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異世界送魂師ヒルメ 〜葬儀社勤務だった私の送魂は、誰にも救えなかった魂を救っていく〜  作者: ケンボー


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27/29

魔法大会

◇ ◇ ◇


翌朝。


カーテンの隙間から差し込む朝日が、部屋を優しく照らしていた。


「ん……。」


ヒルメはゆっくりと目を開ける。


「朝かぁ……。」


ベッドから身体を起こすと、大きく伸びをした。


その横では、シロが丸くなって眠っている。


「シロ。」


「ワウ……。」


名前を呼ばれると、シロは眠そうに目を開け、大きく欠伸をした。


「おはよう。」


「ワウ♪」


尻尾を振りながら起き上がるシロに、ヒルメは思わず笑みを浮かべる。


顔を洗い、身支度を整えると、一人と一匹は一階の食堂へ向かった。


食堂には朝から多くの宿泊客が集まり、それぞれ食事を楽しんでいる。


エルフ。


獣人。


ドワーフ。


様々な種族が同じテーブルを囲み、笑い合っていた。


「おはようございます。」


宿の女将が笑顔で声を掛ける。


「よく眠れましたか?」


「はい。久しぶりにぐっすり眠れました。」


「それは良かったです。」


女将は温かいパンとスープ、卵料理をテーブルへ並べる。


シロの前にも、大きなお皿が置かれた。


「いただきます。」


「ワウ!」


朝食を食べながら、ヒルメは窓の外へ目を向ける。


昨日の騒ぎが嘘だったかのように、街には活気が戻っていた。


「本当にすごい国だなぁ……。」


すると、近くの席から話し声が聞こえてくる。


「昨日の魔獣の件、聞いたか?」


「ああ。」


「あれだけの魔法でも倒せなかったらしいぞ。」


「最後はレオン様が一撃だったって話だ。」


「やっぱり英雄は違うな。」


「でも、不思議なんだよ。」


「瘴気が急に消えたって聞いた。」


「宮廷魔導師でも理由が分からないらしい。」


ヒルメの手がぴたりと止まる。


(……私のこと。)


「誰か新しい浄化魔法でも使ったのか?」


「いや、そんな魔法は聞いたことがない。」


「王城でも調査が始まるらしいぞ。」


ヒルメはシロと目を合わせる。


「ワウ。」


シロは静かに頷いた。


「……目立たないようにしよう。」


「ワウ。」


そう小さく話した時だった。


宿の扉が勢いよく開いた。


「失礼する!」


鎧を身に纏った騎士が数名、宿へ入ってくる。


食堂の空気が一瞬で静まり返った。


騎士たちは周囲を見渡しながら、店主へ近付く。


「昨日、この宿に新しく泊まった旅人はいるか?」


ヒルメはスプーンを持つ手を止めた。


騎士たちは店内を見渡しながら、一人の男の後ろへ道を開けるように左右へ分かれた。


ゆっくりと姿を現したのは、昨日魔獣を一刀のもとに斬り伏せた青年――レオンだった。


「レオン様だ……。」


「本物だ。」


宿泊客たちは驚き、慌てて席を立つ。


しかしレオンはそれには目もくれず、店主へ歩み寄った。


「突然すまない。」


「い、いえ! レオン様がこのような場所へ……。」


店主は緊張で声を震わせる。


「少し聞きたいことがある。」


「は、はい!」


「昨日、この宿へ白い犬を連れた旅人が来なかったか?」


その言葉に、ヒルメの肩が僅かに揺れた。


(……私たち。)


