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異世界送魂師ヒルメ 〜葬儀社勤務だった私の送魂は、誰にも救えなかった魂を救っていく〜  作者: ケンボー


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42/66

三人で掴んだ勝利

◇ ◇ ◇



「来る!」


リナの声と同時に、オーガが地面を蹴った。


巨体からは想像できない速度だった。


「速っ――!」


ミアが目を見開く。


「避けて!」


三人が左右へ飛ぶ。


直後。


ドォォォン!!


巨大な斧が、先ほどまで三人が立っていた場所へ叩きつけられた。


石畳が砕け、破片が飛び散る。


「きゃっ!」


ヒルメが腕で顔を庇う。


「グオオオオッ!」


オーガが斧を持ち上げる。


「ヒルメ!」


「うん!」


杖を構える。


「聖なる光よ――我が祈りに応え、堅牢なる守護の牢獄となれ!」


光が集まる。


「《ガーディアン・プリズン》!」


ガァン!!


振り抜かれた斧を光の壁が受け止めた。


「くっ……!」


ヒルメが歯を食いしばる。


結界は壊れない。


だが――


「重い……!」


腕が痺れる。


魔法そのものが受けた衝撃が、僅かに術者へ伝わっている。


「ヒルメ、そのまま!」


リナが叫ぶ。


「ミア!」


「分かってる!」


ミアがオーガの側面へ回り込む。


杖を向ける。


「大気を巡る風よ――我が声に応え、敵を打ち払え!」


「《ウィンド・ショット》!」


バシュッ!


風の塊がオーガの脇腹へ直撃する。


「グオッ!」


巨体が僅かに揺れる。


「効いた!」


「全然よ!」


リナが叫ぶ。


見れば。


オーガの身体にはほとんど傷がない。


「硬すぎる……。」


ミアの顔が引きつる。


「だから普通に攻撃しても駄目なの!」


リナは必死に頭を回す。


オーガ。


強靭な肉体。


高い生命力。


多少の傷なら短時間で回復する再生能力。


正面から魔法を撃ち続けても、こちらの魔力が先に尽きる。


(どうする……。)


(どうすれば……。)


その時。


「グオオッ!」


オーガがヒルメの結界から離れた。


そして――


身体を反転させる。


「……え?」


向いた先には。


ミア。


「ミア!」


「っ!」


オーガが駆ける。


「こっち来た!?」


ミアが慌てて走り出す。


「逃げて!」


「逃げてる!」


巨大な斧が横薙ぎに振るわれる。


ミアが身を屈める。


ブォン!!


頭上を斧が通過した。


「ひぃっ!」


「ミア!」


ヒルメが杖を向ける。


「《ガーディアン・プリズン》!」


ミアとオーガの間へ光の壁が出現した。


ガァァン!!


「きゃっ!」


斧が弾かれる。


「ありがとう!」


「うん!」


「……待って。」


リナが呟いた。


今の動き。


オーガはヒルメではなく、ミアを追った。


「ミア!」


「何!?」


「そのまま走って!」


「ええ!?」


「オーガを引きつけて!」


「簡単に言わないでよ!」


文句を言いながらも、ミアは走る。


「グオオオッ!」


オーガが追う。


やはり。


速い。


だが小回りは利かない。


ミアが急激に方向を変えると、オーガは大きく身体を傾けなければ追えない。


「そういうこと……。」


リナの目が鋭くなる。


「力はある。」


「速さも思ったよりある。」


「でも――」


オーガが再び方向を変える。


その巨体が大きく揺れた。


「細かい動きは苦手。」


リナが杖を構える。


「ミア!」


「今度は何!?」


「右に走って!」


「右!?」


「早く!」


「もう!」


ミアが右へ駆ける。


オーガも追う。


「今度は左!」


「人使い荒すぎ!」


急旋回。


オーガの身体が大きく傾く。


「そこ!」


リナの杖先へ炎が集まる。


「炎よ――我が手に集いて、小さき火球となり敵を撃て!」


「《ファイア・ボール》!」


ボンッ!


炎がオーガの右膝へ直撃した。


「グオッ!」


オーガの足が止まる。


「膝……?」


ヒルメが気付く。


「そう。」


リナが頷く。


「倒せないなら、まず立てなくする。」


「ミア!」


「はいはい!」


「反対側!」


「分かった!」


ミアが杖を構える。


「大気を巡る風よ――!」


風が集まる。


「《ウィンド・ショット》!」


バシュッ!


