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異世界送魂師ヒルメ 〜葬儀社勤務だった私の送魂は、誰にも救えなかった魂を救っていく〜  作者: ケンボー


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32/66

王女を蝕むもの

(やっぱり……。)


(この人の中に、何かある。)


ヒルメは少女から目を離せなかった。


「どうしました?」


視線に気付いた少女が、不思議そうに首を傾げる。


「あっ……。」


ヒルメは慌てて首を振った。


「す、すみません。」


(じっと見すぎちゃった……。)


(失礼だったよね。)


少女は気にした様子もなく、柔らかく微笑んだ。


「構いませんよ。」


そのまま空いている席へ腰掛けようとする。


しかし――


「……っ。」


僅かに身体がふらついた。


すぐ傍にいた侍女が、その身体を支える。


「姫様。」


「大丈夫です。」


少女は申し訳なさそうに笑った。


「少し立ち眩みがしただけですから。」


「無理をするな。」


王が心配そうに声を掛ける。


「今日は部屋で休んでいてもよかったのだぞ。」


「嫌です。」


少女は珍しくきっぱりと答えた。


「せっかくお兄様から面白い方がいらしていると聞いたのです。」


「おい。」


レオンが眉を寄せる。


「私は面白い方とは言っていないぞ。」


「では、変わった方でしたか?」


「それも本人の前で言うものではない。」


「えっ。」


ヒルメがレオンを見る。


「私、変わってるんですか?」


「いや、そういう意味では――」


「ははははっ!」


王が豪快に笑う。


「変わっておるだろう!」


「お父様。」


「王様まで……。」


ヒルメが少し頬を膨らませる。


少女は口元へ手を添えて、小さく笑った。


「ふふっ。」


先ほどまで少し重くなっていた空気が和らぐ。


少女は侍女に礼を言うと、ゆっくりと椅子へ腰掛けた。


「改めまして。」


少女はヒルメへ向き直る。


「初めまして。」


「お話は兄から少し伺っています。」


「は、初めまして!」


ヒルメも慌てて頭を下げる。


「ヒルメです。」


「こっちはシロです。」


「ワン!」


少女の表情がぱっと明るくなる。


「まあ……!」


「可愛い。」


「ワウ?」


シロが少女を見上げる。


「触れても?」


「もちろんです。」


少女は嬉しそうに手を伸ばした。


だが、その手がシロへ届く直前――


「……っ。」


再び小さく息を詰まらせる。


手を胸元へ戻し、呼吸を整える。


「大丈夫ですか?」


ヒルメが思わず立ち上がる。


「ええ。」


少女は笑顔を作る。


「いつものことですから。」


「いつもの……。」


ヒルメは少女を見つめた。


(やっぱり病気なんだ……。)


顔色も良くない。


身体も細い。


少し動いただけで息が上がっている。


けれど――


(それだけじゃない気がする。)


先ほどから感じている違和感。


少女の身体に、何か別のものが混ざっている。


ヒルメは無意識に意識を集中させた。


(どこから……?)


少女の身体を覆う魔力。


その中に混ざる、僅かな淀み。


視線を辿っていく。


そして――


少女の胸元で止まった。


銀細工の首飾り。


中央には淡い紫色の宝石が嵌め込まれている。


「……。」


(これ……?)


ヒルメは目を細める。


少女の身体から感じる違和感。


首飾りへ近づくほど、それが濃くなっているような気がする。


「ヒルメさん?」


「えっ?」


「先ほどから、こちらを見ていますけれど。」


少女が自分の胸元を見る。


「この首飾りが気になりますか?」


「え、えっと……。」


(どうしよう。)


(いきなり変な感じがしますなんて言えないよね……。)


「綺麗だなって……。」


少女は嬉しそうに微笑んだ。


「ありがとうございます。」


そっと宝石へ触れる。


「ずっと大切にしているものなんです。」


「ずっと?」


「はい。」


「もう随分前にいただいたものですから。」


「そうなんですね……。」


ヒルメは首飾りを見つめる。


(随分前……。)


