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異世界送魂師ヒルメ 〜葬儀社勤務だった私の送魂は、誰にも救えなかった魂を救っていく〜  作者: ケンボー


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いるはずのない魔物

◇ ◇ ◇



迷宮へ足を踏み入れてから、十分ほど。


「……思ってたより普通だね。」


ヒルメは周囲を見回しながら呟いた。


岩肌が剥き出しになった通路。


一定間隔で壁に取り付けられた魔導灯が、薄暗い迷宮の中を照らしている。


道幅も広く、三人並んで歩いても余裕がある。


「何を想像してたのよ。」


先頭を歩くリナが振り返る。


「もっとこう……。」


ヒルメは両手を広げた。


「暗くて!」


「うん。」


「怖くて!」


「うん。」


「魔物がいっぱい襲ってくる感じ!」


「帰る?」


「なんで!?」


「そんなに危険な場所へ行きたいなら止めないけど。」


「そういう意味じゃないよ!」


後ろを歩いていたミアが笑う。


「でもちょっと分かるかも。」


「でしょ?」


「初めての迷宮だしね。」


「ミアまで……。」


リナがため息を吐く。


「ここは学院が管理してる訓練迷宮なの。」


「普通の迷宮と違って、定期的に教師や冒険者が内部を確認してる。」


「危険な魔物が入り込んでないかもね。」


「へえ……。」


「だから低級の魔物しかいないのよ。」


ヒルメが頷く。


「じゃあ安心だね。」


「だからって油断しない。」


「はい。」


「敬語。」


「うん。」


「ワン!」


「シロは分かってる?」


「ワウ!」


元気よく返事をしたシロが、三人より少し前を歩いていく。


「シロ、あんまり先行っちゃ駄目だよ。」


「ワン!」


「返事だけはいいのよね。」


リナが呟く。


「ヒルメと一緒。」


「どういう意味!?」


ミアが吹き出した。


「似てるかも。」


「ミアまで!」


そんな話をしながら歩いていると――


シロが突然立ち止まった。


「……グル。」


「シロ?」


耳を立てる。


暗い通路の先を見つめ、低く唸った。


三人の表情が変わる。


「何かいる。」


リナが杖を抜く。


ヒルメとミアも続いた。


「グギャ……。」


暗闇から声が聞こえる。


やがて。


二つの小さな影が魔導灯の下へ姿を現した。


緑色の肌。


小柄な身体。


手には粗末な棍棒。


「ゴブリン。」


リナが小さく呟く。


ヒルメが杖を握り締めた。


初めて見る。


旅の途中で魔物に遭遇したことはある。


けれど。


こうして自分たちだけで戦うのは初めてだった。


「二体ね。」


リナはゴブリンから目を離さない。


「ミア。」


「うん。」


「右お願い。」


「分かった。」


「ヒルメは――」


「左?」


「防御。」


「……。」


「何その顔。」


「私も戦いたい。」


「戦ってるでしょ。防御で。」


「攻撃したい。」


「使えるの?」


「《ライト・ボール》。」


「却下。」


「早くない!?」


「威力の調整できないでしょ。」


「できます!」


「この前、的ごと壁を壊しかけたの誰?」


「……私です。」


「なら防御。」


「はい……。」


「だから敬語。」


「もう!」


その時。


「ギャアッ!」


ゴブリンが駆け出した。


「来る!」


ミアが杖を向ける。


「大気を巡る風よ――我が声に応え、敵を打ち払え!」


杖先へ風が集まる。


「《ウィンド・ショット》!」


バシュッ!


圧縮された風がゴブリンへ直撃する。


「ギャッ!」


一体が横へ吹き飛んだ。


だが。


もう一体はそのままヒルメへ突っ込んでくる。


「ヒルメ!」


「分かってる!」


ヒルメが杖を両手で構える。


息を吸う。


「聖なる光よ――我が祈りに応え、堅牢なる守護の牢獄となれ!」


淡い光が杖先から溢れ出す。


「《ガーディアン・プリズン》!」


瞬間。


ヒルメの前に巨大な光の壁が出現した。


ガァン!!


