三人で掴んだ勝利
◇ ◇ ◇
「来る!」
リナの声と同時に、オーガが地面を蹴った。
巨体からは想像できない速度だった。
「速っ――!」
ミアが目を見開く。
「避けて!」
三人が左右へ飛ぶ。
直後。
ドォォォン!!
巨大な斧が、先ほどまで三人が立っていた場所へ叩きつけられた。
石畳が砕け、破片が飛び散る。
「きゃっ!」
ヒルメが腕で顔を庇う。
「グオオオオッ!」
オーガが斧を持ち上げる。
「ヒルメ!」
「うん!」
杖を構える。
「聖なる光よ――我が祈りに応え、堅牢なる守護の牢獄となれ!」
光が集まる。
「《ガーディアン・プリズン》!」
ガァン!!
振り抜かれた斧を光の壁が受け止めた。
「くっ……!」
ヒルメが歯を食いしばる。
結界は壊れない。
だが――
「重い……!」
腕が痺れる。
魔法そのものが受けた衝撃が、僅かに術者へ伝わっている。
「ヒルメ、そのまま!」
リナが叫ぶ。
「ミア!」
「分かってる!」
ミアがオーガの側面へ回り込む。
杖を向ける。
「大気を巡る風よ――我が声に応え、敵を打ち払え!」
「《ウィンド・ショット》!」
バシュッ!
風の塊がオーガの脇腹へ直撃する。
「グオッ!」
巨体が僅かに揺れる。
「効いた!」
「全然よ!」
リナが叫ぶ。
見れば。
オーガの身体にはほとんど傷がない。
「硬すぎる……。」
ミアの顔が引きつる。
「だから普通に攻撃しても駄目なの!」
リナは必死に頭を回す。
オーガ。
強靭な肉体。
高い生命力。
多少の傷なら短時間で回復する再生能力。
正面から魔法を撃ち続けても、こちらの魔力が先に尽きる。
(どうする……。)
(どうすれば……。)
その時。
「グオオッ!」
オーガがヒルメの結界から離れた。
そして――
身体を反転させる。
「……え?」
向いた先には。
ミア。
「ミア!」
「っ!」
オーガが駆ける。
「こっち来た!?」
ミアが慌てて走り出す。
「逃げて!」
「逃げてる!」
巨大な斧が横薙ぎに振るわれる。
ミアが身を屈める。
ブォン!!
頭上を斧が通過した。
「ひぃっ!」
「ミア!」
ヒルメが杖を向ける。
「《ガーディアン・プリズン》!」
ミアとオーガの間へ光の壁が出現した。
ガァァン!!
「きゃっ!」
斧が弾かれる。
「ありがとう!」
「うん!」
「……待って。」
リナが呟いた。
今の動き。
オーガはヒルメではなく、ミアを追った。
「ミア!」
「何!?」
「そのまま走って!」
「ええ!?」
「オーガを引きつけて!」
「簡単に言わないでよ!」
文句を言いながらも、ミアは走る。
「グオオオッ!」
オーガが追う。
やはり。
速い。
だが小回りは利かない。
ミアが急激に方向を変えると、オーガは大きく身体を傾けなければ追えない。
「そういうこと……。」
リナの目が鋭くなる。
「力はある。」
「速さも思ったよりある。」
「でも――」
オーガが再び方向を変える。
その巨体が大きく揺れた。
「細かい動きは苦手。」
リナが杖を構える。
「ミア!」
「今度は何!?」
「右に走って!」
「右!?」
「早く!」
「もう!」
ミアが右へ駆ける。
オーガも追う。
「今度は左!」
「人使い荒すぎ!」
急旋回。
オーガの身体が大きく傾く。
「そこ!」
リナの杖先へ炎が集まる。
「炎よ――我が手に集いて、小さき火球となり敵を撃て!」
「《ファイア・ボール》!」
ボンッ!
炎がオーガの右膝へ直撃した。
「グオッ!」
オーガの足が止まる。
「膝……?」
ヒルメが気付く。
「そう。」
リナが頷く。
「倒せないなら、まず立てなくする。」
「ミア!」
「はいはい!」
「反対側!」
「分かった!」
ミアが杖を構える。
「大気を巡る風よ――!」
風が集まる。
「《ウィンド・ショット》!」
バシュッ!
