ムドラー女王
六十五、ムドラー女王
カルカッシの町で冬を終えたジャックたちはこの町から出ている蒸気機関車でヘロン王国へ向かうことになった。
「西方の国は科学技術が発展していますね」
「ありがとうございます」
車内ではジャックとアリサが楽しそうに会話をしていた。
「乗り物があるって素晴らしいです」
ラムダは大喜びではしゃいでいた。
数時間後、列車はヘロン王国の駅へ着いた。
たくさんの人々が往来し栄えている国だった。
「じゃあ、とりあえず女王の城にご案内しまーす」
アリサが元気よく手を振って一行を案内する。
大きな街道を人ごみの中を進んで行くと、急にラムダがシアンの背後に隠れた。
「何だよ?」
シアンが怪訝そうに振り向くとラムダは視線で前方を示した。
「あそこ、マニさんを連れ去った仮面の女がいる……」
ラムダの視線の先には若い女性が瓶の中の飲み物を片手に歩いていた。
しかしその身のこなしは常人離れした無駄の無い歩き方だった。
シアンはすぐに剣を構えて女の前に出て行った。
「おい、お前。マニはどうした!」
「あーあ、仮面を外したのにばれたわね」
女は一気に瓶の残りを飲み干し、空き瓶をシアンに投げて来た。
シアンは瓶を切り裂き、女に向かって切りかかる。
女は袖から短剣を出し、シアンの剣を弾いた。
周りではたくさんの国民が何事だと騒ぎ始めた。
「あれはディーモンクラブ幹部のマリーです。気を付けてください!」
アリサが叫んだ。
それを聞いた民衆は慌てて逃げ出す。
「もう、せっかく休みを楽しんでいたのに」
そう言ってマリーは短剣を片手にシアンに襲い掛かった。
マリーの高速の攻撃の連続にシアンは押されていた。
「だからマニはどうしたんだよ」
「マニ?私の担当じゃないから詳しく知らないのよ」
重い短剣の柄の打撃をシアンに与える。
「ぐっ」
ポツポツと雨が降り始め、すぐに激しい雨が降って来た。
雨の中、マリーの短剣が腐食し折れた。
「厄介な魔法ね」
マリーは空へ飛んで逃げて行った。
シアンは打撃のダメージが回復せず、追うことはできなかった。
「ラムダ、俺に回復魔法をかけてくれ」
「ラジャ」
建物の軒下で雨をしのいでいたラムダは即答した。
シアンとマリーが戦っている頃、ジャックは逃げ惑う民衆の群れからシアンの加勢に行こうとしていた。
しかし急に強い力で袖を引かれた。
そこにはつなぎを来た少年が笑みを浮かべていた。
「ねえ、君はマニ君のお友達?」
シアンがラムダに治療を受けているとアリサが血相を変えて近寄って来た。
「ジャックさんがいません」
二人はその言葉に顔を曇らせた。
残った三人は重い雰囲気の中、とりあえず再び城へ向かうことにした。
街道を抜け、城門をくぐると広い庭園があった。
庭園の東屋に女性と数人の側近たちの姿が見えた。
「ムドラー女王、ただ今帰還しました」
アリサが頭を下げる。
「そう」
ムドラー女王は長い髪を一つにまとめ、胸には大きなダイヤモンドのネックレスをつけていた。
桃色のアイシャドウが印象的だった。
「帝国の皆様方、長い旅路ご苦労様でした。話は中で聞きましょう」
三人は女王と側近たちの後をついて城の中に入って行った。
シアンとラムダは城の奥の会議室の長いテーブルに各々腰かけた。
しばらくしてムルガー王女が会議室にアリサと側近たちと共に現れた。
「話は伺いました。西の国々から帝国への違法薬物の合同取り締まりのために来ていただいたのに、すでにそちら方は2人も行方不明者が出ているそうですね」
会議室に沈黙が流れる。
「これ以上お二人を危険な場所にお引止めすることはできません。帰還されるのでしたら、港まで遅らせます」
「マニを置いて帰れるかよ」
「そうです!マニさんがいないと私はカニンヘン領へ二度と戻れません。出禁にされます。そうなったら仕方ないけど」
シアンとラムダはすぐに抗議した。
「お二人とも事情があるのですね。わかりました。協力して悪名高いディーモンクラブを解体しましょう」




