第37話 待望の遠足③
「新君、もうひっくり返していいんですかね?」
目の前のお肉をじっと見つめながら咲良が聞いてくる。
「うん、そろそろいいんじゃない?」
俺からのゴーサインを聞いて、咲良がトングで並べられたお肉を裏返す。
「うん、良い色だね!」
美味しそうな狐色に暴力的な油が纏っている。俺たちの胃袋をガンガンに殴ってくる。もうノックされてるなんてもんじゃない。
バンバンひっくり返している正樹君とは裏腹に、いちいち俺に確認をとってからトングを動かす咲良。
「そろそろ良い感じだね、食べる人ー?」
「はいはーい!」
今か今かと焼けるのを待っていた暖愛さんが、正樹君から焼けたお肉を受け取る。
「いただきまーす!」
暖愛さんが焼けたばかりのお肉を口に運ぶ。
「んんぅー! うまぁー!」
手足をバタバタをされながら喜びを表現している。そんなに美味しかったんですね……
「ほら、新君も食べな?」
「じゃあお言葉に甘えて」
正樹君がトングで紙皿に乗せてくれる。時間もちょうどお昼くらいになって、俺の空腹もMAXだった。
「いただきます……」
テカテカと犯罪級の輝きを放っているお肉を一口で頬張る。
「……うま」
空っぽの胃袋にガツンとお肉のインパクトが直撃する。うまい。うますぎる。外でバーベキューという雰囲気も相まり、脳が飛びそうになるほどの衝撃が走った。
「暖愛さん、これはやばいね……」
「そういうことよ、相棒……」
暖愛さんと謎の握手を交わし、ふと咲良の方を見てみると。
「咲良、ちゃんと焼けてそう?」
「……焼けすぎたかもしれません」
薄々そんな気がしていたが、俺たちが一口目の衝撃に感動している間に、咲良の手元ではいくつかの『半分炭と化した何か』が寂しげに置かれていた。
「まだギリ食えんじゃない?」
ちょっとしょんぼりしてしまった咲良を励まそうと、俺はそのブツを口へ運んだ。
うん、うまい。やっぱちょっと苦い。
「うん、美味しいよ!」
時には嘘も大事。ちょっと表情が明るくなった咲良からトングを譲り受け、調理班の二人にも食べる側に回ってもらう。
「うん、本当に美味しいね!」
お肉を大量に買っといて本当に良かった。もはや野菜なんて眼中にないと肉を食べ続け、気がつくと1時間ほどが経っていた。
代わる代わるトングを握り、ちょくちょく半分炭のブツで味変? をして、ワイワイと時間を過ごした。ちなみに暖愛さんはただ一人ずっと食べ続けてましたが……
「よし、何か遊ぼうよ!」
お腹も満たされ、何かしてないと眠くなりそうな雰囲気だったので、食後の運動をキメることになった。
という訳で、正樹君が持ってきたサッカーボールを持って、少し開けたところに出る。
多目的広場となっていること場所では、キャッチボールをしている人や、バレーボールをしている人など、体を動かしたい人が数組いたが、俺たち四人も周りを気にせず遊べるくらいにはスペースを余裕があった。
「よーし、行くよー」
優しく蹴られたサッカーボールは俺の足元にすっぽりと収まった。それを咲良へと蹴り返す。
小学生の時に一瞬だけサッカーを習ってが、高学年になると中学受験の勉強のためを辞めてしまった。それでもパスくらいなら相当の正確性をもってプレーできる。
咲良のもとから暖愛さん、そして正樹君へとボールが返る。みんな正確だ。すごい。
ボールが3周ほどして、正樹君から浮いた球が返ってきた。
「おっと」
胸でトラップして足元へ落とす。そしてその流れで。
あ。
思わず俺も球を浮かせてしまった。山なりの軌道を描いて、咲良の元へボールが飛んでいく。
ポスッ。
案の定、咲良の頭上を超えていきそうなボール。だと思ったのに、咲良は落下点を見極め、後ろに下がり、体を浮かせながら胸でボールを収めた。
「咲良ちゃん、すごーい!」
「えへっ、たまたまですよ」
たまたま? そんな訳ない。未経験者ならどうやっても後ろに逸らすボールだったはずなのに。
「ていうか新スパルタだねー、彼女にあんな強いパス出すなんて」
ニヤニヤしながらからかってくる暖愛さん。そんな彼女が蹴り出したボールは大きく左へ逸れていった。
「あー、ごめーん」
その後も時々あらぬ方向に飛んでいくボールを正樹君が取りに行く流れが何回かあり、なぜか正樹君だけがゼーゼーと息を切らしていた。
うん、かわいそう。
「咲良って経験者?」
「いえ、時々父親に教えてもらってたくらいですかね」
「お父さんは得意なの?」
「うーん、どうなんですかね? 高校の時にいいとこまで行ったらしいですけど、今は普通のおじさんですね」
「なんか意外だったな、咲良がサッカー得意なの」
「でも新君も上手かったですよ」
俺たちはサッカーを終え、そろそろかなと後片付けを始める。
気づけば長かった自由時間も終わりを告げ、楽しかった遠足も最終盤だった。
「ふぅ、食べて動いてめちゃくちゃ楽しかったね!」
「ね。この四人で良かった」
こんなに仲が良い友達ができるなんて思ってなかった。遠足ってこんなに楽しいものだったんだな。
バスに乗り込むともうみんなヘトヘトだという感じで、朝の盛り上がりが嘘のように静まり返っていた。
この遠足が終わるとテストが待っている。ハードな1週間はまだ始まったばかり。頑張るぞー!




