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第35話 待望の遠足①

 カラッと晴れた気持ちの良い日差しが降り注ぐ月曜日。


 いつもは憂鬱な月曜日の朝をかき消すように心が晴れ渡っている。


 そう、今日は待ちに待った遠足だ。



 今まで学校で遠足に行くという経験をしたことがない俺は、無駄に朝からテンションが高かった。それは咲良も同じようで。


「あっ、もう起きたの?」


「はい、新君こそ今日はお弁当作らなくていいのにもう起きてるじゃないですか」


「まぁ、やっぱり楽しみでさ」


「天気も良さそうで良かったですね」


「うん、本当に」


 先週時点では、少し曇りそうな予報だったが、朝からお日様が燦々と照らしている。


「今日は一旦学校集合だっけ?」


「はい、その後バス移動でしたね」


 服装は自由とのことだったので数少ない私服の中でもマシなやつを選ぶ。もっと服のレパートリーも増やしてかないとなぁ。


「そろそろ行っちゃう?」


 普段よりも10分近く早く家を出る。こういう特別な日ほど早く準備が終わるのって何でなんだろう?


 いつもより少し小さめのリュックと、食材たちが入った保冷バッグを持って、いつもの通学路を歩いていく。


「私、バーベキュー上手くできますかね……」


 一応調理班となっていた咲良が不安そうな顔を浮かべている。


「まぁ、何とかなるっしょ。俺も手伝うしさ」


 正直咲良の料理力はまだまだ壊滅的だが、バーベキューはタイミングさえ掴めれば何とかなるはずだ。



「そういえばバスの席どうする?」


「どうする……って、隣に座ってくれないんですか?」


「咲良がいいなら隣がいいなって思ってたけど」


「じゃあ、決まりですね! ていうか、何でわざわざ確認するんですか?」


「いや、その、恥ずかしいかなって」


 クラス内では表立って公表はしていないが、もはや暗黙の了解みたいになってる。


「恥ずかしくないです! 逆に新君の隣に私以外が座る方が許せません」


 朝からガッチリと腕を掴まれてしまったが、かわいいのでオッケーです。



 学校に着くと何台ものバスがすでに敷地内に停められていた。


「なんか、いつもと違うところに来た感じがしますね」


「そうだね」


 一旦教室に向かうと、既に馴染みの面々が揃っていた。


「おっ、二人ともおはよー」


「おはよ、正樹君。あと暖愛さんも」


「おはよ、新。昨日はありがとね」


「ううん、こちらこそ」


「咲良ちゃんも昨日は新借りちゃってごめんね」


「いっ、いえ全然大丈夫です」


 こう言ってはいるが、昨日は家に帰ってから昼間一緒にいれなかった分と言って、ずっとベタベタしていた。


「そういえば、バス誰と乗るか決めた?」


「うん、俺と咲良は一緒に」


「あー、まぁそうだよね。ウチらはどうする、正樹?」


「え? 俺?」


「うん、基本は班行動って言ってたし、班で固まってた方が色々楽かなって」


 珍しく口元が緩んでいる正樹君。まぁ好きな人と隣に座れるならそういう反応になるよね……


「そっ、そそそうだね、じゃあ隣に」


 焦りすぎですよ、正樹君。


 朝から珍しい姿が見れてちょっとラッキー。



 ワラワラと人が増えてきて、井上先生が教室に入ってきた。


「よし、じゃあもうすぐしたらバスに乗り込むぞ。デカい荷物持ってるやつは、トランクにも載せられるみたいだ」


 説明が終わるとすぐに、バスに乗り込む時間になった。


「じゃあ、移動!」


 各学年の混雑を避けるため、時間差でバスが出発するようで、一年は一番最初だった。


 トランクに暖愛さんが持ってきた分と一緒に詰め込む。


「後ろの方で大丈夫?」


「はい、車酔いはそこまでなので」


 既に三分の一くらいが埋まっているバスの少し後ろの方に腰をかける。


 ここからまずは隣の市の博物館まで、大体四十分くらいバスに揺られることになる。


「おっ、二人ともよろしくね〜」


 俺たちの前の席に暖愛さん・正樹君ペアが座った。


「よし、全員乗ったなー」


 心なしか井上先生もテンションが高いな気がする。


 ゆっくりとバスが出発する。


 見慣れた光景から段々と知らない景色へと移り変わっていく。


「新君、市外行くのって初めてですか?」


「そうだね。こっちきてからは初めてかな」


「実は私もすごい久しぶりなんですよ。小さい頃は結構遠出もしてたんですけど、中学生になって引きこもりがちになっちゃって。それで高校は一人暮らし……今は違いますけど」


「そうだね、俺も小さい頃は色んなところに連れてかれたけど、父さんと母さんは仕事があって、ホテルに放置みたいなのも多かったね」


「それじゃ、旅行って感じじゃないですよね」


「まぁね、でも大体、執事さんがが内緒でどこかしらには連れてってくれて、それで、両親が戻って来る前にホテルに戻してくれて。あの人だけは大好きだったな」


 俺の15年間の人生で、唯一俺のために動いてくれていたあの人。もちろん両親に雇われた身ではあったけど、俺は両親よりもあの人から注がれていたであろう愛に救われていたんだと思う。


 俺がこっちに進学する時にも、あの人だけは応援してくれた。


「新君にも楽しい思い出があって良かったです」


「まぁ、ちょっとだけどね」


「これから増やしていけばいいんですよ」


 そう、咲良の言う通りだ。これから段々と自分のやりたいことができるようになる。その一つ目がこの遠足な気がする。


 隣と咲良といつも通りのどうでもいい会話を交わしながら、俺たちは最初の目的地までバスに揺られていった。

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