その時、王が口を開いた。


「この子も昔は活発な娘でな。」


「お父様。」


「よいではないか。」


王は少し寂しそうに笑う。


「城中を走り回って、何度侍女たちを困らせたことか。」


「そんなに?」


ヒルメが少女を見る。


「お父様、大袈裟です。」


「大袈裟なものか。」


レオンも笑う。


「私も何度付き合わされたことか。」


「お兄様まで。」


少女は恥ずかしそうに頬を染める。


「学院でも随分と優秀だったのじゃぞ。」


王がどこか誇らしそうに言う。


「魔法も学問も常に上位。」


「教師たちからも将来を期待されておった。」


「すごい……。」


ヒルメは素直に感心する。


少女は困ったように笑った。


「昔の話です。」


「昔?」


「はい。」


少女の表情が少しだけ曇る。


「数年前から、少しずつ身体を悪くしてしまって。」


「最初は疲れやすくなっただけだったんです。」


「でも、だんだん熱を出すことが増えて……。」


「少し歩くだけでも息が苦しくなるようになりました。」


ヒルメは黙って聞いていた。


「それで学院も?」


「はい。」


少女は小さく頷く。


「今はお休みしています。」


「……。」


「王宮の医師にも診せた。」


王が続ける。


「治癒魔法に長けた者も国内外から呼んだ。」


「だが――」


王の表情が曇る。


「誰一人として原因を突き止められなかった。」


「そう……なんですか。」


ヒルメはもう一度少女を見る。


(数年前から……。)


そして首飾りを見る。


(でも、これはもっと前から持ってる。)


だから誰も疑わなかったのだろう。


ヒルメ自身も、本当にこれが原因なのかは分からない。


ただ――


(気になる。)


どうしても気になる。


「……あの。」


「はい?」


「一つ、お願いしてもいいですか?」


少女が首を傾げる。


「何でしょう?」


ヒルメは少し迷ってから、首飾りを指差した。


「それ……。」


「一度、外してもらってもいいですか?」


「これを?」


「はい。」


レオンとエルドの視線がヒルメへ向く。


王も黙ってヒルメを見た。


「どうしてです?」


「……分からないんです。」


「分からない?」


「はい。」


ヒルメは困ったように眉を下げる。


「これが原因なのかは、私にも分かりません。」


「ただ……さっきから気になってて。」


ヒルメは少女と首飾りを交互に見る。


「あなたから感じる変なものと……。」


「その首飾りから感じるものが、似てる気がするんです。」


「変なもの……。」


少女は胸元へ手を添えた。


王の表情から――


ほんの一瞬だけ笑みが消えた。


「……その首飾りか。」


低い声だった。


ヒルメが王を見る。


「王様?」


「いや。」


王はすぐにいつもの表情へ戻る。


「続けてくれ。」


「……?」


(今、なんか……。)


気にはなった。


だが、ヒルメはそれ以上聞かなかった。


エルドが首飾りを見つめる。


「姫様。」


「一度、外してみてはいかがですかな。」


「分かりました。」


少女は首の後ろへ手を回した。


カチッ。


留め具が外れる。


首飾りが身体から離れた。


「……っ!」


ヒルメの目が見開かれる。


(やっぱり……!)


明らかに違う。


少女の身体を覆っていた淀みが僅かに弱くなった。


だが――


消えてはいない。


むしろ首飾りを外したことで、身体の中に残っているものが分かりやすくなった。


「どうじゃ?」


エルドが尋ねる。


「少し……弱くなりました。」


「弱く?」


「はい。」


ヒルメは少女へ近づく。


「でも、まだ身体の中にあります。」


「私の中に……?」


少女の顔に不安が浮かぶ。


ヒルメはさらに意識を集中させる。


そして――


気付いた。


「……瘴気。」


「何?」


レオンが聞き返す。


「瘴気です。」


ヒルメの表情が真剣になる。


「かなり強い瘴気が、身体の中に残っています。」


王が立ち上がった。


「瘴気だと?」


「はい。」


ヒルメは頷く。


そしてテーブルへ置かれた首飾りを見る。


「この首飾りからも感じます。」


「むしろ……こっちの方がずっと強いです。」


「では、それが原因なのか?」


レオンが尋ねる。


「分かりません。」


ヒルメはすぐに首を横へ振った。


「首飾りが瘴気を作っているのか。」


「どこかにある瘴気を集めているのか。」


「それとも別の理由なのか……。」


「私にはそこまでは分からないです。」


ヒルメは少し考える。


「ただ……。」


「このまま着けているのは、やめた方がいいと思います。」


王はテーブルの首飾りをじっと見つめていた。


その顔から、先ほどまでの陽気さが消えている。


「……そうか。」


それだけを呟く。


エルドが王へ視線を向ける。


しかし王は何も話さない。


「ヒルメ。」


レオンが尋ねる。


「妹の中にある瘴気は、消せるのですか?」


「……。」


ヒルメは少女を見る。


(どうしよう。)


