うん!」
ミアが。
右へ。
リナが。
左へ。
結界の両端から。
同時に飛び出した。
「何!?」
男子生徒が。
どちらを見るか迷う。
その一瞬。
「大気を巡る風よ――」
右。
ミア。
「炎よ――我が手に集いて――」
左。
リナ。
二つの詠唱。
「くっ!」
男子生徒が。
ミアへ杖を向ける。
「そっち!?」
リナが笑う。
「残念。」
「《ファイア・ボール》!」
ボンッ!
火球が飛ぶ。
「《ウィンド・ウォール》!」
風の壁。
ドォン!
炎が。
弾ける。
「防いだ!」
だが。
「こっちもいるよ!」
「!」
ミア。
「《ウィンド・ランス》!」
バシュッ!
風の槍が。
男子生徒の横腹へ直撃した。
「ぐっ!」
身体が。
大きく吹き飛ぶ。
ブゥン!
魔法陣が輝く。
パァン!
そして。
転送。
『戦闘不能!』
一瞬。
静寂。
そして――
『勝者!』
教師が。
手を上げる。
『ヒルメ、リナ、ミア組!』
ワァァァァァァァ!!
観客席から。
歓声が上がった。
「……。」
ヒルメが。
瞬きをする。
「勝った?」
「勝ったよ!」
ミアが。
ヒルメへ抱きつく。
「やった!」
「わっ!」
「勝った!」
「うん!」
二人が。
喜ぶ。
「ちょっと。」
リナが。
呆れた顔で近づいてくる。
「まだ一回戦よ。」
「でも勝ったよ!」
「それはそうだけど。」
「リナ。」
ヒルメが。
手を伸ばす。
「……何?」
「やったね。」
「……。」
リナは。
その手を見る。
そして。
小さく笑った。
「ええ。」
パンッ。
三人の手が。
重なった。
◇ ◇ ◇
観客席。
「……。」
アリシアが。
静かに舞台を見ていた。
その口元には。
小さな笑み。
「随分。」
「上達しましたね。」
特に。
ヒルメ。
以前のヒルメは。
魔力量そのものは多かった。
だが。
扱いがあまりにも粗い。
必要以上に流し。
必要以上に使う。
そんな戦い方だった。
今は。
違う。
小さな結界。
二方向への同時展開。
必要な瞬間。
必要な場所へ。
必要な量だけ。
「……。」
アリシアの目が。
僅かに細くなる。
「魔力操作を覚えましたか。」
その隣。
アリシアと同じチームの生徒が聞く。
「殿下。」
「あの者が?」
「ええ。」
アリシアは。
舞台から降りていくヒルメを見る。
「私の友人です。」
少しだけ。
嬉しそうに。
◇ ◇ ◇
「ワン!」
舞台から戻ると。
真っ先に。
シロが飛びついてきた。
「シロ!」
「ワン! ワン!」
「見てた?」
「ワン!」
「勝ったよ!」
「ワン!」
ヒルメが。
シロを抱きしめる。
「ちゃんと待ってて偉い!」
「ワフ!」
「ヒルメ。」
リナが呼ぶ。
「何?」
「次の組み合わせ。」
「あ。」
三人が。
再びトーナメント表を見る。
自分たちの名前。
その横。
一本。
線が伸びていた。
一回戦突破。
「……。」
ヒルメが。
その線を目で追う。
まだ。
先は長い。
そして。
離れた位置。
セレスティアの名前。
「……。」
ちょうど。
次の試合。
その名前が。
光っていた。
『第四試合!』
教師の声が響く。
『参加者は舞台へ!』
「……。」
ヒルメたちが。
舞台を見る。
貴族クラスの三人が。
階段を降りていく。
その中央。
セレスティア。
「次。」
ミアが呟く。
「セレスティアだ。」
「……うん。」
セレスティアは。
舞台へ上がる途中。
ふと。
足を止めた。
そして。
振り返る。
視線の先。
ヒルメ。
リナ。
ミア。
「……。」
セレスティアが。
薄く笑う。
まるで。
見ていろとでも。
言うように。
「……。」
リナの表情が。
僅かに険しくなる。
「何よ。」
ヒルメは。
黙って。
セレスティアを見つめる。
そして。
教師の声。
「双方、構え!」
六人が。
杖を構えた。
「始め!」
その瞬間。
セレスティアの魔力が――
爆発的に膨れ上がった。
◇ ◇ ◇
「始め!」
