廃墟の町
六十、廃墟の町
マニはケースごとしばらく運ばれた。
ガラスケースには通気口があり、息はできるので窒息の心配は無かった。
このまま運ばれていけば何か事件の手がかりがつかめるかもしれない。
町を出た後、マニは代り映えのしない風景を眺めていた。
しばらくして、廃墟のような町が見えて来た。
そこで、運ばれていたケースはいったん地面に降ろされる。
女性はガラスケースの枠の機械部分を操作して、ケースを開いてマニを外に出してくれた。
「あの、貴女は誰ですか?」
「私はマリーよ。お嬢さんは?」
一瞬理解できなかったが、自分が女装していることを思い出したマニは偽名を少し考え、こういった。
「マニカです。あの悪魔の医師の手伝いに雇われていました」
「そうなの。私は魔王降臨推進協会ディーモンクラブの幹部なのよ」
「へえ」
マニは来た!と確信した。
突然、マリーはガラスケースのガラス側面部分を蹴破った。
バリンと大きな音がする。
「あの、どうしたんですか?」
「悪魔捕獲計画失敗しちゃったから悪魔が暴れて逃げたことにするの。マニカちゃんは内緒にしててね。そうじゃないと私、叱られるもの」
そう言って首をすくめるマリーを見て、マニはこのディーモンクラブという組織が魔王降臨を企み、悪魔を集めようとしていることは分かった。
しかもかなりいい加減な幹部がいることも。
「さあ、行きましょ」
マリーはマニの手を引いて歩き出す。数十メートル先にアジトと思しき廃墟の町がある。
マニは慌てて立ち止まる。
「僕、いえ、私は魔王降臨実験に利用されるんですか?」
「何で?」
「噂で聞いたんです。若い娘を実験に使っているって」
「ええ?それはないない」
マリーが愉快そうに笑いだしたので、直感的に本当なのだろうと思う。
「じゃあ、私をどうして連れて来たんですか?」
「あの噂のぼったくり悪魔の側にいたら危ないと思って連れて来たの」
「……はい」
やがて廃墟の町の通りの入り口に着いた。
マリーは見張りと話していた。
壊れて機械の骨組みだけになったガラスケースを見せ、悪魔に逃げられたこと、迷子を保護したことを言っている。
見張りは相手が幹部だけあって、余計なことは言わず、黙って通してくれた。
廃れた町の通りをマリーと並んで歩く。
人影が時々こちらを見てくるが誰も声をかけて来なかった。
「どうして、悪魔を集めているんですか?」
マニは小声で隣を歩くマリーに聞いた。
「上司の命令よ。私にはよくわからないんだけどね」
通りを歩いて大きな廃屋に案内される。
その廊下をマリーの後をついていく。
途中の部屋のドアを開け、マニに部屋で待っているように言ってマリーは立ち去った。
今から上司に報告にしに行くらしい。
通された広い部屋の奥に、一人の少女がソファに座っていた。
長袖のワンピースを着て、可愛らしい顔をしていた。
無邪気に首をかしげてこちらを向いた。
「あなた、だれ?マリーさんのおともだち?」
「ええと、マリーさんとは町で今日出会ったみたいな?」
「へえ、そうなんだ。あたし、ジェイドよろしくね」
笑顔のジェイドを見て、こんな少女が危険な組織に普通にいるのを見て不安になったマニだった。
マリーは元気よく研究室の扉を開ける。
中は作りかけの装置が散乱した。
「テュール様、ただ今戻りましたー。悪魔には逃げられました」
「はあ」
奥の机に座っている男がため息をついた。
「捕獲ケースまで壊したのか?」
「悪魔が暴れて壊したのよ」
マリーは運んで来た無残にフレームだけになったケースの残骸を見せた。
「これは派手にやられたね」
部屋の端の機材に腰かけていた少年がやって来て、楽しそうにフレームにだけなった残骸にぶら下がって遊ぶ。
「やめろ、ヴィリ。装置をさらに壊す気か」
テュールの声は苛立っていた。
「ごめんごめん、でもこれくらいで壊れたらまた失敗するんじゃないの?」
ニヤニヤしながら謝る少年は全く悪いとは思っていないようだ。