今度は左膝。


「グオオオッ!」


オーガが怒りの咆哮を上げる。


だが。


倒れない。


「まだ足りない……。」


リナが歯を食いしばる。


「もう一度!」


その時だった。


オーガが突然。


ミアではなく――


リナを見た。


「……え?」


リナの背筋が凍る。


「グオオオオオッ!」


「リナ!」


オーガが一直線に突っ込んでくる。


「っ!」


リナの身体が動かない。


巨大な斧が振り上げられる。


「リナ!!」


ヒルメが駆け出す。


間に合わない。


その時――


「グルルルルル……。」


低い唸り声。


空気が変わった。


「……!」


オーガの動きが止まる。


ほんの一瞬。


シロを見た。


白い身体。


いつもと何も変わらない。


だが――


その周囲で。


僅かに空気が揺らいでいた。


「グルルルル……。」


シロが一歩前へ出る。


「……グ……。」


オーガが。


一歩――


後ずさった。


「え……?」


ミアが目を見開く。


リナも呆然とする。


「何……?」


シロの周囲へ、膨大な魔力が集まり始める。


「シロ!」


ヒルメの声。


シロの耳がぴくりと動く。


「まだ大丈夫!」


「……。」


「私たちでやるから。」


シロがヒルメを見る。


「約束したでしょ?」


「……クゥン。」


不満そうな声。


それでも。


シロの周囲に集まっていた魔力が、ゆっくりと消えていく。


オーガはそんなシロから目を離せずにいた。


本能が。


何かを感じ取っている。


自分より遥かに危険な――


何かを。


「……。」


リナがシロを見る。


次にヒルメを見る。


「ねえ。」


「何?」


「あの子……何なの?」


「シロ?」


「他に誰がいるのよ!」


「私もよく分かんない。」


「またそれ!?」


「後にして!」


「あなた本当に分からないこと多すぎるでしょ!」


その瞬間。


「グオオオッ!」


オーガが再び動いた。


「来る!」


ヒルメが結界を張る。


ガァン!!


「くっ!」


斧を受け止める。


「リナ!」


ヒルメが叫ぶ。


「どうする!?」


「……。」


リナはオーガを見る。


膝。


先ほど攻撃した部分。


ほんの僅かだが――


右足を庇っている。


「効いてる……。」


「え?」


「さっきの攻撃!」


リナの表情が変わる。


「ちゃんと効いてる!」


杖を握り直す。


「同じところを狙う!」


「分かった!」


「ミア!」


「右膝ね!」


「そう!」


ミアが走る。


「ヒルメはそのまま正面!」


「うん!」


「オーガの意識を引きつけて!」


「どうやって!?」


「何でもいい!」


「何でも!?」


ヒルメが考える。


そして。


結界の向こうにいるオーガを見る。


「……こっち!」


「グオ?」


「えっと……。」


何を言えばいい。


「こっちだよ!」


「グオオッ!」


斧が結界へ叩きつけられる。


ガァン!!


「うわっ!」


「できてる!」


リナが叫ぶ。


「本当にこれでいいの!?」


「いいから続けて!」


「こっちこっち!」


ガァン!


「きゃっ!」


「ヒルメ頑張って!」


ミアが笑う。


「なんで楽しそうなの!?」


「今!」


ミアが杖を向ける。


「《ウィンド・ショット》!」


バシュッ!!


風が右膝へ直撃する。


オーガの身体が揺れる。


「リナ!」


「分かってる!」


同じ場所。


一点だけ。


そこへ狙いを定める。


リナの得意なこと。


魔力量ではない。


威力でもない。


正確な制御。


「炎よ――我が手に集いて、小さき火球となり敵を撃て!」


杖先に火球が生まれる。


「《ファイア・ボール》!」


ボンッ!!


寸分違わず。


ミアが攻撃した場所へ重なる。


「グオオオオッ!!」


ついに。


オーガの右膝が地面についた。


ドンッ!


「やった!」


ヒルメが叫ぶ。


「まだ!」


リナはオーガを見る。


片膝をついた。


それでもまだ。


頭は高い。


そして――


「グオオオオオオオッ!!」


怒り狂ったオーガが斧を振り回す。


「危ない!」


三人が離れる。


ドォン!


