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異世界送魂師ヒルメ 〜葬儀社勤務だった私の送魂は、誰にも救えなかった魂を救っていく〜  作者: ケンボー


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傲慢なる貴族

第○話 傲慢なる貴族


「それでは準決勝、第二試合を開始します!」


司会者の声が闘技場中へ響き渡る。


観客席からは割れんばかりの歓声が上がった。


「いよいよ準決勝じゃ。」


エルドが穏やかに呟く。


「ここまで勝ち上がってきた者たちは、学院でも指折りの実力者ばかりじゃ。」


「楽しみです。」


ヒルメは身を乗り出すように闘技場を見つめた。


「ワウ。」


シロもヒルメの隣で静かに座っている。


闘技場中央。


二人の学生が向かい合う。


「始め!」


開始と同時に、炎と氷の魔法が激しくぶつかり合う。


轟音が響き、熱風が観客席まで届く。


「すごい……。」


ヒルメは思わず息を呑んだ。


「この辺りまで来ると、一瞬の判断が勝敗を分ける。」


エルドが静かに解説する。


「魔力だけでは勝てん。」


「経験、判断力、駆け引き……全てが必要になる。」


試合は激戦となった。


互いに一歩も譲らず、闘技場中を駆け回る。


だが――。


「フレイムバースト!」


炎の爆発が相手を飲み込み、その衝撃で学生は場外へ吹き飛ばされた。


「場外!」


「勝者、リカルド・エインズ!」


大歓声が沸き起こる。


「すごい試合でしたね。」


「うむ。」


エルドも満足そうに頷いた。


「さて……。」


「次はいよいよ本命の登場じゃ。」


「本命?」


「学院始まって以来の天才と呼ばれておる男じゃ。」


司会者が大きく息を吸い込む。


「準決勝、第三試合!」


「グランディア公爵家嫡男!


 アルベルト・フォン・グランディア!」


その名が告げられた瞬間――


闘技場を揺らすほどの歓声が響いた。


「アルベルト様ー!」


「今年も優勝だ!」


「負ける姿が想像できねぇ!」


観客席は一気に熱を帯びる。


一人の青年がゆっくりと闘技場へ姿を現した。


艶のある金髪。


整った顔立ち。


高価なローブを身に纏い、その表情には絶対的な自信が浮かんでいる。


アルベルトは歓声に応えるように片手を軽く上げた。


だが、その目には周囲を見下すような色が宿っていた。


「ふん……。」


小さく鼻で笑う。


その態度に、ヒルメは少しだけ違和感を覚えた。


「人気なんですね。」


エルドは表情を変えず答える。


「実力は本物じゃ。」


「学院でも頭一つ抜けておる。」


「そうなんですね。」


「じゃが……。」


エルドは言葉を切る。


「才能と人格は、必ずしも比例するものではない。」


ヒルメは首を傾げた。


「え?」


エルドは小さく笑うだけで、それ以上は何も言わなかった。


「さあ、試合開始です!」


司会者の声と共に、アルベルトがゆっくりと杖を構える。


その瞳には、一切の油断も容赦も感じられなかった。


「始め!」


開始の合図と同時に、対戦相手が一気に距離を詰めた。


「ファイアランス!」


炎の槍が一直線にアルベルトへ襲い掛かる。


しかし――


アルベルトは避けようともしない。


「終わりか?」


冷たく呟き、杖を軽く振る。


「サンダーボルト。」


轟音と共に雷が走った。


バチィィィン!!


炎の槍は一瞬で掻き消え、そのまま雷撃が対戦相手を飲み込む。


「ぐああぁぁっ!!」


学生は吹き飛ばされ、闘技場の床を何度も転がった。


「ま、まだ……!」


震える足で立ち上がろうとする。


「ほう。」


アルベルトは僅かに笑う。


「その程度で立てるとは。」


再び杖を向けた。


「サンダー。」


バチッ!