今度は左膝。
「グオオオッ!」
オーガが怒りの咆哮を上げる。
だが。
倒れない。
「まだ足りない……。」
リナが歯を食いしばる。
「もう一度!」
その時だった。
オーガが突然。
ミアではなく――
リナを見た。
「……え?」
リナの背筋が凍る。
「グオオオオオッ!」
「リナ!」
オーガが一直線に突っ込んでくる。
「っ!」
リナの身体が動かない。
巨大な斧が振り上げられる。
「リナ!!」
ヒルメが駆け出す。
間に合わない。
その時――
「グルルルルル……。」
低い唸り声。
空気が変わった。
「……!」
オーガの動きが止まる。
ほんの一瞬。
シロを見た。
白い身体。
いつもと何も変わらない。
だが――
その周囲で。
僅かに空気が揺らいでいた。
「グルルルル……。」
シロが一歩前へ出る。
「……グ……。」
オーガが。
一歩――
後ずさった。
「え……?」
ミアが目を見開く。
リナも呆然とする。
「何……?」
シロの周囲へ、膨大な魔力が集まり始める。
「シロ!」
ヒルメの声。
シロの耳がぴくりと動く。
「まだ大丈夫!」
「……。」
「私たちでやるから。」
シロがヒルメを見る。
「約束したでしょ?」
「……クゥン。」
不満そうな声。
それでも。
シロの周囲に集まっていた魔力が、ゆっくりと消えていく。
オーガはそんなシロから目を離せずにいた。
本能が。
何かを感じ取っている。
自分より遥かに危険な――
何かを。
「……。」
リナがシロを見る。
次にヒルメを見る。
「ねえ。」
「何?」
「あの子……何なの?」
「シロ?」
「他に誰がいるのよ!」
「私もよく分かんない。」
「またそれ!?」
「後にして!」
「あなた本当に分からないこと多すぎるでしょ!」
その瞬間。
「グオオオッ!」
オーガが再び動いた。
「来る!」
ヒルメが結界を張る。
ガァン!!
「くっ!」
斧を受け止める。
「リナ!」
ヒルメが叫ぶ。
「どうする!?」
「……。」
リナはオーガを見る。
膝。
先ほど攻撃した部分。
ほんの僅かだが――
右足を庇っている。
「効いてる……。」
「え?」
「さっきの攻撃!」
リナの表情が変わる。
「ちゃんと効いてる!」
杖を握り直す。
「同じところを狙う!」
「分かった!」
「ミア!」
「右膝ね!」
「そう!」
ミアが走る。
「ヒルメはそのまま正面!」
「うん!」
「オーガの意識を引きつけて!」
「どうやって!?」
「何でもいい!」
「何でも!?」
ヒルメが考える。
そして。
結界の向こうにいるオーガを見る。
「……こっち!」
「グオ?」
「えっと……。」
何を言えばいい。
「こっちだよ!」
「グオオッ!」
斧が結界へ叩きつけられる。
ガァン!!
「うわっ!」
「できてる!」
リナが叫ぶ。
「本当にこれでいいの!?」
「いいから続けて!」
「こっちこっち!」
ガァン!
「きゃっ!」
「ヒルメ頑張って!」
ミアが笑う。
「なんで楽しそうなの!?」
「今!」
ミアが杖を向ける。
「《ウィンド・ショット》!」
バシュッ!!
風が右膝へ直撃する。
オーガの身体が揺れる。
「リナ!」
「分かってる!」
同じ場所。
一点だけ。
そこへ狙いを定める。
リナの得意なこと。
魔力量ではない。
威力でもない。
正確な制御。
「炎よ――我が手に集いて、小さき火球となり敵を撃て!」
杖先に火球が生まれる。
「《ファイア・ボール》!」
ボンッ!!
寸分違わず。
ミアが攻撃した場所へ重なる。
「グオオオオッ!!」
ついに。
オーガの右膝が地面についた。
ドンッ!
「やった!」
ヒルメが叫ぶ。
「まだ!」
リナはオーガを見る。
片膝をついた。
それでもまだ。
頭は高い。
そして――
「グオオオオオオオッ!!」
怒り狂ったオーガが斧を振り回す。
「危ない!」
三人が離れる。
ドォン!
ドォン!
ドォン!