ゴブリンの棍棒が結界へ叩きつけられる。


そして――


弾かれた。


「ギャッ!?」


ゴブリンがよろめく。


「……。」


「……。」


ミアとリナが固まっていた。


「今!」


ヒルメが叫ぶ。


だが。


二人から返事がない。


「リナ!?」


「……え?」


「今だよ!」


「あっ!」


リナが我に返る。


「炎よ――我が手に集いて、小さき火球となり敵を撃て!」


炎が杖先へ集まる。


「《ファイア・ボール》!」


ボンッ!


火球がゴブリンへ直撃した。


「ギャアッ!」


ゴブリンが倒れる。


先ほどミアが吹き飛ばした一体も起き上がろうとしていたが――


「もう一回!」


「《ウィンド・ショット》!」


風の塊が直撃。


ゴブリンはそのまま動かなくなった。


「……。」


静寂。


ヒルメが恐る恐る顔を出す。


「倒した?」


「うん。」


ミアが頷く。


「倒した……と思う。」


「やった!」


ヒルメの顔が明るくなる。


「三人で倒したよ!」


「ワン!」


「シロも!」


「シロ何もしてないじゃない。」


リナが言う。


「ワウ!?」


「応援してくれたよ。」


「それ戦力に数えるの?」


「大事だよ。」


「……まあいいけど。」


そう言いながら。


リナは先ほどヒルメが作り出した結界を見る。


まだ光の壁が残っていた。


「……ねえ。」


「何?」


「それ。」


リナが指差す。


「え?」


「その結界。」


ミアも近づいてくる。


「私も気になってた。」


「何、この魔法?」


「……。」


ヒルメが自分の結界を見る。


「《ガーディアン・プリズン》だけど。」


「名前を聞いてるんじゃないわよ。」


「え?」


「こんな光属性魔法、授業で習ってない。」


リナが結界へ手を伸ばす。


触れた瞬間。


「……硬い。」


軽く魔力をぶつける。


それでもびくともしない。


「ちょっと待って。」


リナの表情が変わる。


「これ、どれくらいの強度なの?」


「分かんない。」


「分からない!?」


「だって……。」


ヒルメが困ったように頭を掻く。


「壊されたことないし。」


「……。」


「……。」


リナとミアが顔を見合わせた。


「ヒルメ。」


「何?」


「これ、どこで覚えたの?」


「えっと……。」


ヒルメは少し考える。


エルドから言われていたことを思い出した。


学院で神聖魔法について聞かれた場合。


一般的なものは光属性魔法として扱う。


そして――


明らかに通常の光属性魔法では説明できないものについては。


「固有魔法……らしいよ。」


「……らしい?」


リナの眉が動いた。


「うん。」


「自分の固有魔法なのに?」


「学院に来てからそう言われたから。」


「……。」


「私もよく分かってなくて。」


リナが頭を抱えた。


「あなた本当に自分のこと何も知らないのね。」


「だから旅してるんだよ!」


「あ。」


「忘れてた?」


「ちょっと。」


「ひどい!」


ミアが結界を眺める。


「でもすごいね。」


「こんな固有魔法初めて見た。」


「そうなの?」


「固有魔法自体、そんなに多くないから。」


リナが答える。


「生まれ持った魔力の性質だったり、血筋だったり。」


「普通の属性魔法とは違って、その人にしか使えない魔法。」


「へえ……。」


「なんで自分の魔法なのに私が説明してるのよ。」


「リナ詳しいから。」


「褒めても何も出ないわよ。」


「褒めてるよ?」


「……。」


リナが少しだけ顔を逸らす。


ミアが笑った。


「照れてる?」


「照れてない!」


「顔赤いよ。」


「火魔法使ったから!」


「関係あるの?」


「ある!」


ヒルメも笑う。


その隣で。


シロが大きく尻尾を振った。


「ワン!」


迷宮の奥へ。


三人の笑い声が響いていった。



◇ ◇ ◇



それからの探索は――


思っていた以上に順調だった。


「ヒルメ!」


「え?」


