第16話 買い出しの後に
咲良に家の鍵を預けて、俺と暖愛さんは遠足のバーベキューの買い出しへと向かった。
学校近くのホームセンター目指して、家とは逆の方向へと歩みを進める。
「そういえば、暖愛さんの家はこっちの方だったよね?」
「うん、もうちょっと真っ直ぐ行って、左の方に入っていくとすぐだよ」
考えてみると、暖愛さんと二人きりでガッツリ話すのは初めてかもしれない。
「新の家はどこなの?」
今度は逆に暖愛さんから質問が飛んできた。
「南町の方だよ」
「えっ、じゃあ咲良ちゃんと同じじゃん!」
「うん、まぁ」
「咲良ちゃん家とは近いの?」
一番危惧していた質問だ。
「……うん、まぁまぁかな」
俺の少し濁したような答えに、暖愛さんが少しだけ疑いの目線を向けてくる。こんなとこでバレるわけにはいかない。
「あっ、あそこだよね?」
丁度よく、目的地のホームセンターに到着した。
こういう時の運の良さには自信がある。
ホームセンターの中に入ると、目の前には園芸コーナーが広がっていた。慣れている暖愛さんについていきながら、キャンプ用品とかが置いてあるスペースね向かう。
迷いのない歩みに感心していると、だんだんと目指していたコーナーが見えて来た。
「とりあえず、お皿と紙コップ。割り箸とかはウチにあるし、あとは何がいるかな……」
「なんか、慣れてるね」
手際よく商品を手に取っていく暖愛さんを眺めながら、思わず言葉がこぼれる。
「それは家庭的ってこと?」
「まぁ、そんなところかな」
「じゃ、ありがと」
淡白な感謝の言葉が返って来たが、互いにそこまで気にすることなく、ものの15分くらいで買い出しは終わった。
「食材たちとかは今度の休みに行こうか」
「そうだね。あんまり持たないものもあるだろうし」
幸い、来週末はどちらの予定も空いていたので、本格的な『買い出し』は来週になりそうだ。
「じゃあ、バイバイ」
「うん、ありがとね、新」
暖愛さんと別れて来た道を戻っていく。これで一件落着か……
「ねぇ、新!」
少し歩いたところで、肩に手をかけられて、俺は歩みを止めた。
声の主はさっきまで一緒にいた暖愛さんだった。
「やっぱり、もうちょっと付き合ってくれない?」
どうやら、もう少しこのイベントは続くようだ。
俺は暖愛さんに連れられ、近くのカフェに入った。
「コーヒーでいい?」
「いいよ」
「ミルクとか砂糖とかいる?」
「いや、ブラックで」
「マジ? 私はどっちもつけようっと」
注文を終えた暖愛さんが急に改まった。
「それで、何の用?」
「実はさ、ずっと新に聞きたかったことがあって」
「ほう、じゃあ早速、その質問を聞かせてもらいましょうか」
暖愛さんはふぅと息をひとつ吐いて、ゆっくりと話し始めた。
「じゃあ、本題に入る前に一つだけ、良い?」
「まぁ、一つなら」
「咲良ちゃんとはいつから付き合ってたの?」
やはり質問は咲良に関するもの、というよりも、俺たちに関するものだった。
「えーと、大体1ヶ月前くらいかな」
「そんなに!?」
「まぁ、そうだね」
「新は東京の中学からだったよね?」
「よく覚えてるね」
「まぁ、珍しいからね。じゃあ、入学して結構すぐだったんだね」
「うん、ほとんど一目惚れみたいな」
自分でも、よくこんなスラスラと嘘を吐けるなと思ったが、人間というもの、やはり嘘は方便とはよく言ったものだ。
「え? それって、新からアプローチしたってこと?」
暖愛さんがポカンとした表情をしている。
「うん、意外?」
「意外だよ! 私てっきり咲良ちゃんが告白したのかと……」
そりゃ、実際俺から告白なんてしてないわけで、意外に思うのは正しい反応かもしれない。
「じゃあ、私、悪いこと考えちゃったなぁ……」
「悪いことって?」
「いや、実はそのことについて質問しようと思ってたんだけどね……」
暖愛さんが丁度届いたコーヒーにミルクと砂糖を入れて混ぜ合わせている。俺はブラックなので、すぐに飲んでも良いのだが、あいにくの猫舌なので少し冷めるまで待たなきゃいけない。
「それで、質問って何だったの?」
「あぁ、本当は咲良ちゃんとあんた、付き合ってないんじゃないの?って」
思わず、コーヒーカップを持ち上げた手が止まる。
「え? 何で?」
声に動揺が現れないように必死に努力する。それでも、自分でも少し震えているのがわかった。
「いや、単純な理由だよ。あの二人が絡んでたから」
あの二人――。恐らく、高橋、辛島の二人だろう。
「二人が、あんたと咲良ちゃんが付き合ってるらしいよって急に言い出してさ、私も嘘だと思ってたんだけど、すぐにあんたら二人が教室に一緒に戻って来て。あっ、これマジなのかな?って」
「それで、何で付き合ってないんじゃないかって?」
「いや、あの二人とあんたらが接点なさそうだなって。何でバレたのかって考えた時に、何かトラブルに巻き込まれて、仕方なく嘘をついてるんじゃないかなって」
理由まで完答されてしまい、さすがの観察眼だと思っていると、暖愛さんが、まだ何か言いたそうに口を開いた。
「それとさ、もう一個」
「もう一個?」
「これは、単なる願望なんだけど、私、あんたのこと好きだったからさ」




