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             異世界送魂師ヒルメ  ~涙は地に還り、想いは空へ還る~  作者: ケンボー


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16/19

神代の伝承

宿へ荷物を運び終えた一行は、一階へ降りてきた。


ヒルメは大きく伸びをする。


「ふぅ。」


「これでゆっくり動けますね。」


フレイヤは両手を腰に当て、笑顔を浮かべた。


「さて!」


「どこから案内するっすかねぇ!」


「市場もいいっすし、お店もいっぱいあるっす!」


アテナも微笑む。


「帝国は広いですから、時間を掛けて回りましょう。」


その時――


宿の扉が開いた。


「待たせたな。」


エリスが姿を現す。


フレイヤは笑顔で駆け寄った。


「隊長!」


「報告終わったっすか!」


「ああ。」


エリスは頷く。


「任務も正式に終了だ。」


「しばらく休暇をいただいた。」


「やったっす!」


フレイヤは嬉しそうに拳を突き上げる。


アテナもほっとしたように笑った。


「お疲れ様でした。」


エリスは小さく頷き、一同を見渡す。


「それで?」


「これからどうする。」


ヒルメはアリアナへ視線を向ける。


「アリアナさん。」


「まずは帝国図書館ですよね。」


アリアナは静かに頷いた。


「ああ。」


「調べたいことがある。」


エリスは少しだけ苦笑する。


「帝国図書館か。」


「一般の者は入れない。」


「入館できるのは爵位を持つ者か、特別な許可を得た者だけだ。」


ヒルメは少し残念そうな表情を浮かべる。


「そうなんですね……。」


エリスは小さく笑った。


「心配はいらない。」


「私には爵位がある。」


「私が同行すれば入館できる。」


フレイヤは笑顔で頷く。


「さすが隊長っす!」


アテナも優しく微笑んだ。


「それでは、最初の目的地は決まりですね。」


エリスは踵を返す。


「行こう。」


「帝国図書館へ。」


一行は宿を後にし、帝都の中心部へ向かって歩き始めた。


◇ ◇ ◇


帝都の中心部――。


石畳の大通りをしばらく歩くと、一際大きな建物が姿を現した。


真っ白な石造りの外壁。


空へ伸びるような高い柱。


正面には帝国の紋章が大きく刻まれている。


ヒルメは思わず立ち止まった。


「すごい……。」


「これが帝国図書館……。」


アリアナも静かに建物を見上げる。


「噂以上だな。」


入口の両脇には重装備の衛兵が立っていた。


一行が近付くと、衛兵の一人が槍を軽く前へ出す。


「止まれ。」


「帝国図書館は一般人の立ち入りを禁ずる。」


エリスは一歩前へ出る。


「帝国騎士団、エリスだ。」


そう言って腰の紋章と爵位証を提示する。


衛兵は確認すると、すぐに姿勢を正した。


「失礼いたしました。」


「エリス様でしたか。」


「どうぞ、お通りください。」


そう言うと、重厚な扉がゆっくりと開かれる。


中へ足を踏み入れたヒルメは思わず息を呑んだ。


「……。」


視界いっぱいに広がる本棚。


何階まで続いているのか分からないほど高く積み上げられた書架。


静寂に包まれた館内には、紙をめくる音だけが響いている。


「すごい……。」


「こんなに本があるなんて……。」


フレイヤも思わず辺りを見回した。


「何回来ても迷うっす……。」


アテナは小さく笑う。


「今日は迷子にならないでくださいね。」


「今回は大丈夫っす!」


その時。


奥の受付から、一人の年配の司書が歩み寄ってきた。


「ようこそ、帝国図書館へ。」


「本日は、どのような資料をお探しでしょうか。」


司書は穏やかに一礼した。


「本日は、どのような資料をお探しでしょうか。」


アリアナが一歩前へ出る。


「帝国に伝わる歴史書を見せてほしい。」


「できるだけ古いものがいい。」


司書は少し驚いたように眉を上げる。


「歴史書、でございますか。」


ヒルメも続ける。


「昔の神話とか、伝承もあれば読んでみたいです。」


司書は小さく頷いた。


「承知いたしました。」


「でしたら、歴史資料室の第三書庫がよろしいでしょう。」


「帝国建国以前の文献や神話、伝承なども保管しております。」


アリアナは静かに頷く。


「助かる。」


司書は館内の奥を指差した。


「ご案内いたします。」


アリアナは分厚い本をゆっくりと開いた。


古びた羊皮紙の香りが、静かな書庫に漂う。


最初の数ページには、帝国建国の歴史が綴られていた。


さらに頁をめくる。


すると、一枚の目次が現れる。


アリアナの手が止まった。


「……これか。」


ヒルメも隣から覗き込む。


「何かあったんですか?」


アリアナは静かに目次を指差した。


そこには、大きくこう記されていた。


――神代の伝承。


その下には七つの題名が並んでいる。


・勇者の伝承


・大賢者の伝承


・獣神の伝承