教師の声が響いた。
その瞬間。
セレスティアの杖先から。
凄まじい魔力が溢れ出した。
「……!」
ヒルメが目を見開く。
先ほどまでの試合とは。
明らかに違う。
「炎よ――」
詠唱が始まる。
それだけで。
セレスティアの周囲の空気が揺らぐ。
「我が意志に従い――」
対戦相手の三人も。
慌てて杖を構えた。
「来るぞ!」
「防御!」
「《ストーン・ウォール》!」
「《アクア・シールド》!」
石の壁。
水の盾。
二重の防御魔法が展開される。
だが。
セレスティアは。
それを見ても。
詠唱を止めない。
「灼熱の奔流となり――」
杖先。
炎が。
一気に膨れ上がる。
「敵を焼き払え。」
リナの表情が変わった。
「……あれ。」
「何?」
ミアが聞く。
「《ファイア・ボール》じゃない。」
「じゃあ何?」
「……。」
リナが。
舞台を見つめる。
「《フレイム・バースト》。」
「《フレイム・バースト》!」
セレスティアが杖を振り下ろした。
ドォォォォォン!!
巨大な炎が。
舞台を走った。
「うわっ!」
ヒルメが思わず腕で顔を庇う。
観客席まで。
熱気が届く。
炎は。
石壁へ激突。
ドンッ!!
「ぐっ!」
石壁に。
亀裂。
そして。
その奥。
水の盾。
ジュワァァァァ!!
大量の蒸気。
「耐えろ!」
対戦相手の三人が。
必死に魔力を流し込む。
だが。
「無駄ですわ。」
セレスティアが。
冷たく言った。
次の瞬間。
バァン!!
石壁が砕けた。
水の盾も。
一瞬遅れて消し飛ぶ。
「なっ――」
炎が。
三人を飲み込む。
ブゥン!!
舞台の魔法陣が。
一斉に輝いた。
パァン!
パァン!
パァン!
三人。
ほぼ同時。
光に包まれ。
舞台外へ転送された。
「……。」
静寂。
試合開始から。
ほんの僅か。
教師すら。
一瞬。
判定を忘れていた。
やがて。
「しょ、勝者!」
教師が声を上げる。
「セレスティア組!」
ワァァァァァ!!
観客席から。
大きな歓声が上がった。
◇ ◇ ◇
「……強い。」
ミアが呟く。
ヒルメも。
舞台を見つめていた。
「うん。」
一撃。
たった一つの魔法。
それだけで。
三人。
「リナ。」
「何?」
「あれ。」
ヒルメが聞く。
「リナも使える?」
「無理。」
即答だった。
「今はね。」
リナは。
セレスティアを見る。
「《フレイム・バースト》は中位の炎魔法。」
「《ファイア・ボール》よりずっと多くの魔力が必要になる。」
「私じゃまだ安定して使えない。」
「そっか。」
「それに……。」
「?」
リナは。
僅かに眉を寄せる。
「今の。」
「かなり強かった。」
「同じ魔法でも?」
「ええ。」
「多分、普通の《フレイム・バースト》より。」
「……。」
ヒルメは。
もう一度。
セレスティアを見る。
舞台の中央。
歓声を浴びながら。
当然のような顔で立っている。
そして。
その視線が。
こちらへ向いた。
「……。」
セレスティアが。
笑った。
ほんの少し。
勝ち誇るように。
ヒルメが。
首を傾げる。
「……私たちに見せたかったのかな。」
「多分ね。」
リナが答える。
「だったら。」
ヒルメは。
自分の杖を見る。
「すごかったって言ってあげた方がいい?」
「絶対やめなさい。」
「なんで?」
「そういう意味じゃないから!」
ミアが吹き出す。
「ヒルメなら本当に言いに行きそう。」
「だって強かったよ?」
「だから行かなくていいの!」
「変なの。」
リナは。
大きくため息を吐いた。
◇ ◇ ◇
試合は。
その後も続いた。
第五試合。
第六試合。
そして。
第一回戦の全試合が終了する。
トーナメント表に。
勝者の名前が残っていく。
ヒルメ。
リナ。
ミア。
アリシア。
セレスティア。
それぞれのチームも。
順当に一回戦を突破していた。
◇ ◇ ◇
そして。
二回戦。
「《ガーディアン・プリズン》!」
ガァン!