シロも静かに耳を立てる。


店主は困ったような表情を浮かべた。


「申し訳ございません。お客様の情報はお話しできません。」


「……そうか。」


レオンは責めることなく頷いた。


「当然の対応だ。」


そう言うと、周囲の宿泊客へ向き直る。


「誤解しないでほしい。」


「私はその旅人を捕らえに来たわけではない。」


店内がざわつく。


「昨日の魔獣は異常だった。」


「瘴気は突然消え、魔獣の力は急激に弱まった。」


「私は、その理由を知りたいだけだ。」


レオンの表情は真剣そのものだった。


「もし心当たりがある者がいるなら、どうか王城へ来てほしい。」


「礼は必ずする。」


そう言い残すと、レオンは踵を返す。


「行こう。」


「はっ!」


騎士たちは再び整列し、宿を後にした。


扉が閉まると、張り詰めていた空気が一気に緩む。


「びっくりした……。」


「レオン様自ら探しに来るなんて。」


「一体何があったんだ?」


誰も事情は分からず、宿泊客たちは口々に話し始める。


ヒルメは静かにスープを飲み干した。


「シロ。」


「ワウ。」


「……行こうか。」


代金を支払い、宿を出ようとした、その時だった。


宿の外へ出たレオンが、ふと立ち止まる。


視線の先には、一人と一匹。


白い犬を連れた少女が、宿の入口から姿を現していた。


「…………。」


レオンの瞳が僅かに見開かれる。


(昨日、証言にあった白い犬……。)


シロもレオンを見つめ返し、小さく唸った。


「グルル……。」


ヒルメはシロの頭を優しく撫でる。


「大丈夫。」


その声に、レオンはゆっくりと歩み寄った。


レオンはヒルメの前で足を止めた。


「失礼。」


ヒルメは軽く頭を下げる。


「はい。」


レオンは白い犬へ一瞬だけ視線を向ける。


「昨日、白い犬を連れた旅人がいたと聞いた。」


シロはヒルメの横で静かに座っている。


どこから見ても、ただの白い犬だった。


「昨日の魔獣討伐の現場にいたかな?」


ヒルメは少し考え、頷いた。


「はい……遠くから見ていました。」


「そうか。」


レオンは真っ直ぐヒルメを見つめる。


「君に聞きたいことがある。」


「昨日、魔獣の瘴気が突然消えた。」


「私はあのような現象を見たことがない。」


「何か心当たりはないだろうか?」


ヒルメは言葉に詰まる。


サンクチュアリのことを話すべきか、それとも黙っているべきか。


「……すみません。」


「私にも何が起きたのか分かりません。」


レオンは数秒ヒルメを見つめた後、小さく笑った。


「そうか。」


「引き止めて悪かった。」


「もし何か思い出したら、王城を訪ねてきてほしい。」


そう言って王家の紋章が刻まれた通行証を差し出した。


ヒルメは差し出された通行証を見つめた。


王家の紋章が刻まれた銀色の札。


旅人が簡単に手にできる物ではない。


「ありがとうございます。」


ヒルメが受け取ると、レオンは軽く頷いた。


「それでは失礼する。」


そう言って踵を返し、騎士たちと共に王城へ戻っていった。


その姿が見えなくなると、シロが小さく鳴く。


「ワウ。」


「びっくりしたね。」


ヒルメは苦笑しながらシロの頭を撫でた。


「まさか王族の人に話しかけられるなんて思わなかったよ。」


「ワウ!」


シロは尻尾を振りながら返事をする。


ヒルメは通行証を鞄へしまうと、大通りへ足を向けた。


「まずは街を見て回ろうか。」


昨日は魔獣騒ぎでゆっくり見られなかった。


せっかくミラークへ来たのだから、この国のことをもっと知りたい。


◇ ◇ ◇


大通りは朝から活気に満ちていた。


魔力で動く荷車が行き交い、店先には様々な魔道具が並んでいる。


火を灯すだけの小さな魔石。


水を生み出す壺。


魔力を込めることで冷気を放つ箱。


ヒルメは目を輝かせながら店を見て回る。


「すごい……。」


「ワウ。」


シロも楽しそうに辺りを見回している。


その時だった。


「昨日の件、聞いたか?」


通りを歩く男たちの会話が耳に入る。


「ああ。瘴気が一瞬で消えたって話だろ?」


「宮廷魔導師たちも原因が分からないらしい。」


「王城じゃ大騒ぎだ。」


「レオン様も自ら調べているそうだぞ。」


ヒルメは思わず足を止めた。


(やっぱり調べてるんだ……。)