「止まって!」


ぴたり。


ヒルメの足が止まる。


「何?」


リナがヒルメの足元を指差した。


一枚だけ。


周囲とは僅かに色の違う石。


「罠。」


「……。」


ヒルメがゆっくり足を戻す。


リナがしゃがみ込み、石を確認する。


「踏んだら多分、壁から矢。」


「……危なかった。」


「だから足元見なさいって言ったでしょ。」


「見てたよ。」


「見てたら踏まない。」


「まだ踏んでないよ!」


「私が止めたからでしょ!」


ミアが指を一本立てた。


「一回目。」


「数えなくていいよ!」


さらに進む。


分かれ道。


「こっちだね。」


ヒルメが右へ進む。


「ヒルメ。」


「何?」


「左。」


「……。」


「地図見た?」


「見た。」


「逆さまよ。」


「……。」


ミアが指を二本立てる。


「二回目。」


「これは罠じゃない!」


「迷子になりかけた。」


「なってないよ!」


さらに進む。


「この先かな?」


「ヒルメ。」


「今度は何!?」


「頭。」


「え?」


ゴンッ。


「痛っ!」


低く突き出た岩へ額をぶつけた。


「……。」


「……。」


リナが無言でヒルメを見る。


ミアが指を三本立てる。


「三回目。」


「今のは絶対違うでしょ!」


「あなた本当に一人で旅してたの?」


リナが呆れた顔をする。


「シロがいたもん。」


「ワン!」


「なるほど。」


「納得しないで!」


迷宮の中に。


また三人の笑い声が響いた。



◇ ◇ ◇



二つ目の指定地点を通過したところで。


「少し休みましょ。」


リナが言った。


広めの空間。


魔物の気配もない。


「賛成……。」


ヒルメは壁際へ座り込んだ。


「疲れた……。」


「あなた無駄に動きすぎなのよ。」


「だって色々あるから。」


「大体あなたが勝手に色々起こしてるの。」


ミアもヒルメの隣へ座る。


「でも楽しいね。」


「うん。」


「……。」


リナだけが立っている。


ヒルメが自分の隣を叩いた。


「リナも座ろ。」


「私は平気。」


「いいから。」


「子供じゃないんだから。」


「友達なんだからいいじゃん。」


「……。」


リナの動きが止まった。


「何?」


「……まだそれ言ってるの?」


「昨日決まったでしょ?」


「私、了承した覚えないんだけど。」


「手重ねたじゃん。」


「あれはあなたたちがしつこいから!」


ミアが反対側を叩く。


「まあ座りなよ。」


「……。」


リナは少し迷った後。


二人の間へ腰を下ろした。


ヒルメが鞄を開ける。


「パン食べる?」


「持ってる。」


「これ美味しいよ。」


「だから――」


「半分あげる。」


「人の話聞きなさいよ。」


そう言いながら。


リナは受け取った。


「ありがとう。」


「どういたしまして。」


「なんで渡した方が言うのよ。」


ミアが吹き出す。


三人で並んでパンを食べる。


シロもヒルメの足元で干し肉を噛んでいる。


しばらく。


誰も何も言わなかった。


けれど。


ヒルメは朝から気になっていたことを思い出す。


「ねえ、リナ。」


「何?」


「朝の子たち。」


リナの手が止まった。


ミアがヒルメを見る。


「ヒルメ。」


「聞かない方がいい?」


「……別にいいわよ。」


リナが小さく息を吐く。


「いつものことだから。」


「いつも?」


「私、昔からあんまり好かれないの。」


ヒルメが眉を寄せる。


「なんで?」


「……本気で分からないの?」


「うん。」


「即答されると、それはそれで腹立つわね。」


「なんで!?」


リナがパンを見つめる。


「昔からね。」


「間違ってるのを見ると、言っちゃうのよ。」


「魔法でも勉強でも。」


「そのままやったら失敗するって分かってるのに、黙ってるの嫌だから。」


「うん。」


「でも。」


少しだけ声が小さくなる。


「言い方がきついとか。」


「偉そうとか。」