ドォン!


ドォン!


周囲の岩が次々と砕ける。


「近づけない!」


ミアが叫ぶ。


リナも必死に考える。


(あと少しなのに……。)


(頭を狙えれば……。)


その時。


ヒルメが自分の結界を見る。


先ほど。


ミアを守るため。


離れた場所にも出せた。


なら――


「リナ。」


「何?」


「ちょっとやってみたいことがある。」


「何?」


「怒らない?」


「内容による。」


「多分怒る。」


「じゃあ駄目。」


「でもやる!」


「ちょっと!?」


ヒルメが杖を構える。


「聖なる光よ――我が祈りに応え、堅牢なる守護の牢獄となれ!」


光が集まる。


だが。


今度は三人の前ではない。


オーガの――


背後。


「《ガーディアン・プリズン》!」


光の壁が出現した。


「何するつもり!?」


「押す!」


「……は?」


「結界で!」


「そんな使い方できるの!?」


「分かんない!」


「分からないのにやるなぁぁぁ!」


ヒルメが杖を握り締める。


「動いて……!」


結界が震える。


「お願い……!」


ギギギ――


僅かに。


光の壁が動いた。


「……え?」


リナが固まる。


「動いた!」


ヒルメの顔が明るくなる。


「動いたじゃない!」


「自分で驚かないで!」


「もっと……!」


ヒルメが魔力を込める。


ズズズズッ――


光の壁が前へ進む。


オーガの背中へ接触する。


「グオッ!?」


「押して!」


ヒルメが叫ぶ。


結界がオーガの巨体を押す。


右膝を負傷しているオーガは踏ん張れない。


「グオオオッ!」


身体が前へ傾く。


「ミア!」


リナが叫ぶ。


「左足!」


「分かった!」


ミアが杖を構える。


「大気を巡る風よ――我が声に応え、敵を打ち払え!」


「《ウィンド・ショット》!」


バシュッ!!


左膝へ直撃。


「グオッ!」


両膝が崩れる。


そこへ――


「うううううっ!」


ヒルメが結界を押し込んだ。


ドォォォン!!


オーガが両手を地面につく。


頭が下がる。


「今!」


ヒルメが叫んだ。


リナが杖を構える。


だが――


「遠い……!」


この距離では。


自分の《ファイア・ボール》では威力が落ちる。


確実に仕留めるには。


もっと近く。


「なら!」


ヒルメがリナを見る。


「リナ!」


「何!?」


「飛ばすよ!」


「……何を?」


嫌な予感。


ヒルメが笑った。


「リナを!」


「はあ!?」


リナの背後。


光が生まれる。


「ちょっ――」


《ガーディアン・プリズン》。


光の壁。


「待ちなさい!」


「行って!」


「待てって言って――」


ドンッ!!


結界が前へ動く。


「きゃああああああっ!?」


リナの身体が押し出された。


「ヒルメぇぇぇぇぇぇ!!」


「ごめーん!!」


「後で絶対怒るからぁぁぁ!!」


だが。


一気に距離が縮まる。


目の前には。


オーガの頭。


「……もう!」


リナは空中で杖を構えた。


「やるしかないじゃない!」


魔力を集中させる。


広げない。


一点へ。


ただ。


一点へ。


炎が小さく。


強く。


凝縮されていく。


「炎よ――我が手に集いて、小さき火球となり敵を撃て!」


オーガが顔を上げる。


「グオ――」


「遅い!」


リナが杖先を。


その眉間へ向ける。


「《ファイア・ボール》!!」


ドォン!!