瘴気なら浄化したことがある。


ドラゴンの墓場でも。


街でも。


でも――


(人の身体の中に、こんなに強い瘴気が入ってるのは初めて。)


絶対に大丈夫とは言えない。


「多分……。」


ヒルメは慎重に答える。


「できると思います。」


少女が顔を上げる。


「本当ですか?」


「はい。」


「でも、やったことがないので……。」


ヒルメは少し不安そうに少女を見る。


「絶対とは言えません。」


「危険は?」


王が尋ねる。


「……分かりません。」


ヒルメは正直に答えた。


「ごめんなさい。」


「謝る必要はない。」


王は娘を見る。


その表情は真剣だった。


「ならば――」


「お願いします。」


少女が口を開いた。


「……!」


ヒルメが少女を見る。


「お願いします、ヒルメさん。」


「でも……。」


「私は試してみたいです。」


少女は自分の胸元へ手を添える。


「もう一度、学院へ戻りたいんです。」


「友人たちと一緒に勉強して。」


「魔法を学んで。」


「また、自分の足でいろいろな場所へ行きたい。」


その瞳が僅かに潤む。


「昔は当たり前だったことを……。」


「もう一度したいんです。」


「……。」


ヒルメは何も言えなかった。


(ずっと……我慢してたんだ。)


少女は真っ直ぐヒルメを見る。


「だから。」


「少しでも可能性があるのなら、お願いします。」


「……。」


ヒルメは不安だった。


失敗したらどうしよう。


この人に何かあったら。


(でも……。)


目の前の少女は、自分を信じようとしてくれている。


ヒルメは小さく頷いた。


「……分かりました。」


「待て。」


王だった。


「お父様。」


「お前の気持ちは分かる。」


王は娘を見る。


「だが、父親として簡単に頷くわけにはいかん。」


そしてエルドを見る。


「エルド。」


「はい。」


「どう見る?」


エルドはヒルメを見つめる。


「少なくとも、この子が瘴気を浄化できることは間違いありません。」


「レオン様が街で目撃されたもの。」


「そして以前、わしが聞いた話とも一致する。」


エルドは少し考えた後、頷いた。


「試す価値はあるかと。」


「……そうか。」


王は目を閉じる。


長い沈黙の後――


「分かった。」


目を開いた。


「ヒルメ。」


「はい。」


「頼めるか。」


「……はい。」


ヒルメは少女の前へ立つ。


「少し離れてください。」


レオンたちが数歩後ろへ下がる。


ヒルメは少女だけを見つめた。


(かなり強い瘴気だから……。)


(広げちゃ駄目。)


(この人だけを囲う。)


ヒルメは両手を胸の前で重ねた。


ゆっくりと目を閉じる。


そして――


静かに詠唱を始めた。


「聖なる光よ――」


足元に淡い光の魔法陣が広がる。


「穢れを祓い、彷徨えるものを清め――」


少女の足元にも光が灯る。


「安息の地を、ここに――」


ヒルメが目を開く。


「《サンクチュアリ》」


瞬間――


少女一人だけを囲うように、淡い光の壁が立ち上がった。


「……!」


レオンが息を呑む。


エルドは静かに目を細めた。


広く展開するのではない。


たった一人。


少女だけを完全に聖域の中へ閉じ込めている。


「なるほど……。」


エルドが呟く。


「瘴気が強いゆえ、対象だけを聖域で囲ったか。」


《サンクチュアリ》の内部。


少女の身体から黒い靄が滲み出し始めた。


「……っ!」


王が息を呑む。


目に見えるほど濃い瘴気。


それが少女の身体の至るところから溢れ出している。


「こんなものが……。」


レオンの表情が強張る。


「妹の中に……。」


黒い靄が光へ触れる。


ジュッ――


次々と消えていく。


しかし――


「……っ。」


ヒルメが眉を寄せる。


(強い……。)