・竜皇の伝承


・冥王の伝承


・魔王の伝承


・破壊神の伝承


ヒルメは思わず息を呑んだ。


「全部……本当にいた人なんですか?」


アリアナは静かに首を横へ振る。


「分からない。」


「実在した人物という者もいれば、ただの神話だと言う者もいる。」


「だからこそ、調べに来た。」


エリスも目次へ視線を落とす。


「帝国でも、この書を読む者は多くない。」


「建国以前の話だからな。」


フレイヤは頭を掻いた。


「私は歴史は苦手っす……。」


アテナは苦笑する。


「まずは気になるところから読んでみましょう。」


アリアナは静かに頁へ手を添える。


「まずは――。」


その指先が、一つの題名の上で止まった。


アリアナは勇者の伝承を静かに読み進めていく。


しばらくして、その手が一か所で止まった。


「……ここだ。」


ヒルメたちも本を覗き込む。


そこには、勇者についてではなく、一つの注釈が記されていた。


《大精霊について》


神代には、大精霊と呼ばれる存在が確認されていたとされる。


大精霊は、それぞれ特定の属性を司り、精霊たちを統べる王とも伝えられている。


勇者は、その大精霊と契約を交わし、力を借りていたという説が最も有力である。


しかし、大精霊そのものについては、現在も多くの謎に包まれている。


近年では、一部の学者の間で、


『大精霊とは、極限まで進化したエルフではないか。』


という説も唱えられている。


その理由として、


大精霊が人に近い姿で描かれている文献が多いこと。


そして、大精霊の多くが風魔法を最も得意としていたという記録が残されていることが挙げられる。


だが、それを裏付ける確かな証拠は存在せず、現在では有力な学説の一つに留まっている。


ヒルメは目を丸くした。


「エルフが……大精霊に?」


アリアナは静かに本を見つめたまま呟く。


「……面白い。」


「エルフ族にも、この説は残っている。」


「だが、真実かどうかは誰にも分からない。」


エリスは腕を組む。


「帝国でも、それは仮説として扱われている。」


「確かな記録がない以上、歴史学者の推測でしかない。」


アリアナはもう一度、その一文へ視線を落とした。


『大精霊とは、極限まで進化したエルフではないか。』


その文字を見つめる瞳には、僅かな興味が宿っていた。


ヒルメは興味深そうに頁を見つめた。


「でも……。」


「どうして風魔法なんでしょう?」


アリアナは静かに首を横へ振る。


「そこまでは書かれていない。」


「推測ばかりだ。」


エリスも本へ目を落とす。


「続きを読んでみよう。」


アリアナはゆっくりと頁をめくる。


すると、次の頁にはさらに新しい考察が記されていた。


《大精霊に関する考察》


現在確認されている文献では、大精霊は風魔法を最も得意としていたと記されている。


一方で、火、水、土など他属性を自在に扱ったという記録は確認されていない。


そのため、大精霊とは全属性を司る存在ではなく、


極めた一つの属性を神域へ昇華させた存在


ではないかという説も存在する。


また、エルフ族は古来より風属性との親和性が極めて高く、魔力の流れや精霊との対話に長けていたことから、


大精霊はエルフ族から誕生した存在


という説を支持する学者も少なくない。


しかし、神代を知る者は既に存在せず、その真偽を証明する術は失われている。


「……。」


アリアナはその一文を何度も読み返した。


ヒルメは不思議そうに尋ねる。


「アリアナさん?」


アリアナは本から目を離さず、小さく呟く。


「私たちエルフ族にも……。」


「大精霊は神話として語り継がれている。」


「だが、エルフから生まれたという話は初めて見た。」


エリスは腕を組む。


「帝国でも、その説は賛否が分かれている。」


「証拠がない以上、学者たちの推論でしかない。」


ヒルメはもう一度、本へ視線を落とした。


「神話なのに……。」


「こういう考察まで残っているんですね。」


アリアナは静かに頁を閉じる。


「だからこそ、帝国図書館へ来た価値があった。」


アリアナは本を閉じることなく、静かに頁をめくっていく。


その先には、


『大賢者の伝承』


『獣神の伝承』


『竜皇の伝承』


『冥王の伝承』


『魔王の伝承』


『破壊神の伝承』


それぞれ独立した伝承が綴られていた。


どれも分厚く、一つひとつが一冊の本になるほどの記録量だった。


ヒルメは思わず苦笑する。


「全部読むには、何日も掛かりそうですね。」


エリスも頷いた。


「図書館へ通い続ける学者が多い理由が分かるだろう。」


アリアナは目次へ視線を落としたまま、小さく呟く。


「どの伝承も興味深い……。」


「だが、今は別のことを調べたい。」


そう言うと、今度は索引の頁を開く。


何かを探すように、静かに頁をめくっていく。


ヒルメは首を傾げた。


「何を探しているんですか?」


アリアナは短く答えた。


「お前の力だ。」


ヒルメは目を丸くする。


「私の……?」


