魔王の正体
六十九、魔王の正体
シアンは慌てて寝ていたラムダを揺すって起こした。
「おい、ラムダ。魔王問題全然大丈夫じゃないだろ!」
ラムダはゆっくりと起き上がり眠たげに目を開いた。
「まあ、潮時か……。そうみたいですね。実は私が天国から追放された時も力と魂は分離されました」
「えっ。ラムダって大物の天使だったんだね!」
最近出会って事情を知らないラフェは驚きつつも急展開への順応が早かった。
シアンは何となく察しがついていたのか黙って話を聞いていた。
続けてラムダは小枝を焚火の火に追加しながら他人事のように話し始めた。
「私の魂は南端のカニンヘン領に落ち、力の大半は西の方に落ちたみたいです。つまりこのあたりです。当時、力を分離された私は弱っていて、カニンヘン領の前当主の仕掛けた罠にはまって石になって死ぬ所でした。ですが、私は部下で一緒に落ちて来たフギンとムギンの尽力によって生き延びました」
「へえ」
相槌を打つ、ラフェの視線は夜空の月へ向いている。
あまり興味はないらしい。
「フギンとムギンの能力で石になった私の体に疑似的に生命を与えたのです。ですが、長くは持ちません。もう限界が来ています」
「それでお前はいつも疲れていたんだな」
シアンはいつもラムダが寝てばかりいるのは体力が無いのだと思っていた。
「もう一度、フギンとムギンにその魔法をかけてもらうことはできないのか」
「元々一時的な魔法を無理に長く使っているだけですからね。彼女たちの負担も限界でした」
ラムダが自分の見つめる手はもう石に戻りつつあった。
シアンは元婚約者であったヘレンの宝物殿に遊びに行ったときの天使の石像を思い出した。
あれは消耗を押さえていた姿なのかもしれなかった。
「あっ。マリーちゃんの気配が強い!」
沈黙を破るようにラフェが叫んだ。
シアンはとっさに剣を取って周りを見渡した。
岩陰からこちらの様子を伺いながら立っているマリーの姿があった。
「嘘……」
彼女の眉尻は下がっており、拳を固く握りしめて動揺しているようだった。
「憧れの魔王様がこのぼったくりかつすぐ逃げ出すあの悪魔だったなんて」
「マリーちゃん……」
ラフェは心配そうにマリーを見ている。
シアンはとりあえず今動けないであろうラムダの前に出た。
「なぜ、ここがわかったんだ?」
「僕に会いに来てくれたの?」
「何でそうなるのよ。夜回りよ」
マリーはきっぱり言い捨て、苛立ちを拳に込めて岩に叩きつけた。
ガンっと大きな音がして岩にひびが入った。
「ひい」
ラフェは短い悲鳴を上げた。
「すみません。そろそろ私は体が限界でみなさんとお別れのようです」
「こんな時にかよ」
ラムダはもう立てそうにもないのかうずくまったままだ。
シアンは次々と起こる問題に焦りながらマリーに剣を向けて警戒を続けた。
「あっ。ちょっと待ってて」
急にラフェが上着の下から首にかけていた大きなネックレスを取り出した。
そのネックレスは正方形の台の上に丸い石がはめ込まれていた。
「大将軍を解任された時に返し忘れていた魔王の魂の回収用の装置だよ。ラムダさん、この中に封印できるって女王の側近たちが言ってたよ。とりあえずここに隠れていたらいいんじゃないかな」
ラフェは慌ててラムダの方にペンダントを持って近づいた。
「ありがとうございます」
ラムダが小さな声でつぶやいた。
そのまま光がペンダントの丸い石に吸い込まれるとラムダは石像に戻り動かなくなった。
「よし」
ラフェはそのままそのペンダントを首から外して、マリーの方へ差し出した。
「はい、マリーちゃん。僕からのプレゼントだよ」
「おい、ラフェ。なんでディーモンクラブの奴に渡しているんだよ」
「だってムドラー女王たちって魔王復活阻止派だよ。側近たちに渡したらペンダントはゴミ箱行きだよ。そうしたらラムダさん可哀そうだし、復活派のマリーちゃんに渡した方が安全だよ。それにマリーちゃんの手柄になったら僕も嬉しいし」
ラフェは必死にシアンに説明した。
「それはそうだが……」
シアンは迷った。
ラムダは野心が大きいようには見えないので復活しても世界の脅威にはならないような気がした。
「それはもう、いらないわ」
マリーはラフェが差し出してくるペンダントを見て言いきった。




