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第26話 久しぶりのお話

「おっ、新〜、今日も早いね」


「おはよ、暖愛さん」


「昨日はありがとね、わざわざ付き合ってくれて」


「ううん、暇だったし」


 昨日は結局18時過ぎまで大村邸に拘束される形になった。まぁ、楽しかったから良いけども……


「咲良ちゃんもありがとね!」


 まだ人が少ない教室に暖愛さんの透き通った声が響く。その声の宛先となった咲良はペコリと頭を下げ、いつも通りの読書に戻っていく。


「……ねぇ新、私もしかして咲良ちゃんに嫌われてる?」


「いや、元々あんまり感情表に出さないタイプなだけだと思うけど」


 昨日は結構喋ってたので、暖愛さんへの抗体も付いたのではないかと思っていたが、まだ心を開ききっていないようだ。


 まぁ無理も良くないよな。ゆっくり、ゆっくり。



「ところで、新。遠足の買い出しって日曜だったっけ?」


「うん、その予定だったけど?」


「……買い出しの後って時間ある?」


「まぁ、多分」


「じゃあさ、また話したいことがあるんだけど買い出しの後同じカフェ行っても良い?」


 話したいこと、か。前回は帰りが遅くなって咲良に怒られたが、今回は休日だし、帰りが遅くなって怒られるということもないだろう。


「良いよ。同じとこね」


「やった! よろしくね〜」


 今日はやけに機嫌が良い暖愛さん。何か良いことでもあったのかな。



「……新君」


 暖愛さんがいなくなってから小さく声をかけてきたのは正樹君だった。


「任せといて」


 彼が言わんとしてることは分かる。そう、俺に託された任務。


 正樹君のことをどう思ってるか暖愛さんに聞くというこの任務を果たすのに、買い出しの後のタイミングは丁度良いじゃん!というメッセージだろう。


 人の会話を盗み聞きしてるのは良くないだろうけど、この距離での暖愛さんの声を耳に入れるなと言う方が不可能である。


 隣の席で正樹君がやり過ぎなくらいに頭を下げている。


 逆に不自然ですよ??



「いっ、一条君!」


 聞き覚えのある声が俺を呼んだのは、教室が少し賑やかになってからだった。


「おはよ、大村さん」


 振り返えると、昨日暖愛さんによって『友達』という関係になった大村凛が立っていた。


「あのー、凛で良いですよ? わざわざ名字だと面倒くさいでしょうし……」


「あー、でも呼び捨てだと咲良に怒られちゃいそうだからな……。凛さんでも良い?」


「あっ、はい、じゃあそれで」


「昨日はごめんね、急にお邪魔しちゃって。大豪邸で驚いちゃったよ」


「いえいえ! ウチなんか一条君のご実家に比べたら全然です」


「そんなことないよ?」


 確かに実家の方が広いかもしれないけど、厳かな雰囲気と開放感は凛さんの家の方が好印象だった。第一、実家にはあまり良い思い出がないので、イメージダウンしてる節はあるが……


「もし良かったらまたいらしてください。今度はもっと色々準備しとくので!」


「ありがと。じゃあ楽しみにしてる」


 自分でもぎこちないと思う笑顔を見せると、凛さんはペコペコと頭を下げて自分の席へ向かっていった。


 やっぱり俺もまだ人と話すのは慣れてないなぁ。咲良に偉そうなこと言ってるけど、俺も大して変わらないかもな……



 朝には賑やかだった教室も、一日の授業が終わる頃にはみんな魂抜けたんかと思うくらい、撃沈していた。


 一日真面目に授業を受けて疲れ切ってる人もいれば、一日中の睡眠学習から解き放たれた授業なんて聞かなくてもいい天才たち(俺はこっち)もいて、一概に疲れたと言っても色んな人がいるわけです。


「咲良、帰る?」


「はい、今日は二人で……」


「もちろん。行こっか」


 月曜は正樹君の相談に乗り、昨日は暖愛さんたちに巻き込まれて二人での帰宅時間はあまり取れなかった。昨日は帰ってからも疲れ切っちゃってお喋りできる感じじゃなかったし。



 校門を出て歩いていくと、咲良の機嫌があまりにも悪い。


 理由は何となく分かるけど。


「あのさ……」


「家に行ったら話しましょうね」


 不自然なくらいの笑顔を浮かべて、咲良が俺の言葉を遮るように話し始める。


 これ、過去一ヤバいやつかも……


 咲良にも隠していた俺の過去。もちろんいつかは話さなければいけない時が来るかもしれないとは思っていたが、まさかこんなに早く打ち明けることになるとは。



 家に着くとすぐ、咲良がベッドの上に腰掛ける。


「じゃあ、お話ししましょうか?」


「はい……」


「昨日聞いちゃおうかなとも思ったんですけど――」


 話題はやはり昨日のこと。


「何で黙ってたんですか?」


 今までで一番視線が痛い。


「俺がこっちに来たのは、自分をあの立場から解放するためだった。それを果たすためには知られたくなかったんだよね」


「私にも、ですか……」


「……うん」


 重い沈黙が流れる。


「すみません。同居人だからって話したくないこともありますよね」


「いや、そんなつもりじゃ……」


 ――ない。とは言い切れなかった。俺が続きの言葉を紡げないのを感じとり、咲良が俺から目を背けた。またも重苦しい沈黙が俺たちを包む。


 同居生活で初めての大きな亀裂。塞ぐには時間がかかりそうだ。

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