表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/35

第7話 似ている二人

「晩御飯、何か食べたいのある?」


「いえ、何でも……」


 咲良さんがいつものように控えめな答えを返す。


「咲良さん、さっきルール決めたよね?」


「遠慮しない、ですよね」


 俺がニヤリと口角を上げると、咲良さんが困ったように俯く。


 そう。さっき決まったこの家での同居生活でのルール「遠慮しない」。


 先程の咲良さんの発言は遠慮塗れだったので、このルールを適応すると、咲良さんは自分が食べたいものを言わないということだ。


「うーん、じゃあ、お肉系……?」


 捻り出された咲良さんの回答はこれまたアバウトなものだったが、まぁ、一日目だし、これくらいでよしとするか。


 出来るだけ早く仲良くはなりたいが、無理やり距離を詰めるのは、どちらにとっても負担でしかないだろう。


「分かった。じゃあ、適当に作っちゃうね」


「はい、あの、新君!」


「どうした?」


 いきなり名前で呼ばれて、また心臓が跳ねる。今度は驚きの方が大きいかもしれないが。


「私も料理、やってみていいですか?」


 恐る恐る、という感じで発せられたお願いは、思っていた数倍かわいいものだった。


「もちろん、じゃ、やってみようか」


 ただ、何を任せたらいいものか……?


「咲良さん、包丁は使える?」


「うーん、多分……」


 はっきりしない答えに少し不安になるが、一旦任せてみるか。


「じゃあ、そこの玉ねぎ、切ってもらっていい?」


「切り方は……?」


「じゃあ、薄切りで。炒め物に使うから、繊維に沿って切ってもらっていい?」


「薄切り、はい、分かりました」


 そう言って、包丁を握った咲良さんは、目の前にある皮を剥いてある玉ねぎを掴んだ。


 まな板の上に置かれた玉ねぎがコロコロと転がる。


「うーんと、まずは半分に切ったほうが安定するかな」


「は、はいっ」


「そう、そして――」


 咲良さんの手に後ろから手をかぶせる。


 咲良さんの手が一瞬ビクッと震える。


「あっ、ごめん。びっくりしたよね」


「いっ、いえ、大丈夫です!」


「じゃあ、薄切りだから大体これくらいで」


 俺が咲良さんの手を操りながら、玉ねぎをスライスしていく。


「じゃ、一人でやってみようか」


 俺が手を離すと、咲良さんの手に握られた包丁が小気味良い音を立てる。


 何だ、思ってたより出来るじゃん。


 家事が苦手だと言っていたし、自炊もしないみたいだったので、料理も苦手なのかと思っていたが、スムーズに動く包丁が、俺の期待を裏切っていった。


「あのー、どうですかね?」


 一通り切り終えたものを見る。きっと大丈夫だろうけど、一応……って、あれ?


 厚い。それもかなり。


 7,8ミリくらいはありそうな額厚スライス玉ねぎが、俺を出迎えた。


 さっきあんなにスムーズだったのは、シンプルに厚く切っていたからか……


「どう、ですかね?」


 なかなか言葉を発さない俺に、追い討ちをかけるように、咲良さんが問いかける。


「うん、すごいいい感じ! ありがとうね」


「本当ですか!」


 お世辞にも『薄切り』とは言えないが、頑張ってくれたことに変わりはない。


「あとなんか手伝うことありますか?」


「うーん、一旦大丈夫かな」


「分かりました」


 うん、段々慣れていけばいいよな。


 いつもはしない料理を頑張ってやってくれたんだ。それだけでも咲良さんにとっては相当な努力だろう。



 咲良さんにより生み出された玉ねぎにも、少しだけ手を加えつつ(ちょっと薄く切っただけだが)、本日の夕食が完成した。


「じゃあ、食べようか」


「はい、じゃ……」


「「いただきます」」


 メインは豚肉と玉ねぎを焼肉のタレで炒めたやつ。食材はいっぱいあったので、他にも色々作ったが、どれもいい出来だろう。


「新君って、どこからこっち来たんですか?」


「中学は都内だったよ」


「都内ですか! なんでウチみたいな学校選んだんですか?」


「うーん、まぁ、色々あってね」


 実際色んなことがあった。


 周りのクラスメイトも富裕層ばっかりで、良い学歴を引っ提げて良い職に就く。そんなことばっかり言われていた。


 もちろん、性格も何ある奴が多く。


 また思い出したくもないことを思い出してしまった。話題を変えよう。


「咲良さんは? 中学はどこ?」


「私は市内の中学からだったんですけど、家から高校が遠かったので下宿してるんです」


「そうだったんだ」


 てっきり自分と同じように県外からの進学かと思っていたが、比較的近いとこ出身みたいだ。


「じゃあ、知ってる人とかいるの?」


「いないです。だからこの学校来たこともありますし」


 少し空気が重くなった気がする。咲良さんも、人間関係で苦労したのだろう。


「私、元々こういう性格なんで、中学あんまり上手くいかなくて。それで、高校でリセットできたらいいなって。まぁ、相変わらず友達はできませんけどね」


 ――俺と同じだ。どこかでそう感じた。きっと、俺たちは似ている。


「じゃあさ」


「はい?」


 少しキッパリとした俺の口ぶりに、咲良さんが顔を上げる。こういうことを言うのは慣れてないし、わざわざ言うつもりもなかったが、俺は今、どうしてもしっかりと言葉に出したかった。


「俺と友達になろうよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