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第8話 俺の気持ち

 友達になろう。


 俺の突然の提案に、咲良さんが目を見開く。


「本当に、いいんですか?」


「うん。咲良さんがいいなら」


 慎重に口を開いた咲良さんは、一人でぶつぶつ何かを呟いている。


「咲良さん、大丈夫?」


「えっ、あっ、はい! すみません、初めてこんなこと言われたので……」


 俺だって、こんなこと言ったのは初めてだ。


「じゃあ、咲良さん、どうかな?」


「……はい、お願いします」


 なんか告白みたい。一回そう思うと、なぜだか少しドキドキしてきた。


「それじゃ、これからよろしく」


 堅苦しくなってしまった返事を少し後悔しつつ、俺たちは食事を終えて、順番にシャワーを浴びた。



「咲良さん、次どうぞ」


 同居生活で、なかなか気を使うのがお風呂問題である。


 今日はとりあえずシャワーでとなったが、順番はどっちが正しいんだろうか。


 咲良さんのことだから、少しくらい嫌なことがあっても、なかなか口に出してくれなそうだ。だからこそ、俺がしっかりと彼女の気持ちを汲んであげなきゃいけない。


 何でもぐちぐち考えてしまうのは、俺の悪い癖だ。


 そんなことを考えている間に、咲良さんがシャワーを終えて戻ってきた。


「シャワー、ありがとうございました」


 タオルで髪を拭きながら、昨日と同じようにメガネを取っていた咲良さんは、やはり学校とは違って見えた。


「ねえ、咲良さんってさ」


「はい?」


「コンタクトにしようって思ったことないの?」


 自分でもあまりに急な質問だと思ったが、咲良さんは嫌な顔せず答えてくれた。


「うーん、あんまり考えたことはないですね。ちょっと怖いっていうか……」


「そっか」


「急にどうしました?」


「いや、メガネ取ると、いつもと印象変わるなって思って」


「そうですかね?」


 不思議そうな表情を浮かべながら、咲良さんが首を傾げている。


「新君はどっちが好きですか?」


「どっちって?」


「メガネ有りと、メガネ無し」


 さぁ、どう答えようか。


 俺は今どんな答えが求められているのだろう。メガネ有りがいいと言えば、なんか勝手に家で意識してる奴になるだろうし、かと言って自分の気持ちに嘘はつきたくない。


 よし、ここは正直に。


「うーん、俺は無しのほうが好きかな」


「じゃあ、家では外しときますね」


「え?」


「はい?」


「いや、別に無理しなくても大丈夫だから……」


「いえ、大丈夫です」


「でも、伊達じゃないでしょ」


「はい、ちゃんと度入ってますよ」


「じゃあ、尚更……。分かった。じゃあ、今日だけにしない?」


「でも、新君は無い方が好きなんですよね?」


 こんなことになるなら、濁しておけばよかったとまた後悔しつつ、何とか今日一日だけメガネを外してくれるということに落ち着いた。



「そろそろ寝ようか」


「はい」


 昨日と同じように、俺は床で、咲良さんはベッドで横になる。


「新君、本当にいいんですか?」


「うん、俺は大丈夫だよ」


「でも、二日連続ですよ?」


 わざわざ心配してくれる咲良さんを横目に、俺は静かに目を閉じる。


 心なしか、昨日よりも早く寝れそうだ。まあ、これから1ヶ月この環境なんだから、さっさと慣れないとやっていけないが。



 気がつくと、朝になっていた。


 いつも通り、朝に強い俺はゆっくりと目を開ける。


 カーテンから漏れる強い朝日が目に入り、目の前には咲良さんが寝ている。


 あぁ、そうか、咲良さんも一緒なんだもんな。


 うん? 目の前?


 俺は驚いて体を起こす。ここは床だ。そして、咲良さんも床に寝ている。俺にぴったりくっついて。


 落ちた、のか?


 にしても、朝イチから美少女の寝顔を拝めて、少し嬉しい。あれ? ちょっとキモイか、俺。


 どうでもいいことを思い巡らしながら、ゆっくりと朝の準備を進める。


 二日目なので、色々手際が良くなってきた。



 一通り朝の準備が終わると、咲良さんも目が覚めたようだ。


「あ、新君、早いですね」


「おはよ、咲良さん。朝ごはんもすぐ食べれるけど、どうする?」


「おはようございます。ちょっと準備してからにしますね」



 そう言って、洗面所に消えていった咲良さん。一人になると、また、あの寝顔を思い出してしまう。


 昨日もそうだったが、メガネを外すと、まるで別人のように見える。


 よくあるラブコメでも、メガネを外すとっていう展開があるが、実際にあそこまで変わるものなのか?


 思い出すほど、なんか恥ずかしくなってくる。学校では絶対に見せない姿に、少し特別感を感じている。


 そして、俺は、彼女のことが好きなのかもしれない。


 でも、まだこのことは考えたくなかった。


 あと1ヶ月同居しなきゃいけない。そして学校では彼氏のフリをしなきゃいけない。それなのに、もし、自分のこの気持ちに気づいてしまったら。


 俺は怖いんだろう。この関係が壊れてしまうのが。



 やはり、ぐだぐだと考え続けている俺の横に、準備を終えた咲良さんがちょこんと座る。


「あっ、メガネ」


 咲良さんはメガネをかけていた。まぁ、これから学校に行くから当たり前だろうが。


「はい。やっぱりメガネ無しの方がいいですか?」


「うーん、でも、どっちも好きだよ」


 昨日こう答えればよかったと思う。


「……なんか、恥ずかしいですね」


 恥ずかしいのはこっちです……!


「じゃあ、食べようか」


 俺は咄嗟に話を逸らした。


 俺は、本当に1ヶ月持つのだろうか。

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