周囲の岩が次々と砕ける。
「近づけない!」
ミアが叫ぶ。
リナも必死に考える。
(あと少しなのに……。)
(頭を狙えれば……。)
その時。
ヒルメが自分の結界を見る。
先ほど。
ミアを守るため。
離れた場所にも出せた。
なら――
「リナ。」
「何?」
「ちょっとやってみたいことがある。」
「何?」
「怒らない?」
「内容による。」
「多分怒る。」
「じゃあ駄目。」
「でもやる!」
「ちょっと!?」
ヒルメが杖を構える。
「聖なる光よ――我が祈りに応え、堅牢なる守護の牢獄となれ!」
光が集まる。
だが。
今度は三人の前ではない。
オーガの――
背後。
「《ガーディアン・プリズン》!」
光の壁が出現した。
「何するつもり!?」
「押す!」
「……は?」
「結界で!」
「そんな使い方できるの!?」
「分かんない!」
「分からないのにやるなぁぁぁ!」
ヒルメが杖を握り締める。
「動いて……!」
結界が震える。
「お願い……!」
ギギギ――
僅かに。
光の壁が動いた。
「……え?」
リナが固まる。
「動いた!」
ヒルメの顔が明るくなる。
「動いたじゃない!」
「自分で驚かないで!」
「もっと……!」
ヒルメが魔力を込める。
ズズズズッ――
光の壁が前へ進む。
オーガの背中へ接触する。
「グオッ!?」
「押して!」
ヒルメが叫ぶ。
結界がオーガの巨体を押す。
右膝を負傷しているオーガは踏ん張れない。
「グオオオッ!」
身体が前へ傾く。
「ミア!」
リナが叫ぶ。
「左足!」
「分かった!」
ミアが杖を構える。
「大気を巡る風よ――我が声に応え、敵を打ち払え!」
「《ウィンド・ショット》!」
バシュッ!!
左膝へ直撃。
「グオッ!」
両膝が崩れる。
そこへ――
「うううううっ!」
ヒルメが結界を押し込んだ。
ドォォォン!!
オーガが両手を地面につく。
頭が下がる。
「今!」
ヒルメが叫んだ。
リナが杖を構える。
だが――
「遠い……!」
この距離では。
自分の《ファイア・ボール》では威力が落ちる。
確実に仕留めるには。
もっと近く。
「なら!」
ヒルメがリナを見る。
「リナ!」
「何!?」
「飛ばすよ!」
「……何を?」
嫌な予感。
ヒルメが笑った。
「リナを!」
「はあ!?」
リナの背後。
光が生まれる。
「ちょっ――」
《ガーディアン・プリズン》。
光の壁。
「待ちなさい!」
「行って!」
「待てって言って――」
ドンッ!!
結界が前へ動く。
「きゃああああああっ!?」
リナの身体が押し出された。
「ヒルメぇぇぇぇぇぇ!!」
「ごめーん!!」
「後で絶対怒るからぁぁぁ!!」
だが。
一気に距離が縮まる。
目の前には。
オーガの頭。
「……もう!」
リナは空中で杖を構えた。
「やるしかないじゃない!」
魔力を集中させる。
広げない。
一点へ。
ただ。
一点へ。
炎が小さく。
強く。
凝縮されていく。
「炎よ――我が手に集いて、小さき火球となり敵を撃て!」
オーガが顔を上げる。
「グオ――」
「遅い!」
リナが杖先を。
その眉間へ向ける。
「《ファイア・ボール》!!」
ドォン!!