小規模な雷撃が学生の肩を撃ち抜く。


「ぐっ……!」


膝をつく学生。


それでも立ち上がろうとする。


観客席からは声援が飛ぶ。


「頑張れ!」


「まだ終わるな!」


だがアルベルトは興味なさそうに溜め息をついた。


「見苦しい。」


そう言うと、ゆっくりと前へ歩き出す。


「弱者は潔く負けを認めろ。」


「う、うるさい……!」


学生は最後の力を振り絞り魔法陣を展開した。


「ファイア――」


詠唱が終わるより早く。


アルベルトの魔法が放たれる。


「ライトニング。」


轟ッ!!


雷撃が学生の身体を正面から貫いた。


「がぁぁぁっ!!」


大きく吹き飛ばされ、そのまま場外へ転がり落ちる。


審判がすぐに駆け寄る。


学生は気を失っていた。


「勝者!


 アルベルト・フォン・グランディア!」


大歓声が響き渡る。


「アルベルト様!」


「強すぎる!」


「今年も優勝間違いなしだ!」


アルベルトは歓声を浴びながら杖を肩へ担ぐ。


倒れた相手を見ることもなく踵を返した。


「くだらん。」


その一言だけ残し、控え室へ向かって歩いていく。


ヒルメは倒れた学生を見つめた。


「すごい……。」


その実力は本物だった。


だが。


「……。」


最後に見せた、あの相手を見下すような視線。


勝者とは思えない冷たい一言。


胸の奥に、小さな違和感が残った。


その様子を見たエルドは静かに目を細める。


「気付いたようじゃな。」


「え?」


「アルベルトは確かに才能ある若者じゃ。」


「じゃが……。」


「勝つことしか知らぬ。」


「故に、敗者への敬意というものを知らんのじゃ。」


ヒルメは黙って闘技場を見つめ続けた。


闘技場ではすでに、次の試合へ向けた準備が始まっていた。


「続いて、準決勝第二試合を開始します!」


司会者の声が響く。


「東地区代表、リカルド・エインズ!」


「対するは――」


「宮廷魔導学院主席、セシリア・ノア!」


観客席から歓声が上がる。


「セシリア!」


「頑張れ!」


「勝てー!」


ヒルメは身を乗り出した。


「さっき勝った人ですね。」


「うむ。」


エルドが頷く。


「風魔法を得意とする優秀な学生じゃ。」


「ただし……。」


「アルベルトほどではない。」


試合開始の合図が鳴る。


リカルドは大剣を構え、一気に距離を詰めた。


「はあぁぁぁっ!」


「ウィンドカッター!」


無数の風の刃が飛ぶ。


リカルドは剣で弾きながら前へ進む。


「接近戦!」


「魔導師相手に近付く気ですね。」


ヒルメが呟く。


「その通りじゃ。」


エルドも目を細めた。


「魔導師は距離を詰められると弱い。」


だが。


セシリアは慌てなかった。


「エアステップ。」


足元に風が生まれ、そのまま大きく後方へ跳ぶ。


距離が一気に開いた。


「まだまだ!」


リカルドは追う。


「ストーンウォール。」


目の前に土壁が現れた。


「邪魔だ!」


大剣で叩き割る。


しかし、その一瞬だった。


「テンペスト。」


セシリアの周囲に巨大な竜巻が生まれる。


「しまっ――」


リカルドの身体が巻き上げられた。


必死にもがくが、風はさらに勢いを増していく。


「くっ……!」


耐え切れず、そのまま闘技場の外へ投げ出された。


ドサッ!