至近距離。


直撃。


「グオオオオオオオッ!!」


オーガの頭が大きく仰け反る。


「リナ!」


ミアが走る。


風を纏わせ。


落下してきたリナを受け止める。


「きゃっ!」


二人で地面を転がった。


「痛った……。」


「大丈夫!?」


「なんとか……。」


二人が顔を上げる。


オーガは――


まだ立っていた。


いや。


立とうとしている。


「嘘……。」


リナの顔が青ざめる。


「まだ倒れないの……?」


眉間には。


確かに傷がある。


だが。


それだけ。


「そんな……。」


その傷が。


少しずつ塞がっていく。


「再生……。」


リナが呟く。


「間に合わない……。」


もう一度同じ攻撃をする余力は。


ほとんど残っていない。


その時。


「リナ!」


ヒルメが叫んだ。


「何!?」


「そこ!」


ヒルメがオーガの眉間を指差す。


「傷!」


「分かってる!」


「違う!」


「まだ完全に治ってない!」


「……!」


リナが目を見開く。


「ミア!」


二人が同時にミアを見る。


「え?」


「同じところ!」


リナが叫ぶ。


「私じゃもう火力が足りない!」


「だからミア!」


「……分かった!」


ミアが立ち上がる。


杖を両手で握る。


「でも《ウィンド・ショット》じゃ……。」


「もっと細く!」


リナが叫ぶ。


「え?」


「広げないで!」


「一点だけ!」


「傷のところだけ狙うの!」


「……。」


ミアが息を吸う。


目を閉じる。


風を集める。


いつものように。


塊にするのではない。


細く。


もっと細く。


鋭く。


「大気を巡る風よ――」


杖先で。


風が渦巻く。


「我が意志に従い――」


一本の。


鋭い槍へ。


「敵を――」


ミアが目を開く。


狙うのは。


ただ一点。


「貫け!」


「《ウィンド・ランス》!!」


風の槍が放たれた。


一直線に。


オーガの眉間。


リナが作った傷へ――


吸い込まれる。


ズドンッ!!


「グ――」


オーガの身体が止まった。


「……。」


「……。」


「……。」


三人が見つめる。


数秒。


ゆっくりと。


巨体が傾く。


そして――


ドォォォォォン!!