至近距離。
直撃。
「グオオオオオオオッ!!」
オーガの頭が大きく仰け反る。
「リナ!」
ミアが走る。
風を纏わせ。
落下してきたリナを受け止める。
「きゃっ!」
二人で地面を転がった。
「痛った……。」
「大丈夫!?」
「なんとか……。」
二人が顔を上げる。
オーガは――
まだ立っていた。
いや。
立とうとしている。
「嘘……。」
リナの顔が青ざめる。
「まだ倒れないの……?」
眉間には。
確かに傷がある。
だが。
それだけ。
「そんな……。」
その傷が。
少しずつ塞がっていく。
「再生……。」
リナが呟く。
「間に合わない……。」
もう一度同じ攻撃をする余力は。
ほとんど残っていない。
その時。
「リナ!」
ヒルメが叫んだ。
「何!?」
「そこ!」
ヒルメがオーガの眉間を指差す。
「傷!」
「分かってる!」
「違う!」
「まだ完全に治ってない!」
「……!」
リナが目を見開く。
「ミア!」
二人が同時にミアを見る。
「え?」
「同じところ!」
リナが叫ぶ。
「私じゃもう火力が足りない!」
「だからミア!」
「……分かった!」
ミアが立ち上がる。
杖を両手で握る。
「でも《ウィンド・ショット》じゃ……。」
「もっと細く!」
リナが叫ぶ。
「え?」
「広げないで!」
「一点だけ!」
「傷のところだけ狙うの!」
「……。」
ミアが息を吸う。
目を閉じる。
風を集める。
いつものように。
塊にするのではない。
細く。
もっと細く。
鋭く。
「大気を巡る風よ――」
杖先で。
風が渦巻く。
「我が意志に従い――」
一本の。
鋭い槍へ。
「敵を――」
ミアが目を開く。
狙うのは。
ただ一点。
「貫け!」
「《ウィンド・ランス》!!」
風の槍が放たれた。
一直線に。
オーガの眉間。
リナが作った傷へ――
吸い込まれる。
ズドンッ!!
「グ――」
オーガの身体が止まった。
「……。」
「……。」
「……。」
三人が見つめる。
数秒。
ゆっくりと。
巨体が傾く。
そして――
ドォォォォォン!!
地面へ倒れた。
静寂。
誰も。
何も言わない。
「……。」
ヒルメが恐る恐る口を開く。
「倒した……?」
「……多分。」
ミアが答える。
リナが慎重にオーガを見る。
動かない。
再生も――
止まっている。
「……倒した。」
「本当?」
「……うん。」
リナが振り返る。
その瞬間。
ヒルメの顔が輝いた。
「やったあああああ!!」
「きゃっ!?」
勢いよくリナへ抱きつく。
「ちょっと!」
「リナ! 倒した!」
「分かった! 分かったから!」
「ミアも!」
「えっ?」
ヒルメがミアの腕を引っ張る。
「わっ!」
三人が一塊になる。
「やったね!」
ミアも笑う。
「三人で倒した!」
「ちょっと二人とも!」
「リナすごかった!」
「最後はミアでしょ!」
「リナが傷を作ったからだよ!」
「ヒルメが動きを止めてくれたから!」
「ミアが足を狙ってくれたから!」
「……。」
三人が顔を見合わせる。
そして。
「あははっ!」
誰からともなく。
笑い出した。
「もう……。」
リナも。
今度は隠さなかった。
嬉しそうに。
笑っていた。
「ワンッ!」
シロが駆け寄ってくる。
「シロ!」
ヒルメがしゃがみ込む。
「ちゃんと約束守ってくれたね。」
「ワン!」
「ありがとう。」
シロの頭を抱きしめる。
「クゥン。」
「でも。」
ヒルメが笑う。
「私たちだけで勝てたよ。」
「ワン!」
シロが尻尾を大きく振った。
まるで。
自分のことのように喜んでいる。
「……ねえ。」
リナがシロを見る。
「何?」
「やっぱりこの子、普通じゃないわよね?」
「可愛いよ?」
「そういう話じゃない!」
ミアが笑う。
「まあいいじゃん。」
「良くないわよ!」
「ヒルメもよく分かってないみたいだし。」
「そこが一番問題なの!」
「そのうち分かるよ。」
「適当すぎる!」
再び。
三人の笑い声が響いた。
その時だった。
「……あ。」
ミアが何かに気付く。
「どうしたの?」
「学院章。」
「……。」
「……。」
三人が固まる。
まだ。
実習は終わっていない。
「忘れてた!」
「忘れないでよ!」
「だってオーガが!」
「ほら、行くわよ!」
リナが歩き出す。
「最深部はすぐそこなんだから。」
「うん!」
「待って!」
ヒルメとミアが追いかける。
その途中。
リナが足を止めた。
