悲しいお別れ
七十一、悲しいお別れ
マニたちは一晩中歩き通して、低木のある山を越えて逃げて来た。
月明りも無い視界の悪い中、足場の悪い勾配を歩き続けて足が痛くなっていた。
そこで小さな町の礼拝堂の長椅子で寝ることにした。
一休みした後、マリーが馴染みの店で食料を買ってきてくれた。
「ありがとうございます!」
マニはおなかがすいていたので差し入れに喜んだ。
「ところで、マリーちゃん。何でディーモンクラブを辞めたの。もしかして僕のために?」
「何でよ?」
ラフェの問いかけを即座にマリーが否定した。
「私は憧れの魔王様を復活させて全力で推したかっただけなの。組織では最初は何も知らされないまま、魔王の入れ物を作り出す実験の被検体にされたこともあったけどね。まあ、その後は幹部にまで出世して待遇は良かったけどね」
マリーは自分の鉄の仮面を片手で握った。
仮面は彼女の手の中で紙屑のように形を変えていた。
「実験は想定通りにはいかなかったみたいだけど、私はこの怪力を手に入れたの。色々あったけど、ジェイドたちと一緒にいれて楽しかったわ」
「マリーさん!」
ジェイドはマリーに駆け寄った。
マリーは優しくジェイドの両手を握った。
「ディーモンクラブってそんな実験もしてるの?」
「ええ。研究班はヴィリの部下たちよ」
マニの疑問にマリーは答えた。
ヴィリの部屋で見た数人の部下たちを思い出したマニは背筋がぞっとした。
一行はいったんムドラー女王たちがいるカルカッシに向かった。
ムドラー女王たちがジェイドを保護対象にしていたため、魔王の入れ物候補にされている彼女を安全な場所に連れて行くためだった。
マリーの話によると魔王の入れ物になれるのは力の覚醒したカルカッシの王族たちだということが判明したらしい。
カルカッシの町の手前でマリーとは別れることになった。
「この前、ここで騒動を起こしちゃったしね。面倒になる前に私は行くわ」
「そんなぁ」
「じゃあね」
ラフェは残念がったが、短い挨拶の後マリーは走り去ってすぐに見えなくなった。
城につくとすぐに一行はムドラー女王の待つ客間に通された。
「ジェイド様、よくぞご無事で」
側近の老人たちが感極まって泣き出した。
「こいつらはあの時の不審人物?」
ステファノが驚いているとムドラー女王が事情を説明した。
「彼らは私の側近なの。力に目覚めたジェイドを保護しようと孤児院に向かわせたのだけれど、説明不足で怖がらせてしまったみたいね。ごめん遊ばせ」
ムドラー女王は軽く一礼した。
まとめた長い髪が揺れ、甘い香水の香りがした。
「そうだったのか」
ステファノは納得したようだった。
「女王様、魔王の魂を持ってきました!魔王は実は悪い奴じゃなかったので捨てないであげてください」
ラフェが自慢げにネックレスを女王に差し出した。
「わかったわ」
ムドラー女王は慈悲深い笑みで了承した。
「ラフェよ。魔王の魂を封じて来たのか」
「お手柄じゃ。歩兵から大将軍に戻してやろう」
側近たちは前に出て喜んでラフェからネックレスを受け取った。
「また、馬に乗れる!」
ラフェは無邪気に飛び跳ねて喜んだ。
「あれは封印装置だったんだ……」
マニはラムダが焼却処分されないことに安堵しつつも、ラフェの話を聞かなさに呆れていた。
ムドラー女王はマニとシアンに向き直った。
「悲しいお知らせがあります。あなたたちの仲間のジャックさんが町の外れで変わり果てた姿で見つかりました。国家警察が捜査中ですがまだ犯人もわかりません。こんなことになって本当に申し訳ないわ」
ムドラー女王が背後に控えているアリサに視線で合図を送ると、アリサは手に持っていた硬貨の入った袋を差し出した。
「とりあえず、今までの協力のお礼です。違法薬物の共同捜査はまた日を改めて行いましょう。今回はお引き取りください」
「はい」
シアンは硬貨の入った袋をアリサから受け取った。
「マニ、旅費もできたことだしいったん国に戻るぞ」
「……うん、でもラムダさんは?」
「寿命なら仕方ないだろ。こんな状況なら任務続行も難しいぜ。リーダーのジャックさんは殉職したんだぞ」
「でも……」
マニが黙って悩んでいるとシアンは背を向けて扉の方へ向かって行った。
「俺は帰るからな」
シアンは扉を開け部屋を出て行ってしまった。
扉が閉まる音がしてマニは客間に置いて行かれたのに気づき、ただ立ち尽くしていた。




