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第6話 同居、延長

 咲良さんとの2回目の帰り道。


 昨日のこともあったし、少しは話しやすくなってるはず……と思ったのだが、何ら昨日と変わらない静かな帰り道だった。


 いわゆる陰の者と呼ばれるような俺と咲良さん。当たり前に会話が続くわけもなく。


 一つ質問して答えが返ってきても、そこで話が途切れてしまう。何か面接してる気分……



「ねぇ、咲良さん。ちょっとスーパー寄ってもいい?」


「あっ、はい! 全然大丈夫ですよ」


 今日は週一の買い出しの日だった。今日の朝でウチの冷蔵庫はスッカスカになってしまったので、早く補給しなくては!


 わざわざスーパーまで付いてきてくれた咲良さん。なんか、二人で買い物してるのちょっと恥ずかしい。


「一条君はいつも自分で買い物してるんですか?」


「うん、そうだけど。咲良さんはあんまり買い出しとかしない?」


「そうですね……。お弁当とか惣菜を仕入れたりはしてますけど。自炊はしないので……」


 俺もこっちに来るまでは、一人でスーパーで買い出しなんてしたことがなかったが、最近はそれぞれの商品の底値も把握できるようになってきた。まぁ、このスーパーは安い日が固定されてるから楽なんだけどね。


 制服姿で二人で歩いていると、普段は感じないような好奇な視線が向けられている。


 まあ、学校終わりにスーパーに一緒に買い出しって、側から見たらカップル以外の何者でもないよな……


 

 一通り買い出しを終えた俺と、ずっと付いてきてくれた咲良さんは、家への道を急ぐ。


 相変わらずブチブチと切れる会話に身を任せていると、段々と西岡荘が大きくなってくる。


「あれ? 大家さん?」


 大家さんが曲がった腰をさすりながら、珍しく外に立っていた。


「あぁ、二人とも待ってたよ」


 二人とも……?


「咲良ちゃんの部屋について何だけどね――」


 やはり、用件は101の水漏れのようだ。


「午前中に業者さんが来てくれてねぇ。それで色々見てくれたんだけど……」


 大家さんが言葉を詰まらせる。なんか嫌な予感……


「まず、壊れちゃってる部品の型が古いみたいで、取り寄せるのに2,3週間かかるみたい」


「じゃあ、それまで水は使えないってことですか……?」


 咲良さんが不安そうな表情を浮かべる。まぁ、水が使えないはキツイよな……


「そう、壊れたとこ以外にも色々ガタが来てるみたいで、そこも替えちゃわないとまた同じことになるかもしれないらしくて」


 大家さんが更に不穏な口ぶりで続ける。


「そうですか……」


「てことで、完全に直るまでこれから1ヶ月くらいはかかるみたいなのね」


 1ヶ月か……。長い。


「そこで、新君!」


 どんよりとしてきた俺たちの空気をぶち破るように、大家さんが俺の方に向き直る。


「はっ、はい。何でしょう?」


「ここから1ヶ月、咲良ちゃんを泊めてあげてくれない?」


 はい?


「あんたたち、仲良さそうだし。新君なら咲良ちゃんも安心じゃない?」


「いや、ちょっと待ってください。さすがに1ヶ月は……」


「そこを何とか! 家賃も二人で一部屋分でいいから、ね?」


「そんなこと言われましても……」


 大家さんと軽い押し問答が続く。


「あっ、あの!」


 そんなやりとりを遮るように、咲良さんが声を発した。


「一条君、私からも……お願いします!」


 咲良さんが勢いよく頭を下げる。


 えぇ……? マジっすか……?


「ほら、咲良ちゃんもこう言ってるし、私からもお願い!」


 なぜか二人から頭を下げられている状況に、少しオドオドしてしまう。


「わっ、分かりましたから、二人とも頭あげてください」


「てことは、つまり……?」


 大家さんの声のトーンが分かりやすく上がる。本当に単純な人だな……!


「――しょうがないですね」


 俺の返事を聞いて、咲良さんもやっと頭を上げる。


「咲良さん、本当に俺の部屋でいいの?」


「はい、他に行くとこもないので……」


 まぁ、ここに下宿してる時点で、近くにアテがないのは分かりきっていたが……


「じゃ、あとは二人でよろしくね。何かことが進んだら、逐一報告するからねぇ」


「はっ、はい! お願いします。一条君も……」


「うん、よろしく」


 という訳で、1ヶ月に及ぶ俺たちの同居生活が今日スタートすることになった。



「じゃあ、改めて失礼します!」


 まさかの連日のお泊まりということになった。しかもこれから1ヶ月、この生活が続くのだ。


 咲良さんが、必要なものを俺の部屋に運び込んでくる。


 まぁ、1ヶ月だもんな。色々必要だよなぁ。


 と思っていたのだが……


「えっ、これだけ?」


 咲良さんが持ってきたのは、小さめの段ボールに綺麗に入れられた普段着(?)たちだった。


「そうですね、これで全部です」


 さも当たり前であるかのように言い放つ咲良さん。もうちょっとメイク道具とか、おしゃれアイテムとかいるもんじゃないんですね……


 俺の勝手な女子高生像が壊されたが、そんなもんはどうでもいい。



「あのさ、これからのルール決めない?」


「ルール、ですか」


「まぁ、そんな堅苦しいものじゃないんだけど」


 1ヶ月も一緒に住むなら、ある程度ルールは必要だろう。


「じゃあ、一条君が決めてください。私はそれに従います」


 咲良さんが真面目な顔で俺を見つめる。


「うーん、じゃあ……」


 自分から言い出したものの、あまり具体的なものが思いつかない。


 まぁ、これでいいか。


「とりあえず一個だけ。家では遠慮しないこと!」


「遠慮しない……?」


「そう、同居するんだから、対等に接しよう。それぞれが出来ることやればいいんだから。家では気遣わなくていいからね」


「それがルールですか?」


「そう、どうかな?」


 咲良さんが少し考え込むような素振りを見せる。


「分かりました。じゃあ、頑張ります」


「よし、じゃ、早速一つお願いしていい?」


「はい、何ですか?」


「咲良さん、俺のこと名前で呼んでくれない?」


「……っ」


 俺の提案に、咲良さんが戸惑いの表情を見せる。


 言おうか迷っていたが、これから同居生活が始まるのに、名字+君付けは、こっちが申し訳なくなってくる。


「咲良さん、学校だと『新君』って呼んでくれるよね?」


「それは、彼氏のフリをしてくれてるので、私も自然な方がいいかなと……」


「うーん、俺は家でも名前で呼んで欲しいな」


 やばい、自分でもちょっと恥ずかしくなってきた。


「……分かりました。じゃあ、家でも名前で呼びますね」


 咲良さんが顔を赤くしながら了承してくれた。


「よし、じゃあ、決まり! これからよろしくね、咲良さん」


「こちらこそ、よろしくお願いします! ……新君」


 ――ドクン


 心臓が鳴る音がはっきり聞こえた。


 少し顔を赤ながら、咲良さんが不器用に笑っている。


 咲良さんとの距離が近づくにつれて、平常心でいられる自信がなくなってくる。


 ……1ヶ月、か。


 果てしなく長く感じられる同居生活は、不器用なまだまだ不器用な名前呼びでスタートした。

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