アリアナは索引を最後まで確認すると、小さく本を閉じた。


「……ない。」


エリスが尋ねる。


「見つからなかったのか。」


「ああ。」


「祈りによって魂を救う力。」


「死者を浄める力。」


「それらしい記述は、どこにも存在しない。」


ヒルメは少し寂しそうに笑う。


「やっぱり……分かりませんよね。」


アリアナは静かに首を横へ振った。


「少なくとも、この図書館には残されていない。」


「あるいは――。」


「最初から記録されなかったのか。」


静かな書庫に、重たい沈黙が流れた。


静かな空気が流れる。


誰も口を開かなかった。


やがてアリアナは、ゆっくりと本を閉じる。


「……ここにはない。」


「少なくとも、神代の伝承には記されていない。」


ヒルメは少し肩を落とした。


「そうですよね……。」


「そんな簡単には分からないですよね。」


アリアナは首を横に振る。


「いや。」


「逆に気になる。」


ヒルメは首を傾げる。


「え?」


「勇者、大賢者、竜皇、冥王、魔王、破壊神。」


「これほど多くの伝承が残されている。」


「それなのに、お前の力だけは一切記録がない。」


エリスも腕を組んだ。


「確かに、不自然だな。」


アリアナは静かに続ける。


「記録が失われたのか。」


「それとも……。」


「意図的に消されたのか。」


その言葉に、全員が息を呑んだ。


ヒルメは小さく呟く。


「消された……。」


アリアナは静かに頷く。


「可能性の話だ。」


「歴史は、勝者が残すもの。」


「都合の悪い記録が消えることは珍しくない。」


エリスは難しい表情を浮かべる。


「帝国にも、失われた文献は少なくないと聞く。」


アリアナは再び本棚を見渡した。


「この図書館にも、まだ公開されていない書庫があるかもしれない。」


「あるいは、帝国以外の国にしか残っていない文献か……。」


ヒルメは静かに本棚を見上げる。


「……私の力。」


「一体、何なんでしょうね。」


誰も、その問いに答えることはできなかった。


図書館を後にした一行は、近くの食堂へ入った。


昼時ということもあり、店内は多くの客で賑わっている。


運ばれてきた料理を前に、ヒルメは目を輝かせた。


「すごい……!」


「美味しそうです!」


フレイヤは早くもパンを手に取り、頬張る。


「ここのご飯は帝国でも人気なんす!」


アテナは苦笑する。


「ちゃんと飲み込んでから話してください。」


「大丈夫っす!」


ヒルメも笑いながら食事を始めた。


「いただきます。」


しばらくは誰もが食事に夢中だった。


穏やかな時間が流れる。


やがてエリスが水を一口飲み、口を開いた。


「そういえば。」


「休暇中だったな。」


フレイヤが顔を上げる。


「そうだったっす!」


アテナも思い出したように頷く。


「しばらく任務はありませんね。」


エリスは静かにヒルメたちを見る。


「以前話したが、久しぶりに実家へ帰ろうと思っている。」


「父も一人で暮らしているからな。」


ヒルメは嬉しそうに笑った。


「お父さん、きっと喜びますね。」


エリスは少し照れくさそうに笑う。


「あまり表情には出さない人だがな。」


「きっと驚く。」


フレイヤは身を乗り出した。


「じゃあ予定どおり、みんなで行くっす!」


「隊長のお父さんに会ってみたいっす!」


アテナも微笑む。


「ご迷惑でなければ、私もご挨拶したいです。」


エリスは少し考えたあと、小さく笑った。


「父も賑やかな方が喜ぶだろう。」


「それに、お前たちを紹介したい。」


ヒルメは首を傾げる。


「紹介ですか?」


「ああ。」


エリスは優しく頷く。


「私の大切な仲間だ、と。」


その言葉に、一瞬だけ食卓が静かになった。


ヒルメは照れくさそうに笑い、


「……はい。」


と、小さく頷いた。


食事を終え、一行は店を後にした。


帝都の街は今日も多くの人々で賑わっている。


商人の呼び声。


子どもたちの笑い声。


道行く人々の活気。


ヒルメは周囲を見回しながら、小さく笑った。


「帝国って、本当に賑やかなんですね。」


エリスはその様子を見て微笑む。


「ああ。」


「平和だからこその光景だ。」


フレイヤは両手を頭の後ろで組みながら振り返る。


「今日は宿でゆっくり休んで、明日の朝出発っすね!」


アテナも頷く。


「隊長のご実家までは、馬車で半日ほどでしたね。」


「ああ。」


エリスは静かに答える。


「少し田舎だが、空気のいい場所だ。」


ヒルメは楽しそうに笑う。


「どんな所なのか楽しみです。」


エリスも穏やかに頷いた。


「父も、お前たちに会えるのを楽しみにしてくれるだろう。」


夕暮れの空を見上げながら、一行は宿への道を歩いていく。


それぞれが、新たな出会いに胸を弾ませながら――。


次の日。


エリスの故郷へ向け、一行は新たな旅路へと歩み出すのだった。

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