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第23話 正樹君の本音

「それで、協力して欲しいことって?」


「えーっと、俺も良く分かんないんだけどさ」


 正樹君が言葉を詰まらせる。いくらコミュニケーション能力お化けの彼でも、余裕がなくなることがあるんだなぁ。普段こんな彼を見ることがないので、なんか得した気分。


「新君からみてさ、俺と暖愛が話してる時、どんな風に見えてる?」


「うーん、まぁ、仲良さそうっていうか。普通に友達同士で話してる感じ?」


「やっぱりそうだよね……」


 何故か少し残念そうな顔を見せる正樹君。仲良さそうと言われてがっかりするってどういうこと?


「俺はさ、暖愛さんと話す時にやっぱり意識しちゃうんだよ」


「そうなんだ。全然そんな風に見えないけど」


「それが問題なんだよ。どうしても自分の気持ちを隠そうと頑張っちゃってさ」


「つまりは、暖愛さんに自分の気持ちが伝わらないんじゃないかと心配しているわけですか」


「そういうこと! さすが新君!」


 正樹君に褒められて正直嬉しかったが、相談に乗ってる時に喜びすぎるのは良くないと思うので、一応冷静を装っておこう。


「……うん? じゃあ、俺は何すればいいの?」


「それなんだけど、新君さ、暖愛の気持ちを探ってみてくれない?」


「気持ちって、正樹君のことをどう思ってるかってこと?」


「そう、どうかな?」


 正樹君が両手を合わせてお願いしてくる。そんなに頼まれて断れるほど、俺には勇気がない。


「いいよ。週末は遠足の買い出しにも行くと思うし、その時にでも話題出してみるね」


「ホント!? ありがとう!」


 わざわざ俺を信頼して頼んでくれたんだから、しっかりと任務を遂行しなければならない。



 俺に相談して肩の荷が降りたのか、正樹君がいつものように話し始めた。


「いやー、やっぱり新君に相談して良かったよ。なんか、良い意味で自然体っていうか。人の心に入り込んでいくのが上手いっていうか。きっと新君に頼めば大丈夫だと思ったんだよね!」


 これはきっと褒めているんだよな?


 まぁ、喜んでおくか。


「正樹君もいつもみんなと仲良くしてて凄いよね。俺には絶対できないや」


「ありがとね。でも、実はちょっと無理してんだよね……」


 無理してる――そんな言葉を残しながら、正樹君の表情が曇る。


「俺さ、昔からみんなとすぐ仲良くなれて、だから友達には困らなかったんだけど。でも、やっぱりみんなに良い顔するのは疲れちゃってさ」


 正樹君が明らかに無理して口角を上げる。


「正樹君、俺には気使わなくていいよ」


「あっ、ごめん。つい癖でさ」


「ううん、全然大丈夫」


「ありがと。新君は優しいな、すごい話しやすい」


 これがまだ彼のお世辞の範囲内なのか、本心なのかは分からない。でも、今の俺に出来るのは彼の話を聞くことだけだ。


「ほら、やっぱり人それぞれ性格も違うし、価値観も違うわけじゃん。だから、一方を大事にしたらもう一方を否定することになっちゃって。そうやって友情は壊れてくんだろうなって」


 また、悲しそうな顔をしている正樹君。


「だから時々、どうしたら良いか分からなくなっちゃうことが多くて。ごめんね、こんなに話しちゃって」


「気にしないで」


 そうは言ったものの、俺なんかがアドバイスできることはない。だから、ただ耳を傾けるだけ。そう、一言も漏らさずに。


「大事なのは自分の気持ちだって。そう分かっててもやっぱり周りを気にしちゃって。だから、新君。君に出会えて良かった」


「俺なんか、何にもしてないよ」


「いや、俺は新君と一緒にいると、凄い楽なんだよね」


 気がつくと正樹君の頬を涙が伝っていた。それほど気を張っていたのだろう。


「正樹君、溜め込みすぎないでね。もし苦しくなったら、いつでも俺に相談して。力になれるかは怪しいけどね……?」


「うん、ありがとう。暖愛のこともよろしくね」


「うん、任せといて」


 俺たちは立ち上がって、また明日と言葉を交わし、それぞれの帰路についた。



 先週の暖愛さんもそうだったが、みんな自分の弱いところを抱えてるんだなぁ。咲良もそうだった。もちろん、俺も。


 父の跡を継がなきゃいけないという重圧から逃れるために、俺は逃げた。


 でも、逃げて良かったと思う。あのまま無機質な人生を送るよりは、今のうちに自分で道を逸れて始まったサバイバル生活が俺を数段成長させてくれてる気がする。


 新たな環境。人との出会い。広がった視界。今まで気づかなかった本当の自分を曝け出させてくれた。この余計なことを考えてしまう癖も、決して悪いものではないのかもしれない。



 西岡荘に帰ると、俺の帰りを待っていた咲良が出迎えてくれた。


「おかえりなさい。早かったですね」


「うん、ちょっと話しただけだったから」


「早く帰ってきて偉い、偉い」


 咲良が恥ずかしがりながら俺の頭をそっと撫でる。


 こっちに来てよかった一番の理由は咲良と出会えたことだろう。これは間違いない。


「よし、晩御飯作るけど、何が良い?」


「何でもいいですよ」


「あっ、それ一番めんどくさい奴」


「じゃあ、新君のおすすめで」


「大して変わってないけど……」


 もう互いに気を使わなくなった俺たち。こうやって笑っている咲良を見ていると、俺もついに一歩を踏み出さないといけないと思わされる。


 よし、俺も頑張るか……!

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