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第20話 ドキドキの勉強会

「ここまでは大丈夫そう?」


 数学の問題集と睨めっこしている咲良に声を掛ける。


 勉強は苦手だと言っていたが、数学が特に苦手なようで。確かに授業スピードはまあまあ早いので、一度置いてかれると追いつくのもなかなか大変だろう。


 そして咲良も置いてかれた一人のようで。


「うーん、あんまり分かんないです……」


 自信なさげに問題と向き合っている咲良。ここは、基礎からしっかり教えた方が良さそうだ。


 あまり勉強を人に教えた経験はない。逆に小学校に入る前から家庭教師がついていた。人に教えるのって難しいな……


 色々と試行錯誤しながらも、初歩の型は理解してくれたようだ。あとはこれを使って解くだけなのだが……


「これはこうやって解けばいいんですかね?」


「あー、これはそっちの方が楽かな。ほら、分子を因数分解すると約分できるよね?」


「うーん、難しいですね……?」


 早速、どの型を使えば良いかという問題にぶち当たっている。俺が教えているのも、全て中学の時の家庭教師の受け売りなので、前提から難しいのかもしれない。


「まずは一個ずつ考えていこうか」


 ここは粘り強く教えていこう。今まで勉強で困った経験がないので、正直彼女の気持ちは分かりかねるのだが、出来るだけ丁寧に。



「よし、最後に展開すると?」


「あっ! 解けた!」


 ようやく一問を解けたようだ。


 ここまで来れれば、あとは演習あるのみ。ただひたすらに同じような問題を解いて解き方を脳に染み込ませていく。地道だが、これが一番定着する気がする。



「これ、合ってます?」


「うん、合ってるよ」


「やった!」


 小さくガッツポーズしている咲良が羨ましく見える。勉強ができるようになるって、こんなに楽しいことなんだなぁ。


「大分スラスラ解けるようになってきたね」


「はい、新君のおかげです」


 ニコニコと、学校では絶対に見せないような笑顔で見つめてくる咲良に、思わずドキッとする。


「ほっ、ほら次も解いてみて」


「はーい」


 咲良に好きと言われてから、いや、もっと前からだろうが、俺の心は段々と苦しくなっていた。


 彼女は俺のことを思ってくれているのに、俺にはその気持ちに応える勇気がない。今まで恋愛というものをしたことがないのもあるが、恋に高いハードルを感じていた。


 もちろん、咲良の気持ちは嬉しいし、俺もこの一週間で咲良の魅力をたくさん知ることができた。


 家でしか見せない表情、メガネをとった無防備な姿、強い独占欲。初めは戸惑ったことが、今では彼女の一番の魅力に感じられる。


 あと一歩、踏み出さなければいけないのは、きっと俺だ。でも……!


「ねぇ、咲良」


「はい?」


「咲良ってさ、俺のこといつから好きだったの?」


 いきなり何を聞いてるんだと自分でも思うが、咲良はわざわざペンを止めて答えてくれた。


「いつからって、えっ、初めて会った時から、とか?」


「そんなに早く?」


「うーん、好きだったかと言われると微妙ですけど、かっこいいなとは思いましたよ」


「ふーん」


「でも、やっぱり助けてくれた時じゃないですか?」


「じゃあ一週間前くらい?」


「そうですね、本気で好きになったのはそこからですね」


 恥ずかしがらずに真剣に答えてくれる咲良に、こっちの方が恥ずかしくなってくる。


「ていうか、どうして急にそんなこと聞いたんですか?」


「べっ、別に深い意味はないけど……」


 明らかな攻守交代に俺は思わず身構える。


「でも、意識してるってことじゃないんですか?」


 咲良がさっきまでとはまた違う意地悪な笑みを浮かべている。


「そういうことですよね? 新君?」


「まっ、まぁ」


「『まぁ』って、どういう意味ですか?」


「分かるじゃん。なんとなく」


「分かんないです」


 即答。あまりの即答に驚いたが、これはしっかりと言葉にしなさいということですかね……?


「どういう意味なんですか?」


「まぁ、意識はしてる、かな?」


「え? つまり……?」


 俺の言葉に、咲良の口角がさらに上がる。


「期待してもいいってことですか?」


「まぁ、はい。そういうことです」


 もう逃れられないだろう。結局、自分で墓穴を掘った形になったが、自分の気持ちを伝える機会にはなった。


 そして何より、咲良が喜んでくれている。


「え? 本当に期待していいんですか?」


「うん、そうだね」


「えっ、それは恋愛的にってことですか?」


「そうだね」


 なぜか自分で聞いといて恥ずかしくなっている咲良。そしてなぜか自分の気持ちを伝えることになった俺。


 微妙な空気が流れる中、俺たちは静かに勉強に戻っていった。



 早くなった鼓動は、ますます速さを増していくように、俺の心は最高潮にドキドキしていた。


 咲良は今どう思ってるんだろうか。もちろん好きだとは言ってくれてるので、マイナスではないだろうが、いまいち本心が読めない。


 ドキドキしているのは咲良も一緒なのだろう。耳まで真っ赤にしている。そんなところも可愛い。俺、本当に好きすぎるかもしれない。


 土曜日に急遽開かれた勉強会は、何故か互いに恥ずかしくなって終わりを告げた。まだあと三週間の同居生活が残っている。俺たちの関係が変化することはあるのだろうか。

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