吹雪
六十一、吹雪
ジェイドは抱いていたぬいぐるみを脇に置いて、ソファをぴょこんと降りてマニの方に近づいてきた。
「ねえ、あなた魔法がかけられているんだね。今、ジェイドが解いてあげる」
少女が手をかざすと光が走り、元の年齢の姿に戻った。
衣装は破れてしまった。
「わあああああ」
マニは驚いて悲鳴を上げた。
一方ジェイドは落ち着いている。
「大丈夫、今ステファノ君の服を貸してあげるから」
そう言って彼女はクローゼットの方へ向かって行った。
悲鳴を聞きつけて背の高い男が扉を開けて部屋に入ってきた。
そして後ろに控えていた少年が剣を抜きマニの方へ向けた。
「お前、ジェイドに何をした?」
今にも首を切り落とされそうな勢いである。
「もしかしてマニカなの?」
遅れて部屋に入ってきたマリーが問いかける。
「はい、すみません」
マニは両手を上げて答えた。
ジェイドの説明により、マニは年齢を変え女装をしていたことがディーモンクラブの人たちにばれてしまった。
マニは自分を盾にしたラムダにここぞとばかりに罪を着せ、全部あの悪魔の呪いで趣味ということにして、なんとか自分に向かう少年の剣を収めることに成功した。
ジェイドの解呪の魔法は他者がかけたものしか反応しないらしく、竜の姿にまで戻らなかったのは幸いだった。
「あーあ。マニ君だっけ。可愛い子がいたから女子会もしつつ、ディーモンクラブの裏方で働いてもらおうと思ったのに」
マリーは悔しがっていた。
「あの、僕はそろそろ帰ります」
「ならぬ」
「えっ」
この場で一番偉そうな男に止められマニは動揺した。
「マニ君知らないの?この辺りはそろそろ冬になるからしばらく猛吹雪が止まないわよ。この部屋に来る途中、窓の外に雪がちらついていたのを見たわ」
「へー」
マリーの話で元の町には帰れないことを悟ったマニは肩を落とした。
「でも、大丈夫よ。一緒にあの悪魔に一矢報いましょう。テュール様もいいですよね」
「構わん」
テュールと呼ばれた男はステファノを連れ、部屋を出て行った。
次の日から屋内訓練場でステファノが剣の稽古をつけてくれた。
教え方はわかりやすいのだが、それは厳しかった。
「わっ」
また、マニはステファノの剣に押されてしまった。
「ちゃんと受け身を取れ」
「はい」
素振りを繰り返しながら、いつかはあのカニンヘン領の宝物殿に残して来た愛刀を振いたいと思っていたが、まさか、こんな形で指南を受けるとは思わず泣きそうになったマニだった。
訓練場から借りている部屋に戻る外の通路はとても冷えていて吹雪もやまず、とても飛んで帰れそうになかった。
灰色の空を眺めたマニは寒さに耐えきれず、すぐに建物内に入った。
「マニ君、お茶入れたよ」
暖められた居間ではジェイドが優しく気遣ってくれた。
「ほら、パンが焼けたぜ」
厨房で働く明るい少年の料理は本当においしかったし、話を聞いてくれて心が癒された。
そのおかげで辛い修行もなんとか耐えるマニだった。
マニがケースに入れられ運ばれていた頃、カルカッシではジャックたちは頭を抱えていた。
「これから寒気で身動きが取れなくなるのに、こんなことになるとは」
場は思い空気に包まれていた。
シアンの広場で目立つ作戦では何も成果が無かったようだ。
今は元の姿に戻り、壁に寄りかかって黙って話を聞いていた。
「戦闘員のマニさんがヒーラーのラムダさんを庇って行方不明。残念ですが、彼はもう……。今は次の段階に移るしかありません」
アリサはきっぱりと言った。
「その仮面の女性は我々が探していたおそらく魔王信者集団ディーモンクラブのメンバーです。今はこの天候で何もできませんが、吹雪が明けたら、反魔王降臨派の女王と合流しましょう」
西の国に点在している小国の一つの女王がアリサたちの本当の雇い主のようだった。
「ディーモンクラブの連中は魔王を降臨させ、利用しようとしています。魔王がどんな災いを起こすかわかっていないのです」
「わかりました。協力して阻止しましょう」
アリサとジャックは意気投合していた。