地面へ倒れた。


静寂。


誰も。


何も言わない。


「……。」


ヒルメが恐る恐る口を開く。


「倒した……?」


「……多分。」


ミアが答える。


リナが慎重にオーガを見る。


動かない。


再生も――


止まっている。


「……倒した。」


「本当?」


「……うん。」


リナが振り返る。


その瞬間。


ヒルメの顔が輝いた。


「やったあああああ!!」


「きゃっ!?」


勢いよくリナへ抱きつく。


「ちょっと!」


「リナ! 倒した!」


「分かった! 分かったから!」


「ミアも!」


「えっ?」


ヒルメがミアの腕を引っ張る。


「わっ!」


三人が一塊になる。


「やったね!」


ミアも笑う。


「三人で倒した!」


「ちょっと二人とも!」


「リナすごかった!」


「最後はミアでしょ!」


「リナが傷を作ったからだよ!」


「ヒルメが動きを止めてくれたから!」


「ミアが足を狙ってくれたから!」


「……。」


三人が顔を見合わせる。


そして。


「あははっ!」


誰からともなく。


笑い出した。


「もう……。」


リナも。


今度は隠さなかった。


嬉しそうに。


笑っていた。


「ワンッ!」


シロが駆け寄ってくる。


「シロ!」


ヒルメがしゃがみ込む。


「ちゃんと約束守ってくれたね。」


「ワン!」


「ありがとう。」


シロの頭を抱きしめる。


「クゥン。」


「でも。」


ヒルメが笑う。


「私たちだけで勝てたよ。」


「ワン!」


シロが尻尾を大きく振った。


まるで。


自分のことのように喜んでいる。


「……ねえ。」


リナがシロを見る。


「何?」


「やっぱりこの子、普通じゃないわよね?」


「可愛いよ?」


「そういう話じゃない!」


ミアが笑う。


「まあいいじゃん。」


「良くないわよ!」


「ヒルメもよく分かってないみたいだし。」


「そこが一番問題なの!」


「そのうち分かるよ。」


「適当すぎる!」


再び。


三人の笑い声が響いた。


その時だった。


「……あ。」


ミアが何かに気付く。


「どうしたの?」


「学院章。」


「……。」


「……。」


三人が固まる。


まだ。


実習は終わっていない。


「忘れてた!」


「忘れないでよ!」


「だってオーガが!」


「ほら、行くわよ!」


リナが歩き出す。


「最深部はすぐそこなんだから。」


「うん!」


「待って!」


ヒルメとミアが追いかける。


その途中。


リナが足を止めた。


「?」


ヒルメが首を傾げる。


「どうしたの?」


「……。」


リナは二人を見る。


そして。


ほんの少しだけ。


照れくさそうに視線を逸らした。


「さっきは……ありがと。」


「え?」


「何が?」


「……もういい!」


「なんで怒るの!?」


「知らない!」


リナが早足で歩き出す。


ミアがヒルメを見る。


「照れてる。」


「やっぱり?」


「聞こえてるわよ!」


「わっ!」


二人が笑いながら追いかける。


今度は。


リナも本気で置いていこうとはしなかった。


少しだけ歩調を緩めて。


二人が追いつくのを待っていた。



◇ ◇ ◇



それからしばらくして。


三人は最深部に置かれていた学院章を回収した。


帰り道には大きな問題もなく。


やがて――


迷宮の出口から差し込む光が見えてきた。


「出口!」


ヒルメが声を上げる。


「走らない!」


「分かってるって!」


「絶対走ろうとしたでしょ!」


「してないよ!」


「顔がしてた!」


「顔で分かるの!?」


「分かるようになってきた。」


「そんなところで仲良くならなくていいよ!」


ミアが笑う。


「もう仲良しじゃん。」


「……。」


ヒルメが止まった。


リナも。


「何?」


ミアが二人を見る。


ヒルメの顔が。


ゆっくり笑顔になる。


「そっか。」


「何が?」


「私たち、仲良しなんだ。」


「今さら?」


「うん。」


ヒルメは嬉しそうに笑う。


「なんかいいね。」


「……。」


リナが顔を逸らす。


「早く行くわよ。」


「また照れてる。」


「照れてない!」


「リナー。」


「その呼び方やめなさい!」


三人と一匹は。


笑いながら迷宮を出た。



◇ ◇ ◇



だが。


外へ出た瞬間。


「お前たち!」


カイルが駆け寄ってきた。


その顔には。


明らかな焦りが浮かんでいた。


「無事か!?」


「先生?」


ヒルメが目を瞬かせる。


「はい。」


「何ともないか!?」


「ちょっと疲れましたけど……。」


「怪我は!?」


「ないです。」


ミアも頷く。


「私も。」


リナも。


「大丈夫です。」


カイルが大きく息を吐いた。


「……よかった。」


その後ろから。


数人の教師たちがやってくる。


「転移石の反応が途中で消えた。」


「え?」


リナが腰の袋から青い石を取り出す。


「やっぱり壊れてたんですか?」


「見せろ。」


教師が受け取り。


魔力を流す。


青い光。


今度は――


正常に灯った。


「……。」


「……え?」


リナの表情が変わる。


「ちょっと待ってください。」


「中では何度やっても動かなかったんです。」


「間違いありません。」


「私も見たよ。」


ヒルメが言う。


「光ったと思ったら、すぐ消えました。」


教師たちが顔を見合わせる。


「……場所は?」


「三つ目の指定地点の少し手前です。」


「そこで何があった?」


「……。」


三人が顔を見合わせる。


「オーガが出ました。」


リナが答えた。


「……何?」


カイルの表情が固まる。


周囲にいた教師たちも。


「今、何と言った?」


「オーガです。」


「二本角の成体。」


「大斧を持っていました。」


「馬鹿な。」


一人の教師が即座に否定する。


「第一訓練迷宮にオーガなどいるはずがない。」


「でもいました。」


リナが真っ直ぐ教師を見る。


「私たち三人とも見ています。」


「倒れてるよ。」


ヒルメが言った。


「場所、案内できます。」


「倒れている?」


「はい。」


「……誰が倒した?」


三人が顔を見合わせる。


「私たちです。」


「……。」


沈黙。


「三人で?」


「はい。」


「オーガを?」


「はい。」


「……。」


教師たちが言葉を失う。


カイルがヒルメを見る。


次にミア。


最後にリナ。


「詳しく聞かせろ。」


「何があった。」


三人は。


迷宮で起きたことを話し始めた。



◇ ◇ ◇



その頃。


少し離れた場所。


貴族クラスの生徒たちが待機する一角。


セレスティアは。


教師たちに囲まれているヒルメたちを見ていた。


「……。」


その視線の先。


ヒルメが何かを説明している。


隣にはミア。


そしてリナ。


三人とも。


無事だった。


「……倒したのですね。」


誰にも聞こえないほど。


小さな声。


「セレスティア様?」


同じ班の生徒が振り返る。


「何か?」


「……いいえ。」


セレスティアはいつもの表情へ戻る。


「何でもありませんわ。」


そう答え。


視線を逸らす。


けれど。


その手は――


僅かに。


強く杖を握り締めていた。

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