逃走
七十、逃走
マリーは感情的になり、ディーモンクラブの任務を忘れ激高した。
その時、ディーモンクラブのアジトから爆発音が聞こえた。
「何なの?」
皆が一斉に夜の暗闇の中、アジトの方を振り向いた。
さかのぼること数分前、マニはディーモンクラブのアジトの自室で休んでいた。
「今日の夕食もおいしかったな」
ベッドの上に転がっていると、外から物音を声が聞こえた。
マニは心配になって部屋のドアを少し開けて様子を見てみることにした。
通路にサイラスがいて、マニの部屋の隣のステファノの部屋のドアを勢いよく叩いていた。
「ステファノ、開けてくれ!」
サイラスの様子は切羽詰まっているようだった。
すぐにステファノが部屋から驚いた様子で出て来た。
「急いで、ジェイドを連れてここから逃げるんだ。ボスはジェイドを魔王の入れ物にしようとしている」
「何だって?」
ステファノの決断は早かった。
物音を聞きつけたのか部屋から出て来たジェイドの手を引き、ステファノは通路を外に向かって走り出した。
しかしテュールが通路の角から現れ、二人の前に立ちふさがった。
「逃がさん」
ステファノは背後にジェイドを庇い、前に出た。
そこに背後からサイラスが剣を構え、テュールに向けた。
「ここは俺が止める。早く逃げろ」
「わかった」
ジェイドはすぐに逆方向に向かって走り去った。
「サイラス、ジェイドが候補から外れると次はお前の番なのだぞ」
そう言いながらテュールは剣を抜いた。
サイラスは一瞬固まったがすぐに踏み込んだ。
マニはこの混乱に乗じて脱走できるかもとひらめいた。
目の前をステファノとジェイドが通り過ぎていくがその先には戦闘員が数名駆け付けていた。
あーもう、ほっとけないよ。
マニは通路の天井に向けて炎の塊を放った。
爆発音がして天井には穴が開いた。
「二人とも、今のうちに天井から逃げるんだ!」
「マニ?」
マニは急いでジェイドを抱えて空に舞い上がった。
ステファノは一度しゃがんで跳躍し、天井の焼け落ちた穴からアジトの屋根に飛び乗った。
二人はアジトの屋根を走っていった。
屋根から飛び降りようとすると周りはすでに戦闘員たちに囲まれていた。
「どうしよう」
そこへシアンが駆け付けて、屋根の下で待ち構える戦闘員たちを斬り倒してくれた。
他にも初めて見る少年も加勢してくれた。
「シアン!」
「あいつらは知り合いか?」
ステファノが疑って聞いてくる。
「うん、まあ、腐れ縁的な?」
マニは答えながら屋根から飛び降りた。
そして抱えていたジェイドを地面に降ろした。
「すぐに追っ手が来るよ。とりあえず逃げよう」
ステファノはマニの詳しい事情を聞く前に逃げることが先だと判断し、走りだした。
しかし、すぐに大勢の追っ手が来た。
背後からの矢の追撃をかわすのもやっとなのに、正面にはマリーが腰に手を当てて立っていた。
「マリーさん」
皆、マリーの強さは知っていたため立ちすくんだ。
「私、もうディーモンクラブ辞めるわ」
「はい?」
「みんなも逃げるんでしょ。闇夜に紛れて早く行きましょう。私が案内するわ」
「マリーさん、ありがとうございます」
「しかし、追撃が厄介ね。ラフェ、あんた足止めしなさいよ」
「はーい」
ラフェは両手を前に出すと白く光る魔法陣から大きなクマのぬいぐるみを3匹出現させた。
そのクマは皆、帽子をかぶっていた。
「行くよ、ベイビーたち」
ラフェの掛け声でぬいぐるみたちは追っ手に突進していく。
追っ手の悲鳴が聞こえた。
その隙にマリーの案内でマニたちは徹夜で荒野を走り抜け、小さな町まで移動した。
町の小さな礼拝堂に逃げ込んだマニたちは一息ついていた。
ステンドグラスからは朝日が差し込んでいた。
「サイラス君、大丈夫かな」
ジェイドは涙を浮かべていた。
「すまない。お前を助けるだけで手いっぱいだったんだ」
ステファノがジェイドの髪をなでて励ました。
「ちょっと、ラフェ。サイラスを助けて来なさいよ。友人なんでしょ?」
「無茶言わないでよ。逃げ切るだけで限界だったんだからー」
マニは身を挺してジェイドたちを逃がしたサイラスのことを思い出していた。




