黙とう
五十二、黙とう
背後から刺されたメネラウスは地面に倒れた。
傷口から血が流れだし、血の海が広がっていった。
「おのれ、貴様っ、裏切ったな……。ムギン、傷を治せ……」
しかし、命じられたムギンは近くに降り立った長身のフギンの陰に隠れて目をそらして黙っていた。
ヘレンがメネラウスの方にゆっくりと歩いてきた。
レオが庇っても完全に衝撃は防げなかったのか、髪をまとめていたバレッタは割れて落ちていた。
「いけませんわ、お父様。これはゲームのルールですから」
「うっ、……今すぐちゅう……」
次の瞬間、ユーエンの放った矢が彼の言葉を遮り、頭を貫いた。
「お父様、安らかにお眠りください」
ヘレンは少しの間、黙とうをささげた。
月夜の下で静寂が訪れた。
「規約により、ただ今を持って私がカニンヘン家の当主となります」
タンはヘレンの方に向かって跪いていた。
ヘレンの指示によって前当主の遺体は台車に乗せられた後、大きな白い布をかぶせられて、中庭から運び出された。
像が動くなんて!
マニは殴られて傷む頬を押さえて慌てて立ち上がった。
「それでは次の第3ゲームを始めます!」
ユーエンが首から下げたオカリナを吹いているが、どう考えてもでたらめに演奏しているように思える。
侵入者チームは未だ一人も欠けてはいないが、三人が酷い怪我を負って厳しい状況なのは変わりない。
「ユーエン、このゲームを中止なさい。」
「承知しました、ご主人様」
ユーエンは恭しく頭を下げた。
マニは足を引きずりながらもなんとかヘレンの近くまで歩いて行った。
「ゲームを中止するなんてことできるんですか?」
「ええ。悪魔との契約内容も父から相続していますので、ユーエンが運営しているゲームを中断させることもできるのです」
集まって来たココアとレオも安心した表情だった。
「ゲームで殺し合わずともマニ様とそのご家族、部下の方々が無事に宝物殿を出られる方法は他にありますわ。もちろん竜の角から作った剣もマニ様にお返しできますのよ」
「そんな方法あるんですね!」
「はい」
マニたちはムギンとフギンに回復魔法で傷を治してもらった。
彼女たちが患部に手をかざすと複雑な模様が現れ、淡く発光していた。
この土地は魔力の濃度が低いはずなのに、ベリータの教えてくれた回復魔法よりも早く傷が塞がっていった。
二人の扱う回復魔法のレベルはかなり高いもののようだ。
皆、服がゲームで焦げたり、破れたりしていたので宝物殿の従業員の更衣室で服を着替えることになった。
更衣室にはシャワールームもついているらしい。
ヘレンの案内で中庭から宝物殿に入り、通路を通った。
館内は明かりが灯されていた。
長い廊下をしばらく歩いて行き、あるところで目立たない壁と同色に塗装された金属製のドアをヘレンがドアノブを引いて開く。
初めて来た人は余程注意して見ないと気づかないだろう。
どうやらバックヤードに続いているらしい。
再び廊下を度々曲がりながら進むとお手洗いと更衣室があった。
「更衣室は男性用と女性用に分かれていますの。ココアちゃん、一緒に行きましょう」
マニとレオが男性用の更衣室に入ると、タンが着替えを持って来てくれた。
貸してくれるのは従業員の制服らしい。
自分たちに合いそうなサイズを持って来てくれた。
タンが来ている服は通常の従業員の着ている制服よりも、ネクタイや袖などから種類が違い高級そうな服だった。
きっと彼は役職付きが何かで服も違うのだろうなと思った。
更衣室でレオと二人で着替えていた。
「若、話がどうもうますぎじゃないですか?気を付けた方がいいと思いますぜ」
「うん、何か裏があるのかも……」
着替え終えて廊下に出ると、タンが外で待っていた。
まだココアとヘレンは着替えが終わってないそうなので、彼が先に二人を案内するという。
彼の後について廊下を歩いて、またいくつか角を曲がり、応接室に案内された。
その部屋の黒い革張りのソファに座ってココアたちの到着を待つことにした。
ローテーブルにはこれまた高そうなティーカップに熱い紅茶が注がれていた。