審判が腕を上げる。


「場外!」


「勝者、セシリア・ノア!」


会場から大きな拍手が送られる。


「すごかった……。」


ヒルメは感心したように呟く。


「風魔法だけで勝っちゃった。」


「魔法は威力だけではない。」


エルドが微笑む。


「相性と戦い方じゃ。」


「相手の長所を潰せば、格上にも勝てる。」


「なるほど……。」


ヒルメは真剣な表情で頷いた。


これで決勝進出者は二人。


アルベルト・フォン・グランディア。


そして、セシリア・ノア。


司会者が高らかに告げる。


「いよいよ次は決勝戦!」


「学院最強を決める最後の戦いです!」


会場の熱気は最高潮に達していた。


「いよいよ決勝戦です!」


司会者の一声に、観客席から割れんばかりの歓声が上がる。


「アルベルト様!」


「セシリア!」


「どっちが勝つんだ!」


闘技場中央。


先に姿を見せたのはセシリアだった。


深呼吸を一つすると、静かに杖を構える。


その反対側から、ゆっくりとアルベルトが歩いてくる。


「ようやく決勝か。」


欠伸をするように呟く姿に、観客席からは苦笑が漏れた。


セシリアは真っ直ぐアルベルトを見据える。


「手加減はしません。」


「好きにしろ。」


アルベルトは肩をすくめた。


「どうせ結果は変わらん。」


その態度に、セシリアの表情が引き締まる。


「両者、位置について!」


審判が大きく手を上げた。


「始め!」


開始と同時にセシリアが魔法陣を展開する。


「ウィンドカッター!」


無数の風刃がアルベルトへ襲い掛かった。


しかし。


アルベルトは一歩も動かない。


「ライトニングシールド。」


青白い雷が身体を包み込み、風刃を次々と弾き飛ばしていく。


「防いだ!?」


観客席がざわめく。


「攻撃だけではないのじゃ。」


エルドが静かに口を開く。


「雷は魔力の流れを乱す性質を持つ。」


「風魔法との相性は悪くない。」


ヒルメは目を見開いた。


「そんな使い方もあるんですね。」


「魔法とは応用じゃ。」


エルドは穏やかに微笑んだ。


闘技場ではセシリアが空中へ舞い上がる。


「エアステップ!」


風を足場にしながら上空を移動し、次々と魔法を放つ。


「ウィンドスピア!」


鋭い風の槍が雨のように降り注ぐ。


アルベルトは杖を軽く振った。


「サンダーボルト。」


轟音と共に雷が空へ走る。


風の槍を撃ち抜き、そのままセシリアの目前を掠めた。


「っ!」


セシリアは咄嗟に身体を捻って回避する。


観客席から大きなどよめきが起こる。


「危なかった……。」


ヒルメは思わず息を呑んだ。


「決勝らしい試合になってきたの。」


エルドも静かに闘技場を見つめる。


両者とも決定打を与えられないまま、睨み合いを続けていた。


勝負は、まだ始まったばかりだった。


セシリアは大きく息を整えた。


(正面からでは勝てない……。)


相手は学院最強。


実力で劣ることは最初から分かっていた。


だからこそ、勝機は一瞬しかない。


「エアステップ!」


風を足場に高速で闘技場を駆ける。


残像が幾つも生まれ、観客席から歓声が上がった。


「速い!」


「どれが本物だ!」


アルベルトはその場から動かない。


「小細工か。」


小さく鼻で笑う。


セシリアは死角へ回り込み、杖を突き出した。


「ウィンドランス!」


鋭い風の槍がアルベルトの背中へ襲い掛かる。


「もらった!」


しかし。


アルベルトは振り向くことなく右手を軽く上げた。


「サンダーウォール。」


バチバチバチッ!!


雷の壁が現れ、風の槍を受け止める。


その衝撃で風の槍は霧散した。


「なっ……!」


驚いたのはセシリアだった。


「終わりだ。」


アルベルトはようやく振り返る。


「サンダーボルト。」


轟音と共に巨大な雷が一直線に走る。


「っ!」


セシリアは咄嗟に横へ飛ぶ。


雷撃は紙一重でかわした。


「避けたか。」


アルベルトは初めて少しだけ笑みを浮かべる。


「少しは楽しませてくれる。」


「まだ……終わってません!」


セシリアは再び魔法陣を展開する。


「テンペスト!」


巨大な竜巻が闘技場を包み込む。


砂煙が舞い、アルベルトの姿が完全に見えなくなった。


「決める!」


セシリアは全魔力を杖へ集中させる。


「ウィンド――」


詠唱が終わる、その瞬間。


砂煙の中から低い声が聞こえた。


「遅い。」


バチィィィン!!


竜巻が内側から弾け飛ぶ。


雷光が闘技場を駆け抜けた。


「きゃあっ!!」


雷撃がセシリアを直撃する。


身体が宙へ浮き、そのまま場外近くまで吹き飛ばされた。


ドサッ!!