「?」
ヒルメが首を傾げる。
「どうしたの?」
「……。」
リナは二人を見る。
そして。
ほんの少しだけ。
照れくさそうに視線を逸らした。
「さっきは……ありがと。」
「え?」
「何が?」
「……もういい!」
「なんで怒るの!?」
「知らない!」
リナが早足で歩き出す。
ミアがヒルメを見る。
「照れてる。」
「やっぱり?」
「聞こえてるわよ!」
「わっ!」
二人が笑いながら追いかける。
今度は。
リナも本気で置いていこうとはしなかった。
少しだけ歩調を緩めて。
二人が追いつくのを待っていた。
◇ ◇ ◇
それからしばらくして。
三人は最深部に置かれていた学院章を回収した。
帰り道には大きな問題もなく。
やがて――
迷宮の出口から差し込む光が見えてきた。
「出口!」
ヒルメが声を上げる。
「走らない!」
「分かってるって!」
「絶対走ろうとしたでしょ!」
「してないよ!」
「顔がしてた!」
「顔で分かるの!?」
「分かるようになってきた。」
「そんなところで仲良くならなくていいよ!」
ミアが笑う。
「もう仲良しじゃん。」
「……。」
ヒルメが止まった。
リナも。
「何?」
ミアが二人を見る。
ヒルメの顔が。
ゆっくり笑顔になる。
「そっか。」
「何が?」
「私たち、仲良しなんだ。」
「今さら?」
「うん。」
ヒルメは嬉しそうに笑う。
「なんかいいね。」
「……。」
リナが顔を逸らす。
「早く行くわよ。」
「また照れてる。」
「照れてない!」
「リナー。」
「その呼び方やめなさい!」
三人と一匹は。
笑いながら迷宮を出た。
◇ ◇ ◇
だが。
外へ出た瞬間。
「お前たち!」
カイルが駆け寄ってきた。
その顔には。
明らかな焦りが浮かんでいた。
「無事か!?」
「先生?」
ヒルメが目を瞬かせる。
「はい。」
「何ともないか!?」
「ちょっと疲れましたけど……。」
「怪我は!?」
「ないです。」
ミアも頷く。
「私も。」
リナも。
「大丈夫です。」
カイルが大きく息を吐いた。
「……よかった。」
その後ろから。
数人の教師たちがやってくる。
「転移石の反応が途中で消えた。」
「え?」
リナが腰の袋から青い石を取り出す。
「やっぱり壊れてたんですか?」
「見せろ。」
教師が受け取り。
魔力を流す。
青い光。
今度は――
正常に灯った。
「……。」
「……え?」
リナの表情が変わる。
「ちょっと待ってください。」
「中では何度やっても動かなかったんです。」
「間違いありません。」
「私も見たよ。」
ヒルメが言う。
「光ったと思ったら、すぐ消えました。」
教師たちが顔を見合わせる。
「……場所は?」
「三つ目の指定地点の少し手前です。」
「そこで何があった?」
「……。」
三人が顔を見合わせる。
「オーガが出ました。」
リナが答えた。
「……何?」
カイルの表情が固まる。
周囲にいた教師たちも。
「今、何と言った?」
「オーガです。」
「二本角の成体。」
「大斧を持っていました。」
「馬鹿な。」
一人の教師が即座に否定する。
「第一訓練迷宮にオーガなどいるはずがない。」
「でもいました。」
リナが真っ直ぐ教師を見る。
「私たち三人とも見ています。」
「倒れてるよ。」
ヒルメが言った。
「場所、案内できます。」
「倒れている?」
「はい。」
「……誰が倒した?」
三人が顔を見合わせる。
「私たちです。」
「……。」
沈黙。
「三人で?」
「はい。」
「オーガを?」
「はい。」
「……。」
教師たちが言葉を失う。
カイルがヒルメを見る。
次にミア。
最後にリナ。
「詳しく聞かせろ。」
「何があった。」
三人は。
迷宮で起きたことを話し始めた。
◇ ◇ ◇
その頃。
少し離れた場所。
貴族クラスの生徒たちが待機する一角。
セレスティアは。
教師たちに囲まれているヒルメたちを見ていた。
「……。」
その視線の先。
ヒルメが何かを説明している。
隣にはミア。
そしてリナ。
三人とも。
無事だった。
「……倒したのですね。」
誰にも聞こえないほど。
小さな声。
「セレスティア様?」
同じ班の生徒が振り返る。
「何か?」
「……いいえ。」
セレスティアはいつもの表情へ戻る。
「何でもありませんわ。」
そう答え。
視線を逸らす。
けれど。
その手は――
僅かに。
強く杖を握り締めていた。




