石化の短剣
四十、石化の短剣
サンサの提案で夜中にみんなで近くの小さな水場に行くことになった。
じいじがランタンを持って案内してくれた。
暗い山道を転ばないように慎重に登っていく。
水の流れる音がしてきた。
少し歩くと湧き水が出ている小さな川があった。
サンサは小川の近くの岩にもたれかかって座ると、水の塊が分離して小川の中に消えた。
小川の中から白い布を身にまとった美しい女性が現れた。
「クェンティン君、クライサンサマムの体をお願いね」
「任せてくださーい」
彼は動かなくなった少女の前に立った。
「これが私の本当の姿よ。夜は私の魔力が一番高まる時間なの。呪いにも抵抗できるかもしれない」
「ねえ、やっぱりやめようよ」
マニはもしも失敗したらと思うと心配でたまらなかった。
「怖くないわけじゃないけれど、やっぱり気になるじゃない。この呪いの短剣の効果!成功したらすぐに石化部分を切り落とせば大丈夫よ」
「そんな……」
サンサは恐怖よりも興味が勝っているようだ。
チャーリーが何も言わずにいるところから勝算があるのだろうか。
シアンに短剣を渡されたサンサはその長い髪の先端を一房握り、刃先を突き刺す。
剣にはめ込まれた丸い石はひびが入る。
すると液体であるはずの髪が固体である石へと変わっていく。
同時に彼女の周りの空間が歪み、いくつか穴が開き始めた。
石化した髪の範囲も徐々に増えていく。
サンサが何とかコントロールしているのか転移の起こる兆しは無い。
「これは恐ろしい呪いじゃ。長く生きたが初めて見たぞ」
「シアン君、まだこの異空間をつなぐ扉のシステムの解明は神殿でも進んでいないけど、貴方の魔力と共鳴する可能性があるわ」
「つまり、魔力を放出すればいいんだな」
シアンの周りから辺り一面に霧が立ち込める。
昼間の雨ほどはないけれど、魔力が奪われていく。
この場にサンサがいるのでシアンもそうだろう。
一つの穴が広がっていき、中から人影が現れた。
屈強な男たちが二人出て来た。
「父上?」
「シアンか大きくなったな」
「シアン様ご無事で何よりです」
どうやらシアンの父親とその側近のようだ。
「シアン、早くサンサの石化した髪の部分を切り落としてよ!」
彼の剣裁きなら確実だろう。
チャーリーが杖を掲げ風が巻き起こり、一瞬で霧が晴れる。
シアンが剣を構えた瞬間、闇の中から中型の肉食獣の群れが襲ってきて、腕にかみついた。
唸り声を上げて襲い掛かってくる。
「え?何これ?間に合わない状況なのかな。最後まで迷惑かけちゃうな……」
サンサが諦めた時、ざっと石化した髪が切り落とされた。
「あ!」
マニが投げた爪の剣が狙った軌道通りに飛んだのだった。
ちゃんと毎日、的に当てる練習しておいて良かったな。
「ありがとう、マニ君」
シアンの父親とその側近が中型の肉食獣たちを蹴り飛ばして、すべて追い払ってくれた。
「じいじ、あんな獣初めて見たよー」
「わしもじゃ、普段あんな野犬の群れはこのあたりにはいないというのに」
斜めにまっすぐ髪を切られたサンサであったが、クライサンサマムの体に再び同化して目を覚ました。
「昼間に襲って来た節足動物と同じで誰かに召喚されたのかも……」
一行は警戒しながらじいじの家に戻った。
シアンはカールのほうきの後ろに乗ってマニの後をこっそりついて行ったが、その後のことは何も知らないそうだ。
しつこくシアンたちの命を狙っているのかもしれない。
到着後、シアンの父親たちはいったん工房で休むことになった。
明日になれば、西側の町に降りてそこから出ている荷馬車を借りてベクトル領に戻る予定だという。
町にはじいじの息子夫婦も住んでいるのでクェンティンが案内すると張り切っていた。
シアンたちは積もる話もあるだろうということで、マニが見張り役を買って出た。
家や工房の近くにある高い木に登り、枝の上から月を眺めていた。
お父さん、お母さん、会いたいな。