想像していた以上だった。


何年もかけて身体へ染み込んだ瘴気が、少女の身体へしがみつくように残っている。


(まだ……。)


ヒルメはさらに魔力を注ぎ込む。


《サンクチュアリ》の光が強くなる。


黒い靄が次々と身体から引き剥がされていく。


「……あ。」


少女が小さく声を漏らした。


「どうした!?」


王が身を乗り出す。


「温かい……。」


少女は自分の胸へ手を当てる。


「身体の中が……。」


「ずっと冷たかったところが……温かいです。」


ヒルメは集中を切らさない。


(もう少し。)


身体の奥。


まだ残っている。


(お願い……。)


(全部、出て。)


さらに光が強まる。


最後に残っていた黒い靄が、少女の胸元からゆっくりと抜け出した。


そして――


光に触れた瞬間、消滅した。


「……。」


ヒルメはしばらく少女を見つめる。


もう感じない。


先ほどまで身体を覆っていた嫌な気配が、完全に消えている。


「……終わりました。」


ヒルメが両手を下ろす。


少女を囲っていた《サンクチュアリ》が、無数の光の粒となって消えていく。


「どうですか?」


「……。」


少女は答えない。


「……?」


ヒルメの胸に不安がよぎる。


(あれ?)


(もしかして……駄目だった?)


「だ、大丈夫ですか?」


少女はゆっくりと胸へ手を当てた。


そして――


大きく息を吸った。


「……。」


もう一度。


今度は胸いっぱいに。


「苦しく……ない。」


「え?」


少女の声が震える。


「息を吸っても……苦しくありません。」


ゆっくりと立ち上がる。


「姫様!」


侍女が支えようとする。


しかし少女は、その手を優しく制した。


一歩。


歩く。


もう一歩。


「……。」


足が重くない。


胸も苦しくない。


目眩もしない。


少女は少しずつ歩く速度を上げる。


「お、おい。」


王が心配そうに立ち上がる。


だが少女は止まらない。


そして――


走った。


「姫様!」


庭園を駆けていく。


風が髪を揺らす。


「……っ。」


少女の瞳から涙が溢れた。


何年ぶりだろう。


走っても苦しくない。


足が動く。


身体が自分の思った通りについてくる。


「走れる……。」


立ち止まる。


自分の両手を見る。


「私……。」


涙が頬を伝う。


「走れます……!」


「お父様!」


王の表情が崩れた。


「……そうか。」


少女が父の胸へ飛び込む。


「そうか……!」


王は娘を強く抱き締めた。


レオンも顔を伏せ、目元を押さえている。


ヒルメは少し離れたところから、その光景を見つめていた。


(よかった……。)


胸の奥が温かくなる。


(ちゃんと……できた。)


「ワウ!」


シロも嬉しそうに尻尾を振っている。


「うん。」


ヒルメはシロの頭を撫でた。


「よかったね。」


その時――


少女が王の腕から離れた。


そして真っ直ぐヒルメへ走ってくる。


「……?」


(え。)


止まらない。


「え、ちょっと――」


ぎゅっ!


「わっ!?」


勢いよく抱き締められた。


「ありがとうございます!」


「え、あ……。」


「本当に……本当にありがとうございます!」


少女はヒルメを強く抱き締める。


「く、苦しいです……。」


「あっ!」


慌てて離れた。


「ご、ごめんなさい!」


「いえ……大丈夫です。」


少女は涙を拭う。


だが、すぐに満面の笑みを浮かべた。


「ヒルメさん。」


「はい?」


「私、このご恩は一生忘れません。」


「そ、そんな……。」


「あなたは私の恩人です!」


「お、恩人……。」


ヒルメは困ったように頬を掻く。


(なんだかすごいことになっちゃった……。)


「ヒルメさん!」


「は、はい。」


「またお話してくださいね!」


「はい……。」


「絶対ですよ?」


「わ、分かりました。」


「約束です!」


「はい!」


(距離が一気に近くなった気がする……。)


