ヴィリの遊戯場
六十二、ヴィリの遊戯場
マニはディーモンクラブの拠点で与えられた私室から訓練所に向かっていた。
正体がばれるのが不安なので爪の剣を使ってないのだが、幹部の一人テュールに戦闘のセンスを認められ彼の部隊に配属が決まっていた。
その時に自分用の部屋をもらったのだった。
テュールの部隊には優しく明るいジェイドや戦闘訓練をつけてくれているステファノ先輩がいた。
ジェイドはヒーラーとして所属しているそうだ。
訓練で一緒になったことがないので彼女の役割はよくは知らなかった。
ステファノ先輩は訓練以外では殺気を放ってくることもなくなり、打ち解けた気がしていた。
おそらくこの建物は増築を繰り返したのであろう。
斜めに分岐した廊下の角をいくつか曲がった所で一人の少年が立っていた。
つなぎを来た少年はマニを見てにこやかに話しかけた。
「ねえ、君。こっちで一緒に遊ばない?」
少年はすぐ近くの錆ついた金属製の扉を指さした。
「ごめんね、僕これから訓練に行かないといけないんだ」
「えー。そんなの後にしなよ」
少年は断ったマニの腕をものすごく強い力で引っ張った。
そのまま空いた方の手で重そうな金属の扉を開けて強引にマニを部屋の中に引き入れた。
「はあ」
部屋の中は乱雑におもちゃが床に散らばり、数人が散らばってソファや椅子に座っていた。
厄介な少年に絡まれたマニはステファノに時間に遅れた言い訳を考え始めていた。
「新しいお友達も遊んでくれることになったので、輪投げを始めまーす!」
楽しそうに宣言した少年は床に落ちている100kgと刻印の入った黒い金属製の大きな輪を片手で拾った。
マニはその怪力に驚いたが少年の取り巻きたちは特に反応は無いようだった。
「えいっ」
可愛らしく輪は投げられたが激しく空を切り、3mほど離れた金属製の棒に大きな音を立てて入った。
一斉に取り巻きたちが拍手を送り、口々に賞賛した。
「さすがヴィリ様」
「ナイスコントロールです!」
ヴィリ様と呼ばれた少年は嬉しそうに自ら拍手した。
そして笑顔でマニの方を見た。
慌ててマニも拍手を送った。
あの敬われようと怪力はヴィリもこの組織の幹部に匹敵する存在に違いなかった。
機嫌を損ねては命が危ないと直感した。
「じゃあさ、次は新入りの君が投げてみてよ」
「えっこんな重い輪をなげるんですか?」
「それが輪投げのルールなの!」
口調からヴィリの機嫌がだんだん悪くなっているのを感じた。
マニは床に落ちている20kgと刻印してある輪を指した。
「僕は初心者だから20kgの輪でもいいですか?」
恐る恐る聞くとヴィリは20kgの輪をさっと拾い、無言で床に激しく叩きつけた。
床にぶつかった反動で跳んで来た金属製の輪をマニは必死で避けた。
「そんなの面白くないよ…。それと失敗したらスクワット5000回終わるまでここから帰れないから」
「ひどい」
マニは仕方なく100kgの輪を持ち上げようとするがいくら力を入れても持ち上がらなかった。
その時、金属製の扉が勢いよく音を立てて開いた。
同時にステファノが飛び込んできた。
「ヴィリ様、うちの隊員で遊ぶのはおやめください」
彼は剣をかまえて強い口調で言った。
「ステファノ先輩!」
マニはほっとしてステファノの後ろに逃げた。
「あーあ。楽しいところだったのに」
顔をしかめたヴィリの足元に魔法陣が暗く広がる。
ステファノが半歩ほど退いた時、背後から声がした。
「いい加減にしろ」
マニが振り向くとテュールが背後に立っていた。
するとヴィリが発動しかけていた魔法陣はほどけていった。
「テュールばっかり部下をつけてもらってずるいんだよ」
「お前は一体何人の部下に逃げられたと思っているんだ」
「またその話?もう帰っていいよ」
ヴィリは諦めたようでくるりと回り、背を向けて、肩をすくめた。
なんとかヴィリの部屋を脱出したマニは息を吐いた。
テュールは黙って先に歩いて行ってしまった。
「危なかったな。ヴィリ様は危険だから近づくなよ」
ステファノが忠告してくれた。
「…テュールにも気を付けるんだな」
さらに小声でマニにそう呟いた。
「はい!」
マニはステファノがテュールの護衛として付き従っているのを度々見ているので意外に思った。
「吹雪が晴れたら戦いが始まるぞ。お前もしっかり訓練しておくんだな」
ステファノがそう言って訓練場へ向かったので慌ててマニは追いかけた。
マニは短い間しかディーモンクラブにはいないが、彼はしんようできそうに見えたからだ。




