第19話 初めての休日
咲良と迎える初めての休日。それ以外には何の変哲もない土曜日の朝。俺はいつも通りの早起きを敢行していた。
咲良は、言うまでもなくまだ眠っている。
時刻は朝6時半。こんなに早起きして何をするのか。特に決まったことはない。勉強をしてみたり、読書をしてみたり、近くの公園に走りに行ったり。
それでも、俺がこの習慣を続けてきたのは、中学時代の厳しく統制された生活の名残りなのだろう。
休みの日も一日中勉強。究極の経営者になるためには、一瞬足りとも手を抜くことは許されない。その父の教えのもと、15年間の人生を歩んできた。
その結果、俺は父の手から逃れるように、大鷹学園へと進学したのだった。
ちなみに、大鷹学園も県内ではそこそこ頭が良いとされている。都立のトップ校には遠く及ばないとしても、毎年、難関大学へと生徒をコンスタントに送り出している。
まぁ、父の目から見たらクズのように映ったようだったが。
俺が大鷹学園へ進学したいと言い出したのは、中三の夏休みのことだった。
俺が通っていた中高一貫の学校は、中学から高校に上がるときの試験はなく、いわゆる、内部進学という形が取られていた。
だから、その頃の俺たちは、受験だ、受験だとピリピリしていた訳ではなく、ただひたすらに高校の範囲を進んでいく。そんな日々を送っていた。
そんな時期だったこともあり、俺の大鷹学園への志望は、親、先生、同級生たちに大きな衝撃を与えたようだった。
成績は悪くなかった。ましてや、調子が良ければ、上から五本の指に入るような時もあった。だからこそ、俺の決定は意外なものに思えたのだろう。
父からは『見損なった』『もう二度と顔を見せるな』そんな言葉をかけられ、正直精神的にもキツかった。
俺は一人っ子だったので、父の会社を継ぐ期待は俺だけに向けられていた。そのアテが外れたとなると、父が血相を変えて怒ったのも頷ける話だ。
とまぁ、高校生にしてなかなかのハードイベントを越えてきた俺は、こうして、一人、いや、期間限定で二人暮らしをしている。
あれだけひどい言葉を浴びせていた父も、いざ一人息子が離れて暮らすとなると、可愛がりたくなるものなのか、十分すぎるほどの仕送りを送ってくれている。
ただ俺も、たくさん迷惑をかけたこともあり、必要な分以外は手を出さないようにしている。ただ最近は人が増えて、少し出費が増し気味であるが。
咲良も自分の分の生活費は出すと言っていたが、1ヶ月だけなのもあるし、家賃も一部屋分でいいと大家さんが言っていたので、そこまで多くは受け取らないつもりだ。
全く受け取らないのも、咲良が嫌がりそうなので、少しは貰っておこうと思うが。
まぁ、こんな感じで、休みの日の朝から自分の過去を振り返っているような男なので、特段な趣味もなく、休みもゴロゴロして終わり……だったのだが、今は咲良がいる。
普段学校があってもギリギリまで起きない彼女が、休みの日にわざわざ早く起きる訳もなく。
スースーと寝息を立てている咲良の顔を見ていると、この激動の一週間を思い出す。
彼氏のフリ、同居、告白、色んなことがあったが、ここでまた振り返り始めると、本当に今日一日中、回想だけで終わってしまうので、深くは考えないようにするが。
でも本当に、大変な一週間だった。それは咲良にとってもだろう。
咲良だけじゃなく、正樹君、暖愛さんとも仲良くなった。特に暖愛さんとは、まぁ、今は友達。これからも、多分。友達。
正樹君は、まだよく分からない。でも、多分、仲良し。かな?
結局色々考えてしまっているが、まぁ、これは癖なのでしょうがない。
色々なことをしながら時間を潰していると、丁度咲良が起きたようだ。
「おはよう、咲良」
「新君、そっか、今日は休みか……」
まだ寝ぼけ気分の咲良の目が覚めるのを待ちつつ、朝ごはんの準備を進める。
「咲良、今日なんかしたいことある?」
「……特にはないですかね?」
「買い物とか、遊びに、とか。特になし?」
「そうですね、根っからのインドア派なので。新君は何かしたいことないんですか?」
「うーん、俺もあんまり……」
どうやらインドア派ということは共通事項のようだ。今日も一日中ゴロゴロしとけばいいかな?
朝ごはんを食べ終えた咲良は、やっと眠気が覚めてきたようで。
「じゃあ、一緒に勉強とかする?」
課題も出ているし、丁度もうすぐテストが来る。高校入ってから初の定期テストだ。
普段の課題から推察するに、そこまで問題のレベルは高くないだろうが、せっかく周りよりもアドバンテージがあるなら、圧倒的な成績を取りたいとも思う。
「いいんですか? 私、勉強はあんまり得意じゃなくて……」
「だったらちょっと教えてあげようか? 上手く教えられるかは分かんないけど」
咲良が分かりやすく目をキラキラさせている。俺も勉強相手が欲しいかったので丁度いい。
「じゃあ、早速やろうか」
というわけで、二人での初めての週末は突発勉強会で幕を開けた。




