第17話 本当の友達
「え?」
突然の告白に思わず声が漏れた。
暖愛さんが俺のことが好きだった? そんなこと……
「何そんなキョトンとしてんのさ」
「いや、だって……」
咲良が、暖愛さんが俺のことが好きだって言っていたのが頭に浮かぶ。あれは本当に当たってたってことだよな。
「俺のどこを好きになるわけ?」
俺の質問に、暖愛さんがいつもとは違う落ち着いた様子で答える。
「うーん、まずは顔」
「ストレートに来たね」
「だって、クラスの中でもダントツでイケメンだよ?」
今まであまり自分の顔の善し悪しを考えたことはなかったが、そんなに整っているのだろうか?
「あっ、もしかして気づいてない感じ? あんたのこと、クラスの女子全員が狙ってたと思うよ」
「そうなんだ」
「『そうなんだ』って、もう、鈍感すぎ!」
暖愛さんが笑いながら俺の肩を叩いてくる。
「だから、あんたが咲良ちゃんと付き合ってるって聞いた時、正直信じたくなかった」
暖愛さんがコーヒーを口に運ぶ。こういう時、気の利いた一言でも言えれば、場も和むだろうに。
「まだ理由はあるけど、聞く?」
「じゃあ、一応」
「おっ、聞きたがりだねぇ」
いつもの調子が戻って来た暖愛さん。
「別にそういうんじゃないよ」
「ふーん、まぁ話してあげる。私って友達少ないんだよね」
暖愛さんの目が、また憂いで曇ったように見えた。
友達がいない? 俺から見たらクラスの中心で、みんなから慕われているように見えるけどな。
「でも、いつも一緒にいる人たちは?」
「アイツらは、友達っていうより、取り巻き?」
「取り巻き、か……」
「ほら、私ってこういう性格だからさ、結構すぐ人との距離縮められんのね」
実際、俺もすぐに仲良くなれた。これが彼女の一番の武器だとも思うが。
「でもさ、本当の友達っていうか、そんなものが本当にいるのかもよく分かんないんだけど、深い付き合いが出来ないんだよね」
「広く浅くになっちゃうってことか」
「そう、だからあんたが、新が仲良くしてくれて嬉しかったんだと思う」
「そんなに特別なことはしてないけど」
「それが良いんだよ!」
急に暖愛さんの声量が増す。あまりの声の大きさに、カフェのお客さんの何人かがこちらを見てきたが、高校生が騒いでるだけと思ったのか、すぐに皆興味を失っていた。
「私とよくいる人たちはさ、どこか遠慮している気がするっていうか。私に気を遣ってるっていうか」
「それは、俺もちょっと感じてたかも」
いわゆる『一軍』と呼ばれるようなグループ。それをまとめているのは間違いなくこの暖愛さんだ。
彼女がそうした地位を確立していったのは、はつらつとした彼女の性格と、その淡麗な容姿からだったのだろう。
よく言えばクラスの人気者、ただ、見方を変えると都合の良いランドマークとも受け取れてしまう。
そんな環境でこの1ヶ月以上、いや、もっと長く心をすり減らして来たのかもしれない。
「やっぱ、分かるよね。だからさ、新が私に遠慮せずに接してくれて、一緒にお昼食べてくれて、何なら弁当まで作ってくれてさ。本当に嬉しかった」
嬉しそうに話す暖愛さんを見ていると、学校とはまた違う雰囲気が感じられた。
やはり学校での彼女は無理をしているのだろう。背負わなくても良いものを背負って。いや、背負わされて。
「じゃあさ、暖愛さん」
「うん?」
「俺たち、友達になろうよ」
この前、咲良にも言ったこのセリフ。まさか週に2回も言うことになるとは思わなかったが。
今、暖愛さんにはこの言葉が必要だと思った。何となくの付き合いじゃなくて、ちゃんとした友達に。
少し驚いた様子の暖愛さんも、段々といつもの笑顔が戻ってきた。
「ありがとう、じゃあ、よろしくお願いします」
一応の握手を交わして、俺と暖愛さんは本当の友達になるための第一歩を踏み出した。
気がつくと相当な時間が経っていた。家に咲良を待たせていく。早く帰らねば。
一応、少し遅くなるとは連絡していたものの、距離が近すぎると怒られてからすぐに、二人きりでカフェにいましたなんて言ったら、何をされるか分からない。
カフェを出ると、すでに日が沈み始めていた。
「今日はごめんね、買い物だけじゃなくて色々付き合わせちゃって」
「いや、全然。こちらこそ色々話してくれてありがとう」
「うん、私もスッキリしたわ。明日からも仲良くしてよね、『友達』の新君!」
嬉しそうに笑う暖愛さん。その笑顔は、学校でのものより数段輝いて見えた。これがずっと続くと良いな……
「じゃあ、また明日学校で」
「うん、また明日」
「あっ、新、最後に一個だけ」
「うん? どした?」
俺が振り向くと、暖愛さんが俺の耳元で小さく、でもはっきりと呟いた。
「……私、まだ新のこと諦めたわけじゃないから」
「えっ、それって、どういう――」
「じゃあねー!」
俺の質問に答えることなく、暖愛さんは反対方向へと走り去っていった。
最後に一瞬見せた笑顔は、さっきまでのものとはまた違う、少しの意地悪と妖麗さを感じさせる、初めて見た表情だった。
「えっと、これはどういう……?」
一人置いてけぼりを食らったような感情で、俺は西岡荘までの道を歩き始めた。




