第21話 日曜日は映画
「そういえば、明日はどうする?」
夕食を食べながら、俺は咲良に明日の予定を聞いてみる。
「うーん、どっちでもいいですよ。家でゴロゴロでも外出るでも。あっ、でも勉強はもういいかな……」
どうやら今日の勉強が相当効いたようだ。急に一日中勉強したら疲れるに決まってる。
「じゃあ、明日は外に出てみようか。どっか行きたいとこある?」
「特には……欲しいものもないですし……」
一週間同居してみて分かったことだが、彼女には本当に物欲がない。服、化粧品、文房具も必要最低限で済ませているように見える。
「あとはやりたいことない?」
「やりたいことですか……」
また考えこんでしまった咲良。そんなに悩むことなのだろうか。自分が好きなことを言ってくれればいいのに。
「逆に新君は行きたいとこないんですか?」
「俺が行きたいところか……」
逆に質問を返されると、なかなかすぐには思い浮かばないものだな。
これまで自分がやりたいことを簡単にできる環境にいなかったので、好きなことや趣味というものを持ったことがない。
でも、強いて言うなら……
「映画、とか?」
俺の言葉に咲良がゆったりと頷く。
「いいですね。なんか見たいのあります?」
「最近のは分かんないなぁ」
「じゃあ、私見たいのがあったんですけど……!」
咲良がいつも以上に目をキラキラとさせて、俺を見つめている。
「そんなに見たいなら、明日見に行ってみる?」
「え!? いいんですか?」
「うん、どうせ予定も無かったからさ」
何故か咲良が驚いたような表情を浮かべているが、とりあえず明日の予定は決まったので良かった。
雲一つない、とはいかないものの嬉しい晴天となった日曜日。俺たちは街の中心部にある映画館に向かっていた。
比較的最近出来たところらしく、経営難が叫ばれる現代では比較的珍しいのかもしれない。
家から15分ほどかけて、俺たちは目的の映画館に着いた。
こうして二人で外出するのは、学校以外では初めてなので、どうしても緊張を隠せない。
隣の咲良はカジュアルめなデニムパンツに鮮やかな赤いカーディガンを合わせている。対して俺は、うん。地味。適当なパーカーに動きやすいズボンを合わせただけ。
特にデートとかいう名目もないので、本当に何も考えずに選んでしまった。思ったより気合いが入っている咲良とのギャップで風邪をひいてしまいそうだ。
映画館に入った俺たちは、ドリンクを求めて長蛇の列に並ぶ。ちなみにチケットは昨日のうちに咲良が予約してくれたそうだ。
「そういえば、咲良」
「はい?」
「今日見る映画って何なの?」
全て咲良に任せてのこのこと付いてきた俺は、一番肝心な見る映画について何も聞いていなかった。
「あっ、確かに言ってなかったですね。うーんと、あっ、あれです!」
咲良が俺の後ろを指差した。そこには一枚のポスターが貼られていた。
「え?」
俺の目に飛び込んできたのは最近話題のホラー映画のポスターだった。
「本当にあれを見るの?」
「はい、そうですよ?」
さも当然ですよと言わんばかりの顔でこちらを見つめてくる咲良。もう今更逃げられない。
「私、昔からホラー映画好きなんですよね。いつもじゃ絶対に刺激されないところがつつかれる感じっていうか」
「……は、はぁ」
全く理解はできないが、咲良が楽しめるならそれでいいか。
それに、俺もホラー映画が苦手というわけではない。これから見るらしいこの映画も、たくさん広告が出ていて気になっていたものだったし、たまにはこういうのも良いのかな……?
結局気持ちが落ち着かないまま、俺たちはドリンクをゲットし、遂に自分たちの席についた。
「結構人いるね」
「はい、日曜日だからですかね?」
咲良の言う通り、席は7割近くが埋まり、俺のイメージよりも数段混み合っていた。
「あっ、始まりそう」
何個かの広告を挟み、本編が始まった。
「……ぅわっ!」
始まって30分くらい。耐性のない俺は一つ一つの展開にご丁寧にリアクションを残していた。
隣の席で悠々と見続けている咲良が、俺がリアクションするたびに少し不安そうな表情でこちらを見てくる。
俺だけではなく、時々甲高い叫び声が色々な席から響いていた。
「……新君、大丈夫ですか?」
「まぁ、今のところは」
「結構怖いですよね。私もずっとドキドキしてます」
全くそんな素振りは見えないが、本人が言っているからそうなのだろう。
「多分あと半分くらいなので、頑張ってくださいね」
「はい……」
ストーリーもいよいよクライマックスかというところに差し掛かり、緊張感が一気に高まる。
「そろそろ終わりそうですね」
「うん、そうだね……」
もう全く余裕がなくなってしまった俺は、返事を返すだけでやっとだった。
最後のシーンも終わり、俺たちはシアターを出た。
「新君、もしかして結構ビビってました?」
「もしかしなくても、ですね」
「なんかすみません。昨日のうちに言っとけばよかったですね」
「いや、聞かなかったこっちが悪いから。それに楽しかったし」
「本当ですか!? じゃあ次も――」
このままだと次の約束も取り付けられてしまいそうなのでさっさと家に帰ろう。
俺と咲良の初めての週末は、なかなかのハードスケジュールで終わりを告げた。




