撤退
六十四、撤退
マニは剣士に吹っ飛ばされて、地面に激突した。
その衝撃でさらに痛みが走った。
「うっ」
そこへ剣士が近づいてきて、大きな手が伸びて来た。
遮るように今まで待機していたジェイドが前に出る。
「……逃げるんだ」
マニはかすれた声を絞り出した。
しかし彼女は動かなかった。
大きな剣が小さな体に向かって振り下ろされる。
しかし、彼女がはった結界によって弾かれる。
「マニ君、大丈夫?」
そう言ってジェイドは結界を張りつつ、動けないマニの体を軽々と片手で担ぎあげた。
「?」
マニはジェイドの可愛い見た目から想像もつかない怪力に言葉を失った。
そのまま彼女はマニを担いだまま、剣士からの攻撃を結界で防ぎながら、走り出した。
向かう先はステファノがベテラン魔術師と戦っている場所だ。
髭を蓄え、数珠のマジックアイテムを身につけた魔術師の落石召喚攻撃にステファノは苦戦しているようだった。
ただ大きな石を降らせているわけでなく的確に狙いを定めている。
「おいの落石攻撃を受けてみろ」
一部交わしながら、剣で受け止めた後衝撃波のような攻撃を浴びせていた。
「おのれ」
魔術師もボロボロになりながらも攻撃を止めることはなかった。
そこで剣士がマニとジェイドを追うのを止め、魔術師に加勢した。
大振りの剣での攻撃まで加わり、ステファノはついに倒れて動けなくなってしまった。
「ステファノ君、今行くね」
ジェイドはもう片方の手で倒れたステファノを担ぐ。
結界で追っ手を阻みながら森の中に逃げ込んだ。
そこで待機していたテュールとすれ違った。
そのままジェイドは二人を担ぎながらも速さを保って足元の悪い森の中を走って逃げた。
「二人とも、今、治癒魔法賭けるから頑張って」
追っ手が来なくなり結界を張る必要がなくなったジェイドは二人を担いで走りながら回復魔法をかけてくれた。
マニは気が抜けて目を閉じた。
気が付くと森の入り口に立てられたらしい仮設の小屋にステファノと並んで寝せられていた。
あちこち包帯が巻かれ治療されていたようである。
「おい、起きたか?」
隣のステファノが声をかけてくれた。
彼も満身創痍のようである。
「お前はもっと早く動けるように精進しないとな。俺も人のことは言えないが」
「頑張ります」
小屋の入り口かけられた布を上げてジェイドが入って来た。
「一応、応急処置はしたけど、まだ安静にしててね。それからテュール様があの後、剣敵を蹴散らして町は占拠したって。二人の頑張りをほめてたよ」
「ジェイドも頑張ったじゃないか。ありがとう」
ステファノはジェイドにだけは気を許しているのかいつもより優しい態度だった。
「そうですよ。僕も助かりました。ジェイドさんって力持ちですね」
「えへへ」
ジェイドはそういってゆったりした長袖をめくると、鍛えられた上腕二頭筋を見せてくれた。
彼女も相当な鍛錬を積んでいるらしい。
「あの、二人はどうしてディーモンクラブに入ったんですか?」
マニはずっと気になっていることを聞いた。
この二人は魔王降臨に賛同して世の中を支配したいと思うようには見えなかったからだ。
ジェイドは地面にひかれた布の上に座り、話し始めた。
「私とステファノ君は孤児院にいたんだけど、ある日、知らない人たちが私を追いかけて来たの。その時はステファノ君が連れて逃げてくれたんだけど、孤児院に戻るのも怖くて。その後、二人でいろんな国や町を移動していた時にマリーさんが戦っている姿を見て憧れて入っちゃった」
「大変だったんだね」
「はあ」
ステファノがため息をついた。
彼が入った理由はジェイドについて行ってどんな場所でも彼女をまもるためなんだろうなあと思ったので彼には何も聞かないことにした。
「マニ君も大変だったね。ぼったくり悪魔に連れまわされて」
「う、うん」
「最近、このあたりの治安は乱れて人さらいも多いからな」
「はい」
二人はマニがマリーに変な奴から保護されたと信じているようだった。
マニ的にはマリーに強引に連れられてきたような気がするが。
今、僕は帝国から来た薬物密輸を防止するためのエージェントですとは言えないため、真実は話せず適当に濁すしかなかった。