昨日はとっさにサンクチュアリを使ってしまった。


後悔はしていない。


あのまま放っておけば、多くの人が瘴気に苦しんでいたはずだ。


それでも、この力が広まれば何が起こるか分からない。


「目立たないようにしないとね。」


そう呟き、再び歩き始める。


すると、広場の方から大きな歓声が聞こえてきた。


「始まるぞ!」


「今年の新人魔法大会だ!」


「優勝候補は宮廷魔導学院の首席らしい!」


人々が次々と広場へ集まっていく。


「魔法大会?」


ヒルメは思わず足を止める。


「ワウ?」


「少しだけ見ていこうか。」


シロが嬉しそうに尻尾を振る。


ヒルメも人混みに紛れながら、広場へ向かって歩き始めた。


◇ ◇ ◇


広場へ足を踏み入れると、そこには円形の大きな闘技場が設けられていた。


観客席は多くの人で埋め尽くされ、熱気に包まれている。


「すごい人……。」


ヒルメは思わず声を漏らした。


「ワウ。」


シロも辺りを見回しながらヒルメの後を歩く。


「ちょうど一回戦が始まるぞ!」


司会者の声が響き渡る。


「第一試合!


 宮廷魔導学院三年――カイン・ベルフォード!


 対するは、東地区代表――ロイド・ガルム!」


大歓声が上がる。


二人の青年が闘技場へ上がると、互いに礼を交わした。


「始め!」


開始の合図と同時に、ロイドが地面を蹴る。


「ファイアランス!」


炎の槍が一直線に飛ぶ。


しかしカインは慌てる様子もなく杖を掲げた。


「アイスウォール。」


巨大な氷壁が現れ、炎の槍を受け止める。


蒸気が一気に立ち込めた。


「まだだ!」


ロイドは次々と魔法を放つ。


炎。


風。


土。


絶え間なく攻撃を繰り出すが、カインは冷静に防ぎ続ける。


「魔法だけじゃ勝てない。」


カインが静かに呟いた。


次の瞬間。


「アイスバインド。」


足元から氷が伸び、ロイドの身体を拘束する。


「しまっ……!」


身動きが取れない。


カインは杖をロイドへ向けた。


「終わりです。


 ライトニング。」


細い雷が一直線に放たれ、ロイドの胸当てへ直撃する。


バチッ!


衝撃でロイドは後方へ倒れ込んだ。


「勝者!


 カイン・ベルフォード!」


会場から大きな拍手が湧き起こる。


「すごい……。」


ヒルメは目を見開いた。


魔法だけでなく、相手の動きを読み切った戦い方だった。


「ワウ。」


シロも興味深そうに闘技場を見つめている。


その時。


「おや?」


一人の老人がヒルメの隣へ歩いてきた。


長い白髭に深緑のローブ。


胸元には王家の紋章が刺繍されている。


老人は優しく微笑んだ。


「旅のお嬢さん。」


「はい?」


「魔法大会は初めてかな?」


「はい。


昨日この国へ来たばかりなんです。」


「そうかそうか。」


老人は嬉しそうに頷く。


「ならば楽しんでいくといい。」


「ミラークの若者たちが腕を競う、年に一度の大会だからな。」


ヒルメも笑顔で頷いた。


「ありがとうございます。」


老人はシロへ目を向ける。


「可愛らしい犬じゃの。」


シロは尻尾を振り、小さく鳴いた。


「ワウ。」


「人懐っこい子だ。」


老人は優しく笑う。


その穏やかな雰囲気に、ヒルメの表情も自然と和らいだ。


しかしその老人こそ――


ミラーク王国宮廷魔導師団団長。


王の側近を務める、大魔導師エルドだった。


彼は笑顔のまま、ヒルメを静かに見つめていた。


(レオン殿下が言っていた旅人……。)


(この娘からは……何とも言えぬ、不思議な魔力を感じる。)


エルドは視線を闘技場へ戻した。


(今ここで声を掛けるべきではないな。)


レオンからは「無理に接触するな」と伝えられている。


何より、相手はただの旅人だ。


警戒させてしまっては意味がない。


「さて、次の試合が始まるぞ。」


エルドは何事もなかったかのように椅子へ腰掛けた。


ヒルメも再び闘技場へ目を向ける。


「第二試合!」


司会者の声が響き渡る。


「宮廷魔導学院二年――セシリア・ノア!


