闇夜の暗殺
四十一、闇夜の暗殺
カールとその一味は月明りの下、空を飛んで退避していた。
眼下には西の国との境の山々が見える。
自分の崇拝する東の華流の魔法でない、異端の北の湖の魔女。
一度は衰退したものの、最近また信者を増やし始めているという。
東の華流の教祖様のために排除しなくてはならない。
北の森周辺を調査するうちにベクトル領の家督争いがあることを知った。
前領主が湖の魔女の転移に巻き込まれて行方不明になったという話を聞き、利用することにした。
前領主の弟一家は次期後継者候補の甥が金目当てで誘拐されても見捨てたり、効かない毒を盛って嫌がらせをしたりなど消極的な方法しかとっていなかった。
屋敷に執事として入り込み、そそのかして、シアンに湖の魔女を襲わせることにしたのだが、結局うまく行かなかった。
何か他にいい方法は無いのか?
「あああぅ!」
背後からの悲鳴に気づいて空中で止まり、後ろを振り向くと手下の悪魔の一人が落ちていくのが見えた。
急いで体をそちらに向けると宙に長剣を持った人影が浮いているのが見えた。
暗くてよく見えないが剣にべったりと液体らしきものがしたたり落ちていた。
「大魔術師カールさん。湖の魔女を狙ったのは貴方の上司の命令ですか?」
マントを羽織った青年が問いかけてきた。
こいつは間違いない、北の神殿の司祭だ。
「途中の宿場町で寝込んでいたのではなかったのか」
「はい。宿屋で視線を感じたので、いったん寝込んだふりをして様子を探っていました」
「そうか」
カールは杖から火球をキャスに向かって放った。
キャスがバリアで防ぎきる。
視界を火球で塞いだ隙に背後に回り近づいたカールは呪いの短剣をキャスの背中に突き刺した。
短剣にはめ込まれた玉が割れ、背中から石化が広がっていく。
「異端者め、お前だけでも消してやる」
しかし石化した部分は広がるのをやめ、徐々に小さくなっていく。
「なぜだっ」
「それはですね。私は暗算が得意だから呪いが短時間で解除できたのです。さっきもこの呪いは見ましたからね」
「嘘だろ……」
空中で後ずさるカールに向け、ふっと息を吐きながらキャスが剣で切りつけると血しぶきをあげた体は墜落していった。
キャスは一人残った悪魔の方を見た。
悪魔は慌てて逃げ出そうとするがパニックになり、黒い自慢の羽も言うことを聞かずうまく飛べなかった。
何とか切り立った尾根に着地するが足が震えて動けなくなった。
息も全く整っていない。
近くに追跡者が音も無く降り立った。
「こんなに怯えて可哀そうに……」
悪魔は圧倒的な強さを持ち、第三者的な視点で語るこの男が恐ろしくてたまらなかった。
空が明るみ始め、マニが見張りから戻ると工房の前でシアンの父親に会い、お礼を言われた。
「この度はドレイク子爵のご協力感謝する」
「僕はあまり役に立てなかったです」
「いやいや、あそこで貴方が湖の魔女の石化を止めなかったら、我々は再び異空間に放り出されていたかもしれない」
マニはシアンに体当たりしたことを怒られないか心配していたが大丈夫だったのでほっとした。
相手は格上の伯爵家だからだ。
今思えばシアンもそうだったな、忘れていた。
領地に戻ったら、お礼の金品を送ってくれるそうだ。
嬉しいな。
神殿やこの工房にも後日お礼の品が届けられるらしい。
これには一同喜んでいた。
シアンの父親が飛ばされた世界はほとんど魔力の無い世界で苦労したが、山中をサバイバルして生き延びたらしい。
チャーリーの話によると人間がたくさん住んでいる基軸界だろうという話だった。
シアンがマニの方に近づいてくると皮のグローブを外してこぶしをこちらに出してきた。
「ほら」
一瞬考えたが、マニも篭手を外してこぶしを出し合わせた。
初めて見るシアンの笑顔を見て、仲良くなったのかな、まあ満足そうだからいいやと納得した。
山を下りるシアンたちを見送った後、どっと疲れが出て、じいじのベッドを借りてマニは眠りに落ちた。




