第7話 似ている二人
「晩御飯、何か食べたいのある?」
「いえ、何でも……」
咲良さんがいつものように控えめな答えを返す。
「咲良さん、さっきルール決めたよね?」
「遠慮しない、ですよね」
俺がニヤリと口角を上げると、咲良さんが困ったように俯く。
そう。さっき決まったこの家での同居生活でのルール「遠慮しない」。
先程の咲良さんの発言は遠慮塗れだったので、このルールを適応すると、咲良さんは自分が食べたいものを言わないということだ。
「うーん、じゃあ、お肉系……?」
捻り出された咲良さんの回答はこれまたアバウトなものだったが、まぁ、一日目だし、これくらいでよしとするか。
出来るだけ早く仲良くはなりたいが、無理やり距離を詰めるのは、どちらにとっても負担でしかないだろう。
「分かった。じゃあ、適当に作っちゃうね」
「はい、あの、新君!」
「どうした?」
いきなり名前で呼ばれて、また心臓が跳ねる。今度は驚きの方が大きいかもしれないが。
「私も料理、やってみていいですか?」
恐る恐る、という感じで発せられたお願いは、思っていた数倍かわいいものだった。
「もちろん、じゃ、やってみようか」
ただ、何を任せたらいいものか……?
「咲良さん、包丁は使える?」
「うーん、多分……」
はっきりしない答えに少し不安になるが、一旦任せてみるか。
「じゃあ、そこの玉ねぎ、切ってもらっていい?」
「切り方は……?」
「じゃあ、薄切りで。炒め物に使うから、繊維に沿って切ってもらっていい?」
「薄切り、はい、分かりました」
そう言って、包丁を握った咲良さんは、目の前にある皮を剥いてある玉ねぎを掴んだ。
まな板の上に置かれた玉ねぎがコロコロと転がる。
「うーんと、まずは半分に切ったほうが安定するかな」
「は、はいっ」
「そう、そして――」
咲良さんの手に後ろから手をかぶせる。
咲良さんの手が一瞬ビクッと震える。
「あっ、ごめん。びっくりしたよね」
「いっ、いえ、大丈夫です!」
「じゃあ、薄切りだから大体これくらいで」
俺が咲良さんの手を操りながら、玉ねぎをスライスしていく。
「じゃ、一人でやってみようか」
俺が手を離すと、咲良さんの手に握られた包丁が小気味良い音を立てる。
何だ、思ってたより出来るじゃん。
家事が苦手だと言っていたし、自炊もしないみたいだったので、料理も苦手なのかと思っていたが、スムーズに動く包丁が、俺の期待を裏切っていった。
「あのー、どうですかね?」
一通り切り終えたものを見る。きっと大丈夫だろうけど、一応……って、あれ?
厚い。それもかなり。
7,8ミリくらいはありそうな額厚スライス玉ねぎが、俺を出迎えた。
さっきあんなにスムーズだったのは、シンプルに厚く切っていたからか……
「どう、ですかね?」
なかなか言葉を発さない俺に、追い討ちをかけるように、咲良さんが問いかける。
「うん、すごいいい感じ! ありがとうね」
「本当ですか!」
お世辞にも『薄切り』とは言えないが、頑張ってくれたことに変わりはない。
「あとなんか手伝うことありますか?」
「うーん、一旦大丈夫かな」
「分かりました」
うん、段々慣れていけばいいよな。
いつもはしない料理を頑張ってやってくれたんだ。それだけでも咲良さんにとっては相当な努力だろう。
咲良さんにより生み出された玉ねぎにも、少しだけ手を加えつつ(ちょっと薄く切っただけだが)、本日の夕食が完成した。
「じゃあ、食べようか」
「はい、じゃ……」
「「いただきます」」
メインは豚肉と玉ねぎを焼肉のタレで炒めたやつ。食材はいっぱいあったので、他にも色々作ったが、どれもいい出来だろう。
「新君って、どこからこっち来たんですか?」
「中学は都内だったよ」
「都内ですか! なんでウチみたいな学校選んだんですか?」
「うーん、まぁ、色々あってね」
実際色んなことがあった。
周りのクラスメイトも富裕層ばっかりで、良い学歴を引っ提げて良い職に就く。そんなことばっかり言われていた。
もちろん、性格も何ある奴が多く。
また思い出したくもないことを思い出してしまった。話題を変えよう。
「咲良さんは? 中学はどこ?」
「私は市内の中学からだったんですけど、家から高校が遠かったので下宿してるんです」
「そうだったんだ」
てっきり自分と同じように県外からの進学かと思っていたが、比較的近いとこ出身みたいだ。
「じゃあ、知ってる人とかいるの?」
「いないです。だからこの学校来たこともありますし」
少し空気が重くなった気がする。咲良さんも、人間関係で苦労したのだろう。
「私、元々こういう性格なんで、中学あんまり上手くいかなくて。それで、高校でリセットできたらいいなって。まぁ、相変わらず友達はできませんけどね」
――俺と同じだ。どこかでそう感じた。きっと、俺たちは似ている。
「じゃあさ」
「はい?」
少しキッパリとした俺の口ぶりに、咲良さんが顔を上げる。こういうことを言うのは慣れてないし、わざわざ言うつもりもなかったが、俺は今、どうしてもしっかりと言葉に出したかった。
「俺と友達になろうよ」