光の壁が。
三人を守る。
「右!」
「うん!」
ミアが走る。
「《ウィンド・ランス》!」
バシュッ!
「くっ!」
相手が防御する。
その瞬間。
「リナ!」
「分かってる!」
反対側。
「《ファイア・ボール》!」
ボンッ!
一人。
戦闘不能。
さらに。
「ヒルメ!」
「うん!」
小さな光の壁。
相手の魔法を弾く。
その隙。
ミア。
二人目。
最後は。
リナ。
三人目。
『勝者!』
歓声。
三人は。
二回戦も突破した。
◇ ◇ ◇
三回戦。
「《アクア・ランス》!」
水の槍。
「ヒルメ!」
「任せて!」
光の壁。
ドォン!
「後ろ!」
「分かってる!」
ヒルメが。
杖を僅かに動かす。
もう一枚。
ガンッ!
背後に。
小さな《ガーディアン・プリズン》。
「嘘だろ!?」
相手が驚く。
「二方向!?」
一か月前なら。
できなかった。
魔力を分ける。
維持する。
必要な場所へ。
必要なだけ。
「ミア!」
「うん!」
風。
「リナ!」
「はいはい!」
炎。
三人が。
完全に連動していた。
『勝者!』
三回戦。
突破。
◇ ◇ ◇
「はぁ……。」
控え席。
ミアが。
椅子へ座り込む。
「疲れたぁ……。」
「大丈夫?」
ヒルメが聞く。
「大丈夫。」
「でも。」
ミアが笑う。
「三回も戦うと疲れるね。」
「私まだ元気。」
「ヒルメと一緒にしないで。」
リナが水を飲みながら言った。
「リナも疲れてる?」
「多少は。」
「じゃあ。」
ヒルメが両手を広げる。
「膝貸そうか?」
「何で?」
「寝れるよ。」
「いらない。」
「ミアは?」
「ちょっと借りたい。」
「ミア!」
「冗談だって。」
三人が笑う。
一か月。
一緒に修行した。
その成果が。
確実に出ていた。
ヒルメが守る。
ミアが崩す。
リナが仕留める。
あるいは。
リナが誘い。
ミアが動かし。
ヒルメが塞ぐ。
誰かが指示しなくても。
少しずつ。
相手が何をしようとしているのか。
分かるようになっていた。
◇ ◇ ◇
「……。」
その様子を。
少し離れた場所から。
セレスティアが見ていた。
「随分と。」
小さく呟く。
「楽しそうですこと。」
隣にいる貴族の少女が聞く。
「セレスティア様?」
「何でもありませんわ。」
視線。
その先。
リナ。
一般クラス。
大した家柄でもない。
魔法も。
特別優れているわけではない。
以前なら。
こちらを見るだけで。
怯えていた。
それが。
今は。
ヒルメとミアの隣で。
笑っている。
「……。」
セレスティアの目が。
冷たく細められた。
◇ ◇ ◇
『次の試合!』
教師の声。
「アリシア殿下率いるチーム!」
「舞台へ!」
「アリシアだ。」
ヒルメが。
身を乗り出す。
「見よう!」
「座りなさい。」
「見えない。」
「十分見えるでしょ。」
「近くで見たい。」
「子供?」
「違うよ!」
そう言いながら。
三人が舞台を見る。
アリシア。
そして。
学院が選んだ二人の貴族生徒。
対するは。
同じく貴族クラス。
ここまで勝ち上がった三人。
「始め!」
試合開始。
「行くぞ!」
相手が。
一斉に動く。
三方向。
アリシアを。
真っ先に狙う。
「殿下!」
味方の一人が。
前へ出ようとする。
「必要ありません。」
「え?」
アリシアが。
一歩。
前へ出た。
杖を。
横へ振る。
「《アクア・サークル》。」
ブゥン――
アリシアの周囲。
水が。
円を描いた。
「なっ!?」
三方向から飛んできた魔法。
炎。
風。
岩。
その全てを。
水流が受け流す。
「嘘……。」
ミアが呟く。
「全部?」
「……。」
リナも。
目を見開いている。
「すごい。」
ヒルメだけが。
楽しそうに笑う。
「やっぱりアリシア強い。」
舞台。
アリシアが。
杖を上げる。
「では。」
「こちらの番ですね。」
水が。
宙へ集まる。
一つ。
二つ。
三つ。
「《アクア・ランス》。」
三本。
同時。
バシュッ!
