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第32話 彼女に襲われました

「……それじゃあ、いただきます♡」


「ちょっ、ちょっと待ったー!」


 土曜の朝。時刻は6時。いつもならベッドでぐっすりのはずの咲良が、今は俺の上で目をギラつかせている。


「本当に俺より早く起きたの……?」


「はい! もちろん!」


 いつもの寝起きの悪さからは考えられないほどハキハキした返事……。怖いです。


「大体1時間くらい前ですかね?」


「1時間前?!」


「はい。新君の寝顔見てたらすぐでしたけどね」


 咲良がズズイと顔を近づけてくる。近すぎ……?


「で、そろそろ私も我慢の限界なんですけど?」


 ニヤリと口角を上げる咲良がいつもと違う妖麗さを纏っていた。


「まずは手始めにおはようのキスから――」


「てっ、手始めに、それ以降は許可してない、って、ちょっ」


 言い切らないうちに口を塞がれる。積極的すぎるって……


 いつもより強い。ていうか長い。そして、上手い。小学生みたいな感想しか考えられないほど、俺の頭は咲良で満たされていた。


「ふふ、悪くないですよね? おはようのキスも」


「ま、まぁね」


 ちょっと朝イチにすることとしては刺激が強い気もするけど……


「それじゃあ、明日からも――」


「それとこれとは話が別です」


「むうぅぅ……」


 拗ねてる咲良がかわいい……じゃなくて、こんなの毎朝やられてたら俺の理性がぶっ壊れちゃいそうなので、さすがに承諾しかねる。


「でもでも、今日はいいですよね! 私、早起きできましたよ?」


「まぁ、今日は、ね」


「やったー!」


 咲良は無邪気に喜んでいるけど、俺はこれからの展開を考えたら緊張感が襲いかかってきました……



「うーん、やっぱり早起きっていいですね」


 ひと通り俺との触れ合いを楽しんだ咲良が伸びをしている。


「俺はもう一眠りしたいけどね……」


 まさか早起きで咲良に負けることがあるなんて、思ってもみなかった。


「今日は家でゴロゴロの予定でしたけど、具体的には何かしたいことないんですか?」


「うーん、特には。何もしないことをゴロゴロっていうんじゃないの?」


「そうですけど……何もしないなら、もう一回くらい……」


 やばい、また咲良の目がギラついてる。話題を変えなきゃ。


「そっ、そうだ、テストも近いし勉強とか……」


「先週やりましたよね? 一日みっちり」


 ひっ、ひぇぇ。怖いぃ。


「と、とりあえずご飯食べようか」


「はぁ、しょうがないですねぇ」


 何とか咲良を収めて、正確には一旦咲良から避難して、ご飯作りに取り掛かる。


 何度か手伝ってくれたこともあるのだが、余計にヒヤヒヤしてしまうので、最近は、キッチンは俺の聖域になっていた。


「今日もパンでいい?」


「できれば新君がいいですかね?」


 恐らく新婚夫婦でもありえない返しですよ、それ。


 朝からフルスロットルな咲良を上手くかわしつつ、ご飯の準備を進める。


「新君って、彼女が料理できないの嫌ですか?」


「え? 何で?」


「いやー、私、料理だけはできなくて、恐らくこれからも出来ないんですよ」


「言い切っちゃうんだ、それ……」


「はい!」


「そんな自信満々に言われても……」


「でも、もし新君が料理ができるお嫁さんじゃないと嫌だって言うんだったら、もうちょっと頑張ってみようかなって」


 ちょっと気になるところもあったけど、まぁ、一旦置いとくか。


「別に嫌だとは思わないけどな。料理好きだし」


「ふーん、新君は私の手料理は食べたくないと?」


「そりゃあ食べたいけど、無理する必要はないのかなって。人には得意、不得意があるわけで」


「確かにそうですけど……」


 少し寂しげな顔をしている咲良。


「じゃあさ、やっぱり一緒にやろ? 俺も別に上手くできるわけじゃないけどさ」


「え? いいんですか?」


「まぁ、やる気があるなら」


 同居生活一発目に少しだけ手伝ってくれたが、まぁ、なかなかの腕前でしたねぇ。それから、料理は俺がってなってたけど、気を使わなくてもいい関係になった俺たちなら、ちゃんとした料理の練習が出来るかもしれない。


「やる気、あります!」


「じゃあ、段々とやってみようか。それともう一つ」


「はい、何でしょう?」


「……さっき『お嫁さん』とおっしゃいましたよね?」


 咲良の顔がポッと赤くなる。


「きっ、きっ気付っ、気付いてたんですかぁ……?」


 さっきまでのグイグイきていた咲良は何処へ……?


「いや私だってね、こんなこと言うの恥ずかしいんですよ。恥ずかしいんですけど、やっぱり彼女になったからにはそういうこと考えちゃうというか、そこは恋する乙女というか」


「一旦落ち着いて……」


 今までに類を見ないほどの早口。


「て、ていうか、新君はそういうの考えないんですか?」


「うーん、あんまり。今は咲良と一緒に居れるだけで幸せっていうか」


「え? ちょちょちょ、またそんなこと言って……」


 これは形勢逆転といったところか。さっきよりも何倍も赤くなって茹でダコみたいになってる咲良がかわいすぎて、俺の方も恥ずかしくなってきた。


「と、とりあえずご飯食べますよ!?」


 明らかな照れ隠し。今日は俺の勝ちでいいですかね。俺は一体何と戦っているのでしょうか……?

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