第24話 遊びのお誘い
来週に迫った遠足のせいもあり、クラス全体が少しだけフワフワした雰囲気をしていた。
その直後には高校生として初めての定期考査が待ち構えているわけだが、まぁ、それは遠足終わった後でも何とかなる……のか?
まぁ、高校生たるもの勉強だけしてれば良いわけではない。楽しむ時は楽しまないと。うんうん。
こんなことを授業中に考えている時点で、俺も勉強に本腰が入っていないうちの一人なのだろう。
この眠くなる昼下がりの5時限目に古典という、睡眠導入剤のような授業があるのがいけない。現にクラスの三分の一くらいが完全にダウンしてしまっている。
「……新君、みんな寝ちゃってるね」
「ね、俺も寝ちゃおうかな」
「じゃあ、俺もお供させて頂きます!」
正樹君と小声で冗談を言い合いながら、惰性でノートに板書していく。
昨日、彼の相談に乗ったこともあって、更に接しやすくなった気がする。もちろん元々フレンドリーだったけど一つ一つの言葉が柔らかくなったように感じる。
眠すぎた古典に引きずられ、午後いっぱいの記憶がほとんど吹っ飛んでしまったが、今日も一日頑張ったからよしとしよう。
「じゃあ、咲良、帰るか……ってあれ?」
いつも通り一緒に帰ろうと咲良に声をかけようとすると、何故か咲良が女子たちに囲まれていた。
一人は暖愛さんだけど、あと二人は……?
「あっ、新! 新もこの後暇でしょ?」
「暇だけど……なんかあるの?」
俺の答えに暖愛さんが目を輝かせる。何か嫌な予感……
「いや、みんなで遊びに行こうかなって。あんたら二人と、うちら三人」
暖愛さんが無理やり隣の二人と肩を組む。
大村凛と大野麻耶。一軍女子の中でも特に暖愛さんと一緒にいることが多い二人だ。
「暖愛、やっぱり悪いよ。二人の時間を邪魔するなんてさ」
「そうだよ。いつも通り私たちだけでも良くない?」
恐らく気を使っているのか、こんな陰キャたちとは関わりたくないと思っているのか、二人はあまり乗り気ではないようだ。
「大丈夫だって。私たち友達だもんね、新?」
――友達。そう、俺と暖愛さんはちゃんとした友達になったのだ。一緒に遊びに行くくらい普通だろう。
「まぁ、それはそうだけどさ」
俺一人だったら別に断る理由はない。でも……
「咲良は、どう?」
いくら心を開いてきたと言っても、まだまだ人とガッツリ触れるのは慣れていないだろう。咲良の負担になるなら、今日は断った方が……
「私は……新君が一緒なら、行ってもいいかもです」
予想外の答えが返ってきて少したじろぐ。
「ほら、咲良ちゃんもこう言ってることだし、いいでしょ?」
まぁ、咲良が良いと言うなら、俺に断る理由はない。
「まぁ、良いよ」
「じゃあ、決まり! で、どこ行く?」
あっ、まだ決まってない感じですか?
「ゲーセンは先週行ったし、カラオケもなぁ、ありきたりって感じ」
「かといって、他にあんまり良い所思いつかないしなぁ」
どうやら相当遊び回ってるみたい。俺なんかには想像もできない華々しい高校生活が会話から伺える。
「あっ、じゃあ、ウチ来る? 今日親いないし」
大村さんが助け舟を出してくれた。
「おっ、凛、良いの? 凛の家行くの久しぶりだなぁ、楽しみ! じゃあみんなで凛の家にレッツゴー!」
なんか、暖愛さんいつもよりテンション高いな。俺たちを誘うということは何か考えがあってのことなんだろうけど、全く見当がつかない。
学校からバスで10分ほどのところに大村さんの家はあった。
「おおっ、相変わらずの大豪邸!」
「やめてよ、暖愛〜」
暖愛さんの言うとおり、周りの家の3倍はあろうかという敷地にどっしりとした真っ白の豪邸がそびえたっていた。
「凛のお父さんはお医者さんなんだよね」
「うん、まぁ」
「いいなー、私もこんな家住んでみたい。新もそう思うでしょ」
「あぁ、うん」
15年間都内の一等地に構えられた豪邸で専属執事付きの生活をしてましたなんて口が裂けても言えない。
もちろん暖愛さんたちは、そして咲良も、俺が大企業の御曹司であるなんていう事実は知らない。それを知られないためにこの学校にきたと言っても過言ではないから本来の目的は果たせてるわけだが。
「どうぞ、入って」
「お邪魔しまーす」
荘厳な外観だけでなく、内装と相当こだわっているようだ。シックな色合いで統一された玄関は、迎え入れる客人の心を癒すように感じられるし、リビングへと続く廊下も、玄関のテイストを引き継ぐように落ち着いたデザインになっていた。
そして圧巻はリビング。大きな庭を望める一面の窓と、吹き抜けになっている開放感ある空間が、廊下までとは一変した印象を俺たちに与えてくれた。
「みんな紅茶でいい?」
「いいよー! 良いよね?」
なぜ確認よりも同意が先なのか分からないが、暖愛さんの返事に誰も異論はないようだ。
皆がこの大豪邸に見惚れている中(俺はどこか懐かしく感じていたが……)、大村さんがみんなの分の紅茶を運んできてくれた。
良い香りのダージリンを楽しみながら、俺は気になっていたことを聞いてみる。
「ねぇ、暖愛さん」
「うん? どした?」
「なんで今日俺たちのこと誘ってくれたの?」
「……聞きたい?」
あっ、意地悪な顔。俺の嫌な予感は当たっているのかもしれない。面倒なことに巻き込まれないといいが……




