神殿に迫る危機
四十二、神殿に迫る危険
じいじの家のキッチン兼リビングに香ばしい匂いが漂っていた。
サンサがオーブンで焼いたチーズの入った大きな丸いパイを切り分けている。
あまりにおいしそうなので、マニはつい一切れ食いついてしまった。
「あつっ」
「もう、こっそり食べようとするからよ」
じいじたちは工房で焼いた食器などを売って生計を立てているが、加えて小さな菜園を作ったり、少数の家畜を飼ったりして新鮮な食料を得ていた。
立地上、頻繁に食料品に買い物に行けないので半自給自足の生活を送っていた。
食事を終え、お茶を飲みながらみんなと意見を交わす。
「シアンのお父さんたちが戻ってきたのは良かったけど、カールには逃げられたし、なぜ村を襲ったのかはまだ何もわかってないなぁ」
シアンの父たちが領地に戻り次第、カールは解雇して手下とともに逮捕するとは言っていた。
ただ、いったん西側の町に下り、そこから山を迂回して平地を行くルートを取ると馬車を使っても20日間ぐらいはかかるらしい。
その期間また襲ってくるかもしれない。
「シアン君が狙いでも、お父さんたちがついていたら大丈夫だと思うわ。そもそも二人が戻った時点でベクトル家を叔父さんが継ぐ計画は厳しいんじゃないかな」
「ひと段落つきましたし、とりあえず、キャス様と合流しましょうよ」
「そうだね。サンサさんも一緒に行こう。あんなことがあって心配だし、犯人が逮捕されるまではその方が安全だよ」
「私はここに残るわ」
「えっ」
「キャス君に私が昔、国を一つ水没させたことを聞いたわよね。二度とそういうことにならないように早く魔法道具を開発して備えたいの」
かつて北の森の周辺にあった国ワルタルスは高度な魔法と魔法道具の技術が発展したという。
ココアに渡した魔法の杖も含め、今まで足元の池から出した品々は国ごと水没した時の遺産らしい。
「あの時、津波に押し流されたすべてが森の湖の底で眠っているの。そして私の足元についてまわる池とつながっていつでも取り出せるのよ」
「そうだったんだ」
「魔法は苦手だけど、新しい魔法道具を開発して自分の力をコントールできるようにしたいの、また苦しむ人々の顔を見たくない」
サンサの意思は固いようだ。
「でも、万が一サンサさんが狙いだったら、じいじも危険にさらすことになるんだよ」
証拠はないが、なんとなくマニはカールがサンサのことを狙っているような印象を受けた。
「それは……」
「確かに2回とも殲滅を狙っていた感がありましたね」
「……わかったわ。私も行く」
「すまんのう」
じいじに別れを告げ、一行はキャスが療養している宿場町に向かった。
サンサはうまく飛べないのでチャーリーの杖の後ろに乗せてもらった。
以前泊まっていた宿屋についたが、もうキャスは代金を払ってチェックアウトした後だった。
マニたちが発ったその日のうちに出ていったそうだ。
宿屋の主人にキャスから置手紙を預かっていると渡された。
「ええと、体調が良くなりましたが、まだ十分とは言えず足手まといになりそうなので帰りますですって」
「それじゃ、今日は宿屋に泊まって明日、神殿に戻って合流しよう」
「私はキャス様がいないなら今晩飲みに出かけます」
チャーリーは瞳を輝かせてはしゃいでいた。
「遊びたいのはわかるけど、明日二日酔いしたらどうするんですか?僕は領地も心配なので早く帰りたいんです。」
「マニさんが魔女様を背中に乗せて先に行ったらいいんじゃないんですか。まあ、私はお酒強いから二日酔いは大丈夫ですけどね」
「もっ元の姿に戻れば乗せられないこともなくはないけどっ」
「キャス君に夜遊びがばれたら怒られるわよ。まだ完全に解決したわけじゃないのだから」
そのころドレイク領のはずれの空き家にカールの手下たちが潜んでいた。
村を召喚獣に襲わせ、警戒したマニとココアを湖の魔女の所に向かわせないようにした。
結果、領主のマニは行ってしまったが、大きな戦力であるという噂の妹のココアは残ることになった。
彼らは時々獣を村に放ちながら、自分たちは身を潜めていた。
襲った村の人が逃げている間に盗んだ作物を食べ散らかしている。
埃をはらった椅子に腰かけてカードゲームをして暇を紛らわせていた。
西へ向かったカールたちはまだ帰ってこない。
「暇だな」
「今のうちに邪悪な神殿を粉々に破壊するか」
彼らは空き家を出て、森の方へ向かった。




