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第18話 意識していることの意味

「……遅い!」


「すみません……」


 アパートに帰って来た俺は、部屋に入って早々、咲良に詰められていた。


「買い出しだけ、の時間じゃないですよね?」


「はい、すみません」


 とりあえず、俺には謝ることしかできない。


「今、何時ですか?」


「6時過ぎです。すみません」


 咲良がジトッとした目で俺を睨んでいる。


「新君、謝れば良いと思ってません?」


 簡単に俺の心を見透かしてくる咲良。さすがの洞察力です。


「それで、暖愛さんと何してたんですか?」


「買い出しに行って、その後にカフェに……」


「二人で?」


「うん、二人だけど?」


 咲良がなぜか顔をしかめる。


「本当にカフェですか……?」


「え?」


「本当は暖愛さんの家まで行って、二人で良からぬことをとか――」


「ありません」


 俺のキッパリとした答えに、咲良が一瞬目を見開く。


「そんなことある訳ないでしょ。さすがに話が飛躍しすぎ」


「……そうですよね、すみません」


 少し安心した表情に変わった咲良に、今度は俺から質問してみる。


「そんなに気になる?」


「はい、気になります」


 思ったよりストレートに帰ってきた返事。そんなに興味ありますか……?


「咲良はさ、俺のこと意識してるって言ってたけど、あれってどういう意味なの?」


「どういう意味か……ですか」


 咲良が口を紡ぐ。


 正直、彼女の意識してるという言葉が何を指すのか。その答えは薄々分かっている。


 でも、彼女の口から直接聞きたいという気持ちが強かった。自分の気持ちと向き合うためにも。


「言わなきゃダメですか?」


「言って欲しい、かな」


「じゃあ言いますよ?」


「はい、どうぞ」


「――好きです。新君のことが」



「やっぱり、そういうことだよねぇ」


「気づいてたってことですか!?」


「そりゃ、あんなセリフ言われたら、ね」


 もはや気づかれてないと思っていたことに驚きだが、分かりやすく顔を赤くしている咲良を見ていると、俺まで少し恥ずかしくなってきた。


 少し重くなった空気を突き破るように、咲良が口を開く。


「だから、暖愛さんに嫉妬してたんです。新君には私だけを見て欲しいのに。本当だったら二人きりで買い出しなんて行って欲しくなかったのに」


「それどころか、カフェまで行ってたしね」


「本当ですよ、ズルい……!」


 拗ねている様子の咲良に俺はさらに質問を重ねる。


「じゃあさ、これからはどう接したらいい?」


「別に、今まで通りでいいですよ。さっきのは告白っていえば告白なのかもしれないですけど、自分の気持ちを押し付けたくはないので」


「そっか、じゃあとりあえず、学校で彼氏のフリをしている同居人っていうスタンスで」


「はい、そっちの方が。これから絶対好きにさせますから」


 咲良の意思表示が前よりもだいぶくっきりしてきた。


 ていうか、まだちゃんと話し始めて一週間も経ってないことに驚きを隠せない。


 さすがに展開が早すぎやしないか?



「実は今日さ、暖愛さんと友達になったんだよね」


「友達ですか? てっきり二人はもうとっくに仲良しなのかと……」


「うん、まぁ、そうなんだけど、正式な友達?っていうか。とにかく、前よりも距離が縮まったって感じかな」


「それをわざわざ私に言うのはどういうつもりですか?」


「まぁ、これからちょっと暖愛さんと話したりとか、そういうのは許して欲しいなって」


「許すも何も、私はまだ彼女じゃないですから。新君を束縛する権利はありません」


 もう相当束縛されてる気がしなくもないですが……


「それに、『友達』なんですよね?」


 一瞬、今日最後に言われたセリフが頭を駆け巡る。


「うん、あくまで『友達』」


 少なくとも、俺からしたら。


「じゃあ、全然問題ないです。どうぞお好きに」


「ありがとうございます」


 なぜか少しだけ、心にちくっとした罪悪感が残る。悪いことはしてない。でも、完全に『友達』という関係だけかと聞かれると、暖愛さんの気持ちは分からない。


 でも、咲良は許可してくれた。『友達』として暖愛さんに接することを。


 じゃあ、あとは俺がラインを越えなきゃ良いだけだ。


「でも、新君」


「うん?」


「絶対、好きになってもらいますから。そこは譲れないです」


 咲良の表情はいつにも増して真剣だ。俺も正面から自分と向き合わなければ。

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