ヘロン王国の絶望的な状況
六十六、ヘロン王国の絶望的な状況
街中ではぐれたジャックの捜索は女王が地元警察に命じてくれた。
次の日、城の会議室で現在の状況説明が行われると聞いて、シアンとラムダは参加することにした。
会議室にはムドラー女王と側近の老人たち5人の他に少年一人がいた。
「初めまして、ラフェ・ファイターです。この国の兵士です。よろしくお願いします」
彼は眩しい笑顔で挨拶した。
会議室に設置されたコルクボードにはたくさんの資料がピンで張り付けてあった。
女王がそれを指示棒で指しながら説明していく。
「この方がディーモンクラブのボスです。ぜひ逮捕したいですね」
イラストには筋肉質の男が書かれていた。
他にも昨日町で接敵した仮面の女のイラストなどが貼ってあった。
「おお、すばらしいです。女王」
「最高です」
「神々しいですじゃ」
「素晴らしいです」
「感動しました」
5人の側近が口々に賞賛して、シアンとラムダは驚いてしまった。
「黙りなさい。話が進まないでしょう」
女王に注意され、側近たちは黙り込んだ。
続いて女王は少女が描かれているイラストを指した。
「この子はある日、突然、強力な回復魔法の力に目覚めたのでうちで保護して王族に加える予定でした。しかし誤解から逃げられてしまったのです。情報では今、ディーモンクラブにいると……」
「お前のせいじゃ」
「いや、お前のせいだろ」
「すみませんでした」
「ふう」
「……」
5人の側近は暗い表情を浮かべていた。
「貴方たちは焦って失敗しましたが、悔やんでも何もなりません。これからのことを考えましょう」
「女王!」
「ありがたい」
「黙りなさい。長くなるでしょう」
「……」
5人の側近が静かになった後、女王が話を続けた。
「なのでこの子を見つけても攻撃しないようにお願いします」
「わかりました」
「でも、大変なんだな。ヘロン王国も」
シアンが同情する。
「はい、国民や領土だけでなく王族までに被害が及んでいます。そして次はこの少年です」
女王は少年のイラストを指した。
「この子は私の親戚で強い力を持っていました。王族に認められてからも最前線で戦ってくれていましたが、戦場で行方不明となりました」
「へ、へえ」
「ご愁傷様です」
あまりのヘロン王国の詰んでいる状況にシアンとラムダは言葉を無くした。
5人の側近はうつむいている。
急に慌てたラフェが弁解を始めた。
「あれは不運な事故だったんだよ。僕が戦場で惚れたマリーちゃんに告白しようとしたら、彼女に逆上されてすごい勢いで襲い掛かられたんだよ。あんなかわいい子から必死に逃げて帰るのが精いっぱいだろ!仕方なかったんだよ」
「それで、サイラス様を置いて一人で逃げてきたと」
「愚かな」
「おのれラフェ」
「許さぬ」
「恥を知れ」
再び説明が横にそれ出した。
「私はそろそろアリサとゴルフに行く時間なので失礼しまーす」
急に女王は威厳ある口調から可愛らしい口調に変え、会議室をさっさと後にした。
「現実逃避もしたくなるよな」
「この国やばいですね」
紛糾する会議室をシアンとラムダはこっそり抜け出した。
その頃のマニは自室で目を覚ましていた。
「朝か……。訓練厳しいから行きたくないな。戦場では怪我をして逃げられなかったし」
とはいえいかないわけにも行かず、着替えてまずは朝食をとるために食堂に向かった。
食堂ではジェイドと厨房で働く少年が楽しそうに話をしていた。
ジェイドの朝食の量は筋肉をつけるためか朝から量がすごかった。
「よいしょっと」
マニは開いている席にこしかけ、トーストにジャムを塗ってパクっと食べた。
訓練場に着くとステファノ先輩の他に見慣れない少年が一人いて、剣をふるっていた。
「先輩、あの人は新入りですか?」
「いや、普段は事務の仕事をしているんだが、時々軍事訓練にも参加したがるんだ。テュール様の許可も取ってある」
「そうなんですか」
勝気な目をした少年が近寄って来た。
「俺はサイラス。よろしくな」
「僕はマニです。よろしくお願いします」
二人は握手を交わした。
サイラスは剣の扱いにも慣れていて強かった。
なぜこんなに強いのに事務仕事をしているのか気になったが、なんだか気軽に聞けないような雰囲気の少年だった。
「まったく事務仕事なんて俺は向いてないぜ」
「そうだろうな」
ステファノ先輩と話しながら訓練を楽しんでいるようだった。