王はそんな二人を見て、嬉しそうに笑っていた。


しかし――


ふと、その視線がテーブルへ向く。


そこには外された銀の首飾りが置かれている。


「……。」


王の表情が変わった。


あれを娘が手にしたのは、病に倒れるよりもずっと前。


だからこそ――


今まで一度も疑わなかった。


そして。


誰があれを娘へ贈ったのか。


それを王は知っている。


「……。」


王の目が鋭くなる。


「陛下。」


隣からエルドが小さく声を掛ける。


王は僅かに首を横へ振った。


「……後だ。」


「今はよい。」


「承知しました。」


王は再びヒルメを見る。


娘を何年も苦しめていた瘴気を取り除いた少女。


街に広がっていた瘴気を浄化し。


失われた闇魔法を操り。


昨日はエルドすら全力を出さなければ止められないほどの魔力を放った。


あまりにも強大な力。


だが――


王は昨日のヒルメを思い出す。


その力を、本人は制御できていなかった。


「エルド。」


「はい。」


「一つ聞きたい。」


王はヒルメを指差した。


「この娘。」


「魔法の扱いは上手いのか?」


「……。」


エルドはヒルメを見る。


ヒルメもエルドを見る。


「なんですか?」


「下手ですな。」


「ええっ!?」


ヒルメが声を上げる。


「ちょっと待ってください!」


「事実じゃ。」


「でも私、ちゃんと魔法使えますよ!」


「使えることと、扱えることは別じゃ。」


「……?」


ヒルメは首を傾げる。


「昨日のことを覚えておるか?」


「……途中から覚えてません。」


「そこじゃ。」


エルドは呆れたように息を吐いた。


「強大な魔力を持っておる。」


「強力な魔法も使える。」


「じゃが、それを制御する術を知らん。」


「……。」


「昨日、お主が怒りに飲まれた結果どうなったと思っておる。」


「……分かりません。」


「わしが止めなければ、アルベルトどころか闘技場まで吹き飛んでおったわ。」


「えっ!?」


ヒルメの顔から血の気が引いた。


「わ、私そんなことしたんですか!?」


「した。」


「覚えてない……。」


「だから問題だと言っておる。」


「……。」


ヒルメはしゅんと肩を落とした。


(私……そんなことしてたんだ。)


シロが蹴られたところまでは覚えている。


その後の記憶がない。


(全然覚えてない……。)


(怖……。)


エルドはそんなヒルメを見て、少しだけ表情を和らげる。


「それとな。」


「まだあるんですか……?」


「ある。」


「うぅ……。」


「お主。」


エルドは顎髭を撫でる。


「普通の魔法を使えるのか?」


「普通の魔法?」


「火、水、風、土。」


「一般的な属性魔法じゃ。」


「……。」


ヒルメは考える。


「……使ったことないです。」


「やはりな。」


「やはり?」


「お主の魔法は偏りすぎておる。」


「神聖魔法に、闇魔法。」


「それに強力な結界魔法。」


「どれも並の魔法使いでは到底扱えぬものばかりじゃ。」


「じゃが――」


エルドはヒルメを指差す。


「基礎がない。」


「……。」


「魔力の制御も我流。」


「一般属性の扱い方すら知らん。」


「……。」


ヒルメはだんだん小さくなる。


(なんか私……。)


(すごく駄目な人みたいになってない?)


王が腕を組む。


「つまり。」


「力だけはとんでもないが、使い方が滅茶苦茶ということか。」


「端的に言えば。」


「エルドさん!」


「事実じゃ。」


「むぅ……。」


王はしばらくヒルメを見る。


そして――


「よし。」


ぽん、と膝を叩いた。


ヒルメが顔を上げる。


「……?」


なぜだろう。


嫌な予感がする。


(この王様が『よし』って言う時……。)


(なんか勝手に決める時な気がする。)


「決めた。」


(やっぱり。)


王は満面の笑みを浮かべた。


「ヒルメ。」


「……はい。」


「学院へ行け。」


「……。」


ヒルメは目を瞬かせる。


「……はい?」


「学院だ。」


王は楽しそうに笑う。


「一から魔法を学んでこい。」


「ええええええっ!?」

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