恋する乙女のはかりごと♡
五十四、恋する乙女のはかりごと♡
「わかりました。契約解除ですね」
「うん。もう、この土地に縛られないで自由に色々な所に行ってもいいんだよ」
まあ、天国からこの世界に落ちて来たのは仕方ないが、これからは好きな場所で自由に生きる方がいいだろう。
北の森には知り合いの悪魔が住んでいるし、もしかしたら知り合いかもしれない。
「一つ提案があるのですが、私と仲間の悪魔たちを引き続きカニンヘン領に住まわせてもらってもいいですか?結構、この土地や宝物殿自体は気に入っているのです」
「いっ、いいと思うよ!」
マニには申し出を無碍に扱うことはできなかった。
追い出したら追い出したで逆恨みされそうだ。
そして厄介な敵になることは間違いないだろう。
「ありがとうございます。我々はこれからも宝物殿や運営を手伝わせていただきます」
ラムダは本当に嬉しそうに口角を上げていた。
一息ついたところでマニはいったんドレイク領に帰ることにした。
とりあえず宝物殿から出られる状態になったので、ひとまずキャスやサンサにこれからのことを相談することにした。
急に配偶者が決まり、広大な領地を持つことになってしまい、どう向き合っていいかがまったくわからなかった。
「ヘレンさん、僕は疲れたのでいったん家に帰ります」
「わかりました。馬車を用意しますわ」
「来た時と同じように野宿しながら帰るので大丈夫です」
「一度ドレイク領に行かれるのですね。それなら屋敷で休んでから行かれてください」
「……ありがとうございます」
優しい物言いだったが断れるような雰囲気ではなく、マニたちは宝物殿の従業員入り口の前の空き地に停められた馬車に乗ってカニンヘンの屋敷へと行くことになった。
今ではカニンヘン家のいくつか並び立つ屋敷も、マニの家なのであった。
ヘレン・カニンヘンはカニンヘン辺境伯の一人娘として生まれた。
その時にはすでに父はメイドに手をつけて男児を設けていた。
母はそのメイドがお気に入りだったのでそのまま側に置き、私や父にはさほど興味を持っていなかったので、特に修羅場も無く平穏な暮らしが続いた。
天国の真下に位置するカニンヘン領では、時々、追放された天使が落ちてくる。
それを国防を建前に落ちてきて弱っている内に逃げ遅れた者を始末した。
使えそうな者は領内に仕掛けておいた術で無理やり使役したりしていた。
先祖代々少ない魔力を最大限に生かす工夫してきたことが、複雑なで独自の魔法の発明につながった。
ある日、とても美しく強いラムダという天使が落ちてきた。
悪魔に変化してからも、父の命令で天使の姿になっていた。
ラムダは今まで落ちて来た誰よりも天国の回復魔法や珍しい魔法について詳しかった。
父はラムダに命じて、宝物殿でのゲームで一族内の対抗勢力を次々粛清していった。
私は宝物殿の中に図書室にある魔法についての書物を読むのが好きだった。
足しげく通ううちに管理する悪魔たちとも顔見知りになった。
時が過ぎ、私とシアンの婚約が白紙になることが濃厚になった。
婿養子にシアンをカニンヘン家に迎えるという名実でいずれはベクトル領を併合するのが父の狙いだったが当てが外れたようだ。
彼は見目麗しい容姿をしていたが、反りが合わず心がときめいたことは無かった。
シアンの父の帰還祝いのパーティーで初めてマニを見た。
前々から令嬢の間で噂にはなっていた。
若くして戦功を立てて貴族になった竜がいると。
そんなの絶対憧れるに決まっている。
遠くから見た彼は妹や部下を大事にする素晴らしい人だった。
すぐさま大貴族の権力を使って他の貴族令嬢が寄り付かないよう圧力をかけた。
次の問題は収集癖のある父だ。
珍しい竜の標本を得て、宝物殿に飾ろうと企んでいた。
側近のタンは本来は争いを好まない性格だが、彼の母親の立場を守るために宝物殿のゲームの手伝いをさせられていたので、すぐに私の味方につくことを了承してくれた。
私は意を決して宝物殿の図書室を訪れた。
ラムダが本の整理をしていた。
「あなた、お父様から自由になりたくない?」
「お嬢様、何のご冗談ですか?」
ラムダはつくろったような笑顔で作業の手を止めた。
「私、どうしても欲しいものがあるの。取引がしたくて来たわ」
「話を聞こうか。ヘレン・カニンヘン」
椅子に膝を組んで腰かけた悪魔の丁寧な口調が一転して変わった。
この日、私は悪魔と契約を結んだ。