会場が静まり返る。


セシリアは震える手で地面を掴み、ゆっくりと立ち上がった。


「まだ……。」


観客席から大きな拍手が起こる。


「立て!」


「頑張れ!」


「負けるな!」


アルベルトは杖を肩に担ぎ、ため息をついた。


「往生際が悪い。」


そう呟くと、再びゆっくりと杖を構えた。


アルベルトはゆっくりと杖を構えた。


「もう終わりにしてやる。」


その言葉に、セシリアは唇を噛む。


(まだ……負けられない。)


震える足に力を込める。


杖を握る手は痺れ、魔力も残り少ない。


それでも最後まで戦う。


「……来い。」


アルベルトは余裕の笑みを浮かべたまま、片手で挑発する。


その態度に、観客席からもざわめきが起こる。


「挑発してる……。」


「余裕があるな。」


「セシリア、負けるな!」


セシリアは最後の魔力を振り絞った。


「お願い……!」


魔法陣が足元に幾重にも展開される。


闘技場全体を風が包み込んだ。


「グランドテンペスト!」


ゴォォォォッ!!


巨大な暴風がアルベルトへ襲い掛かる。


砂煙が舞い上がり、観客席から思わず歓声が上がる。


「決まったか!?」


誰もが固唾を飲んで見守る。


しかし。


「……その程度か。」


砂煙の中から、アルベルトの声が聞こえた。


次の瞬間。


バチバチバチッ!!


雷光が暴風を切り裂く。


「なっ……!」


セシリアの目が見開かれる。


アルベルトはほとんど無傷のまま立っていた。


ローブが少し揺れただけ。


「終わりだ。」


杖を静かに前へ向ける。


「サンダーボルト。」


轟ッ!!


先程までとは比べ物にならない雷撃が一直線に走る。


「きゃあああっ!!」


セシリアは吹き飛ばされ、闘技場の床を転がる。


それでも歯を食いしばり、立ち上がろうとする。


「まだ……。」


「もういい。」


アルベルトはゆっくりと歩き出した。


「立つな。」


「その姿は見苦しいだけだ。」


「私は……まだ……。」


セシリアが杖を支えに立ち上がった、その時。


力尽きるように膝から崩れ落ちた。


ドサッ。


会場が静まり返る。


審判が駆け寄り、脈を確認する。


「……勝負あり!」


「勝者!」


「アルベルト・フォン・グランディア!!」


その瞬間、闘技場が歓声に包まれた。


「アルベルト様!」


「優勝おめでとうございます!」


「学院最強!」


アルベルトは歓声を浴びながら、倒れたセシリアを一瞥する。


「少しは楽しめた。」


そう言い残し、興味を失ったように背を向けた。


その姿を見て、ヒルメは小さく呟く。


「勝ったのに……。」


「嬉しそうじゃない。」


エルドは静かに目を閉じる。


「勝つことが当たり前になってしまった者は、時として大切なものを見失う。」


「……。」


ヒルメは何も答えなかった。


ただ、アルベルトの背中を静かに見つめていた。


「勝者――アルベルト・フォン・グランディア!!」


司会者の声と共に、闘技場は大歓声に包まれた。


惜しみない拍手が送られる中、アルベルトは優勝杯を受け取り、高々と掲げる。


「アルベルト様!」


「学院最強!」


「おめでとうございます!」


歓声はいつまでも鳴り止まなかった。


ヒルメも静かに拍手を送る。


「強かったね。」


「ワウ。」


シロも嬉しそうに尻尾を振る。


「どうじゃ。」


エルドが穏やかに微笑む。


「魔法大会、楽しめたかの?」


「はい。」


ヒルメは笑顔で頷いた。


「どの試合も見応えがありました。」


「それは何よりじゃ。」


エルドも満足そうに頷く。


闘技場では閉会式の準備が始まり、観客たちも少しずつ席を立ち始める。


ヒルメは賑わう会場を見渡し、小さく息を吐いた。


「ミラークって、本当にすごい国ですね。」


「うむ。」


エルドは静かに頷いた。


「この国には、まだまだお主の知らぬものがたくさんある。」


ヒルメはその言葉に胸を躍らせながら、再び闘技場へ目を向けた。


魔法大国ミラークでの一日は、まだ終わってはいなかった。

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