 対するは、西地区代表――ガイル・バルド!」


二人が中央で向かい合う。


「始め!」


開始と同時に、セシリアが杖を掲げた。


「ウィンドカッター!」


幾重もの風の刃がガイルへ襲い掛かる。


ガイルは大盾を構え、真正面から受け止めた。


「甘い!」


地面を蹴り、一気に距離を詰める。


「はあぁぁっ!」


大剣が振り下ろされる。


しかし。


「フロート。」


セシリアの身体がふわりと宙へ浮かび、大剣を紙一重でかわした。


「空を飛んだ!?」


ヒルメは驚きの声を漏らす。


「違う。」


隣のエルドが優しく答えた。


「飛んでいるのではない。」


「風魔法で身体を浮かせているだけじゃ。」


「なるほど……。」


「魔法は威力だけではない。」


「どう使うかが重要なのじゃよ。」


ヒルメは感心したように頷いた。


闘技場ではセシリアが上空から次々と魔法を放っている。


ガイルは攻撃を防ぐだけで精一杯だった。


やがて。


「サンダーボルト!」


雷が大剣へ直撃する。


強烈な衝撃に耐え切れず、ガイルは膝をついた。


「そこまで!」


審判が手を上げる。


「勝者、セシリア・ノア!」


観客席から大きな拍手が送られた。


「すごい……。」


ヒルメは思わず息を呑む。


魔法の種類だけでなく、その使い方まで計算され尽くしている。


ミラークが魔法大国と呼ばれる理由を、少しだけ理解した気がした。


「お嬢さん。」


エルドが穏やかに声を掛ける。


「旅をしていると言っておったな。」


「はい。」


「次の行き先は決まっておるのか?」


ヒルメは少し考えた後、小さく首を横に振った。


「まだ決めていません。」


「この国を見て回って、それから考えようと思っています。」


「そうか。」


エルドは嬉しそうに微笑んだ。


「ならば、焦る必要はない。」


「ミラークには見どころがたくさんある。」


「王立図書館、魔導研究区画、精霊庭園……どれも旅人に人気じゃ。」


「そんな場所があるんですね。」


ヒルメの表情が明るくなる。


「はい。ぜひ行ってみたいです。」


その様子を見て、エルドは静かに笑った。


(レオン殿下の話どおり……。)


(力を隠してはいるが、悪意のある娘には見えんな。)


(まずはもう少し見守るとしよう。)


試合は次々と進んでいく。


炎が舞い、氷が走り、風が唸る。


観客席からは歓声が絶えない。


「すごい……。」


ヒルメは思わず見入っていた。


魔法一つとっても、その使い方は十人十色。


同じ属性でも戦い方はまるで違う。


「ワウ。」


シロもヒルメの足元で静かに座り、闘技場を見つめている。


「どうじゃ。」


隣に座るエルドが微笑む。


「楽しめておるかの?」


「はい!」


ヒルメは笑顔で頷いた。


「こんなにたくさんの魔法を見るのは初めてです。」


「それは良かった。」


エルドは満足そうに頷く。


「まだまだ強者は残っておる。」


「これから先の試合も見応えがあるぞ。」


「はい。最後まで見ていきます。」


ヒルメは再び闘技場へ視線を向ける。


次の試合へ向けて選手たちが準備を始め、会場の熱気はさらに高まっていく。


ミラークの魔法大会は、まだ始まったばかりだった。


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