「余計なお世話だとか。」


「そういうこと、よく言われた。」


「……。」


「だから最近は必要以上に関わらないようにしてる。」


リナは軽く肩をすくめる。


「その方がお互い楽でしょ。」


ヒルメは黙ってリナを見る。


そして。


「でもリナ。」


「何?」


「私にはいっぱい言うよね。」


「……。」


ミアが吹き出した。


「確かに。」


「だってヒルメは放っておいたら何するか分からないから!」


「それって心配してくれてるんでしょ?」


「違う!」


「違うの?」


「……。」


リナが詰まる。


ミアが笑う。


「リナってさ。」


「何よ。」


「言い方が下手なんだよ。」


「あなたまで!?」


「でも最近分かった。」


ミアが続ける。


「別に嫌味で言ってるわけじゃないんだよね。」


「……。」


「ちゃんと周り見てるし。」


「今日だってヒルメが罠踏みそうになったら、一番に気付いたじゃん。」


「それは……。」


「ありがとう、リナ。」


「……。」


「だから。」


ヒルメが笑う。


「今は友達二人いるから大丈夫だよ。」


「……。」


リナが固まる。


「何が?」


「友達。」


「誰と誰?」


「私とミア。」


「私も友達だと思ってるよ。」


「……。」


リナは二人を交互に見る。


「勝手に決めないで。」


「嫌?」


「そういう意味じゃない。」


「じゃあ友達。」


「だから!」


「決まり!」


「人の話を聞きなさい!」


三人が笑う。


リナも何か言おうとして。


結局。


小さく笑った。


「……馬鹿みたい。」


「リナも笑ってるよ。」


「笑ってない。」


「笑ってた!」


「見間違い。」


「絶対笑ってた!」


「うるさい!」


その声は。


今までより少しだけ。


楽しそうだった。



◇ ◇ ◇



休憩を終え。


三人は最深部を目指して歩き始めた。


「あと少し。」


リナが地図を見る。


「この先の広間を抜ければ三つ目の指定地点。」


「その先が最深部ね。」


ミアが確認する。


「学院章!」


ヒルメが目を輝かせる。


「走らない。」


「まだ走ってないよ。」


「先に言ってるの。」


「信用ないなあ。」


「今日だけで三回やらかしてるから。」


「二回だよ!」


「岩にぶつかったのも入れる。」


「入れないで!」


そんな話をしながら。


広間へ足を踏み入れた――


その時だった。


「……。」


シロが止まった。


「シロ?」


返事がない。


「グルルルル……。」


低い。


今まで聞いたことのない唸り声。


背中の毛が逆立っている。


ヒルメの表情から笑みが消えた。


「どうしたの?」


「……何かいる。」


ミアも杖を構える。


リナが周囲を見る。


「魔物?」


「グルルルル……!」


シロは一点を見つめている。


広間の奥。


魔導灯の光が届かない暗闇。


ズン――


音がした。


「……え?」


ズン。


今度は。


地面が僅かに揺れた。


ズン。


ズン。


何かが歩いている。


「ゴブリン……じゃないよね?」


ヒルメが小さく呟く。


「ゴブリンで地面が揺れるわけないでしょ。」


リナの声にも緊張が混ざっている。


やがて。


暗闇の中から。


巨大な足が現れた。


次に。


太い腕。


岩のように盛り上がった筋肉。


そして。


頭部から伸びる二本の角。


その手には――


巨大な斧。


「……。」


ミアが息を呑む。


ヒルメも動けない。


ただ一人。


その魔物が何なのか知っていたリナの顔から。


一気に血の気が引いた。


「……嘘。」


「リナ?」


「なんで……。」


一歩。


リナが後ずさる。


「なんでオーガがいるのよ……。」


「オーガ?」


ヒルメが聞き返す。


「ここに出る魔物じゃない!」


リナが叫んだ。


「私たちが戦っていい相手でもない!」


その声に反応したのか。


オーガが三人を見た。


そして――