「散れ!」
相手三人が。
別方向へ飛ぶ。
だが。
水の槍が。
空中で軌道を変えた。
「え!?」
一人。
直撃。
ブゥン!
転送。
二人目。
避ける。
その先。
アリシアの仲間が待っている。
「《ライトニング・ショット》!」
バン!
戦闘不能。
残り一人。
「くっ……!」
「降参しますか?」
アリシアが。
静かに聞く。
「まだだ!」
杖を構える。
「《フレイム・ランス》!」
炎の槍。
アリシアへ。
「……。」
アリシアは。
避けなかった。
杖を。
僅かに動かす。
「《アクア・ウォール》。」
ザァン!
水の壁。
炎が。
消える。
その直後。
水壁そのものが。
形を変えた。
「なっ――」
一本の水の槍。
「《アクア・ランス》。」
バシュッ!
直撃。
ブゥン!
転送。
『勝者!』
大歓声。
◇ ◇ ◇
「……。」
ヒルメが。
目を輝かせていた。
「すごい。」
「……あれ。」
ミアが呟く。
「私たちが戦ったらどうする?」
「……。」
リナが。
真剣な顔になる。
「かなり厳しい。」
「え。」
ヒルメが振り返る。
「勝てない?」
「そうは言ってない。」
リナは。
舞台から降りるアリシアを見る。
「でも。」
「殿下本人が強いだけじゃない。」
「周りの二人も。」
「殿下が何をするか分かって動いてる。」
「私たちと同じ?」
「そう。」
「しかも。」
「一人一人の魔法技術が高い。」
「……。」
ヒルメが。
もう一度アリシアを見る。
そして。
笑う。
「じゃあ。」
「戦いたい。」
「何でそうなるのよ。」
「だって楽しそう。」
「遊びじゃない!」
「分かってるよ。」
そう言いながらも。
ヒルメの顔は。
明らかに楽しそうだった。
◇ ◇ ◇
その日の試合が進み。
トーナメント表の線は。
少しずつ。
少なくなっていった。
ヒルメたち。
アリシア。
セレスティア。
それぞれが。
勝ち残っている。
そして。
次の組み合わせが。
表示された。
「……。」
リナが。
トーナメント表を見上げる。
「次。」
「誰?」
ミアが聞く。
「貴族クラス。」
「また?」
「ええ。」
ヒルメも。
相手の名前を見る。
知らない名前。
三人。
だが。
その横。
貴族クラスの生徒たちが。
こちらを見ていた。
「……。」
明らかに。
これまでとは違う。
笑っている。
何か。
嫌な笑い方。
「何?」
ヒルメが首を傾げる。
「知らない。」
リナが答える。
その時。
少し離れた場所。
セレスティアが。
その三人へ。
一瞬だけ。
視線を向けた。
「……。」
誰にも聞こえないほど。
小さな声。
「せいぜい。」
「楽しませてくださいな。」
そして。
ヒルメたちは。
まだ知らなかった。
次の試合が。
これまでのような。
ただの対抗戦にはならないことを――。




