ステファノの決意と異変の兆候
七十二、ステファノの決意と異変の兆候
ジェイドは強い回復魔法の力に目覚めているので、カルカッシの王族に迎えられるそうだ。
アリサに城の奥に案内され、フリルと装飾がついたドレスに着替えていた。
彼女の幼馴染のステファノは城の使用人として雇ってもらえることになったらしく、さっそく制服に着替え仕事を教わっていた。
マニはラムダのことが割り切れずシアンに置いて行かれたが、国の方針が魔王復活反対なので本音を言うと警戒される心配があった。
そこで疲れたのでゆっくりして帰りたいと言って城に居座ることにした。
「あーあ。とはいってもこれからどうしようかな。いったん帰った方が良かったのかな?」
マニは客間のソファの上で果物をかじって考えていた。
窓の外を見ると日が落ちてきて、あたりは薄暗くなっていた。
「あれ、ステファノ先輩?」
噴水のある城の庭を突っ切って、塀をよじ登り外に行く様子は夜勤とは思えなかった。
マニは気になって窓から外に出て、後をこっそり追いかけた。
城から出て町の路地裏に入ったところでステファノが振り向いた。
おそらくマニの追跡に最初から気づかれていたのだろう。
「あの、ステファノ先輩。どこへ行くんですか?」
マニは恐る恐る聞いた。
「ディーモンクラブに戻ってサイラスを助けに行く」
「無茶ですよ。圧倒的に戦力が違います」
「それはわかっている。今日も直接ムドラー女王にサイラス救出に軍を動かせないか頼んだが、会議で通らないと軍は動かせないと断られた」
「そんな……」
「俺はジェイドを庇って逃がしたサイラスを見捨てることはできない。もうジェイドは安全な所にいる。だから今度は俺がたとえ間に合わなかったとして一矢報いる」
シアンはまっすぐにマニの目を見た。
「僕たちが逃げたときはあの怖いヴィリが丁度外出してたけど、今はわからないですよ」
「それでも行く」
ステファノの決意は固かった。
「サイラスさんは魔王の入れ物候補らしいし、魂はカルカッシにあるので多分まだ無事だとは思います!僕も行きます」
「だめだ。お前はお前のしたいことがあるんだろ」
マニはラムダのことを思い出し、言葉が出なかった。
ステファノは再び路地裏を走り出した。
でも、色々詰んでいるし一つずつ問題を解決しないと前に進めない気がする。
マニは静かに息を吐いた。
「ステファノ先輩、待ってくださーい!」
マニはステファノの後を追って見失わないように走り出した。
ディーモンクラブのアジトでサイラスは窓の無い小部屋にいた。
彼は低い台の上に腰かけていたが、足枷は鎖に繋がれていて自由に動けなかった。
捕虜上がりでもテュールに向上心を気に入られ、ある程度は拠点の中で自由に行動できたが、ジェイドの入れ物候補の情報を漏洩し、逆らって逃がしたことは当然許されなかった。
彼は不安気にうつむいて座っていた。
ジェイドを逃がすための戦闘で魔力と体力を酷使した影響なのかめまいがしていた。
部屋のドアが開いて様子を見にテュールが入って来た。
座っているサイラスがふらついていたので思わず近寄って支えた。
「……兄上」
テュールを人違いするほど憔悴しているのか、目の焦点も合ってないように見えた。
次の瞬間テュールの全身に衝撃が走った。
この状態でサイラスが自分を不意打ちで攻撃できる余力があるとは思えなかった。
そっとサイラスを台に寝かせたテュールは嫌な予感がしていた。
シアンは帝国に帰るために東に向かって一人旅をしていた。
しかし、彼は今、最大の危機に陥っていた。
帝国と西の国々に連なる山脈の途中で動けなくなっていたのだ。
「えぐい、高い、落ちたら死ぬ」
なぜこんなところでシアンが立ち往生することになったかというと、彼は方向音痴だった。
道がわからなくなり、とりあえず山を越えようとしたら難関のクライミングコースだったようだ。
崖を登って頂上を目指すも、足をかける所がわからなくなり、降りることも登ることもできなくなっていた。
すでに手も足も体重を支えるのに限界で痛くなり体力も限界に近かった。
「大丈夫、まだいける」
そう自分に言い聞かせながらも足がすくんで全く動けなかった。
断崖絶壁で動けなくなったシアンの近くに大きな影が近づいて来ていた。