「グオオオオオオオオオオッ!!」


凄まじい咆哮が広間を震わせた。


「っ!」


ヒルメたちが耳を塞ぐ。


「逃げるわよ!」


リナが叫ぶ。


三人が一斉に来た道へ振り返る。


だが――


オーガが巨大な斧を振り上げた。


「危ない!」


ヒルメが咄嗟に杖を構える。


「聖なる光よ――我が祈りに応え、堅牢なる守護の牢獄となれ!」


光が溢れる。


「《ガーディアン・プリズン》!!」


直後。


巨大な斧が振り下ろされた。


ガァァァァァン!!


「きゃっ!」


凄まじい衝撃。


光の結界が大きく震える。


ヒルメの腕にも衝撃が伝わった。


「くっ……!」


それでも。


結界は――


壊れない。


「……え?」


ミアが目を見開く。


リナも。


オーガの斧と。


それを真正面から受け止めた光の壁を交互に見る。


「ちょっと……。」


リナが呆然と呟いた。


「その固有魔法……。」


「どれだけ硬いのよ……。」


「私にも分かんない!」


「なんで自分の魔法なのに分からないのよ!」


「今それ言ってる場合!?」


「それはそうだけど!」


オーガが斧を引く。


「グオオオッ!」


「また来る!」


ヒルメが叫ぶ。


リナが我に返った。


「転移石!」


腰の袋へ手を入れる。


青い石を取り出し。


強く握る。


「先生たちを呼ぶ!」


魔力を流す。


石が光る。


だが――


「……え?」


光が。


消えた。


「リナ?」


「待って。」


もう一度。


魔力を流す。


反応しない。


「……なんで?」


リナの顔が青ざめる。


「壊れてる……。」


「え?」


「転移石が作動しない!」


三人の表情が固まった。


目の前には。


本来いるはずのない魔物。


そして。


使えない緊急転移石。


「……。」


ヒルメはオーガを見る。


その背後。


崩れかけた岩壁。


逃げ道は――


ほとんどない。


「どうするの……?」


ミアが呟く。


リナは答えられない。


その手が。


僅かに震えていた。


ヒルメはそれに気付いた。


怖い。


自分だって怖い。


けれど。


ヒルメは杖を強く握る。


そして。


リナを見る。


「リナ。」


「……何?」


「オーガの弱点、知ってる?」


「……え?」


「私、知らない。」


ヒルメはミアを見る。


「ミアは?」


「……私も。」


ヒルメがもう一度リナを見る。


「だから教えて。」


「何言ってるの……。」


「三人で倒そう。」


「無茶よ!」


リナが声を荒らげる。


「オーガなのよ!?」


「私たちが相手にするような魔物じゃ――」


「でも。」


ヒルメが遮った。


「逃げられない。」


「……。」


「だったら。」


ヒルメはリナへ手を差し出した。


「三人でやろう。」


ミアも。


一歩前へ出る。


「私もやる。」


「……。」


リナは二人を見る。


昨日。


勝手に友達だと言ってきた二人。


さっきも。


当たり前のように隣に座っていた二人。


そして今。


怖いはずなのに。


自分を見ている。


「……ほんっと。」


リナは震える手を握り締めた。


大きく息を吸う。


そして――


オーガを睨んだ。


「馬鹿なんだから。」


杖を構える。


「分かった。」


その声から。


震えが消える。


「私が指示する。」


ヒルメとミアが頷いた。


「うん!」


「任せた!」


「絶対に勝手なことしないでよ。」


リナが言う。


「特にヒルメ。」


「なんで私だけ!?」


「返事!」


「はい!」


「敬語!」


「今はどっちでもいいでしょ!」


「グオオオオオッ!!」


再び。


オーガが斧を振り上げる。


リナの目が鋭くなる。


「来る!」


三人が散開した。


ここから――


三人にとって初めての。


本当の戦いが始まった。

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