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第28話 本当の彼氏に

「俺は最初から生きる道が決まってた」


 真剣に話す俺を見て、咲良も姿勢を正す。そんな畏まらなくてもいいのに……


「でもさ、一昨日は話さなかったけど、それでも良いかなって思ってたんだよね」


 これは最近自分で気づいた気持ち。あの頃の俺は気付かぬうちに将来が保障されている自分の立場に甘えていたんだと思う。


「環境は最高だったし、何より両親は俺にしっかり愛を注いでくれていた、はず」


「でも、こっちに来ることを選んだんですよね」


「そう、結局は逃げたんだよ、俺は」


 思わずネガティブな言葉が漏れた。でも、これが一番の答えだと思う。


「自分に向けられた期待と、それを叶えるためのレール。全ては揃っていたけど、自分の意思ではなかった。だから苦しくなっちゃった」


「それは、逃げではないと思います」


 咲良がキッパリと言い切ってくれる。


「だって、そのレールの通りに進むのか、その列車から降りて一人で歩き出すかは新君次第じゃないですか。だから、新君は逃げてなんて……」


「ありがとね、咲良」


 俺の心の中に引っかかっていたものを肯定してくれたことが嬉しかった。でも、俺が一番伝えたいのはこのことじゃない。



「俺さ、こっちに来てよかったって思ってる」


「それは何よりです」


「でも、これも全部……そう全部、咲良のおかげなんだよ」


「私ですか……?」


 怪訝そうな顔で見つめてくる咲良。


 俺が一番伝えたかった気持ち。それは、咲良への感謝の気持ちだった。


「正直、こっち来てもそんなに面白くないんじゃないかと思ってた」


 実際、最初の1ヶ月はどちらかと言うと無機質なものだった。誰かとちゃんと仲良くなるわけではなく、クラスの中で空気のように生きていく。


 そんな中で、同じように過ごしていた咲良に惹かれたんだと思う。


「でもさ、咲良の彼氏のフリっていう大切な任務ができて、同居まですることになって」


「そう考えると、私って新君に相当関わってるんですね……」


 今更ですか……?



「そう、だから感謝を伝えたいなって。ちゃんと言葉で、向き合って」


 俺も再度姿勢を正す。


「咲良、俺に出会ってくれてありがとう」


 普段なら小っ恥ずかしいセリフ。それでも今なら、心からの言葉として自信を持って言うことができた。


「いえいえ、こちらこそたくさん助けてくれてありがとうございます」


 二人でペコペコと頭を下げる。


「なんか、恥ずかしいですね……」


 まぁ、これからもっと恥ずかしいこと言うんですけどね。



「この1週間半、咲良と一緒にいてさ、その……」


 緊張して上手く言葉にできない。さっきは勢いで喋れたのに。


「すごい、楽しかったんだよね」


 違う、俺が言いたいのはこんな軽い言葉じゃなくて……


「私も、です」


 俺がもっと良い言葉を探し当てる前に、咲良が同意してくれた。


「正直、咲良が好きって言ってくれて嬉しかった。すぐにでも、俺も!って言いたかった」


「じゃあ、意識してくれてたんですね」


「当たり前じゃん。咲良が俺に意識させてみせるって言ってくれた時にはもう……」


「えっ、早過ぎじゃないですか?」


 咲良がニコッと笑っている。やっぱり彼女は笑顔が似合う。


 よし、そろそろ俺も覚悟を決めるか。


「だからさ、咲良、さっきも言っちゃったんだけど」


「はっ、はい」


「俺は咲良のことが好きです。だから――」


「だから……?」


「俺と、付き合ってください!」


 やっと言えたこの言葉。たった1週間ちょっとだったけど、とてつもなく長く感じられた。


 あとは咲良の返事を待つだけだ。


「新君、本当に私で良いんですか?」


「うん、咲良が良い」


「じゃあ……よろしくお願いします!」


 咲良が俺に抱きついてきた。咲良の鼓動が伝わってくる。俺も咲良の背中に腕を回して抱きしめる。


 彼氏のフリは今日で終わりだ。だって、本当の恋人になったんだから。



「ふふっ、新君が彼氏だ!」


 ずっとニヤニヤして抱きついている咲良の頭を撫でてあげると、また口角を上げる。


 かわい過ぎるだろっ!


「新君、彼女になったからには、これまで以上に嫉妬しちゃうかもしれないので行動には気をつけてくださいね」


「はい、わかってます」


 そう、やっと彼女という肩書きを手に入れた咲良は、俺を束縛する権利を正式に手に入れた(?)らしい。


「本当に嫉妬しちゃいますからね、拗ねちゃうし、いじけちゃいますからね!」


「そんな咲良もかわいいかもな……」


「ちょっとー!」


 俺も今、最高に口角が上がってます。



「あっ、あの、新君。私たちカップルになったんですよね?」


「まぁ、そうだね」


「じゃっ、じゃあ、あの、キス……とか?」


「キスか……、したいの?」


「えっ、だって、恋人同士でキスするのは普通じゃないですか。だから、その、したいっていうか、そのー。やっぱり、したいですよ!」


 はい、よく言えました。


 顔を赤らめている咲良に顔を近づける。分かりやすく力んでいてかわいい。


 唇と唇が当たる。一気に甘い匂いが鼻を抜ける。柔らかな感触が伝わってくる。


「はい、終わり」


 そこまで長い時間交わしていたわけではなかったが、咲良の表情は完全にとろけていた。


 本当にかわいすぎる……!


 彼氏のフリは今日までで終わり。これからは、咲良は大事な大事な彼女だ。

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