白馬の王子様
三十九、白馬の王子様
シアンが剣を構えてこちらに向かってくる。
まずは邪魔なマニを始末するつもりだろう。
慌てて飛び上がり、炎を吐くがそれも雨で消えてしまい届かない。
冷たい雨が体力を奪っていく。
叩きつける雨の中マニは墜落して動けなくなった。
何もできないうちにシアンはサンサの方へぬかるんだ土を踏みながら近づいていった。
だめだ。
マニは何とか立ち上がり、視界の悪い中、シアンに後ろから体当たりした。
頭の中にキャスとの特訓の日々が蘇る。
反復練習が大事ですよ。
体当たりが決まり、二人は泥だらけになって倒れこんだ。
「ここまでか」
シアンの体は冷たく予想に反してもう動けないようだった。
たれこめていた雲は消え、太陽の光が差している。
「神官さーん、魔力を奪っていたはずのシアンさんがどうしてぐったりしてるんですかー」
「魔女様が同じ水の系統ではシアンさんに勝ってますからね。結局、二人の魔力が魔女様の方に流れこんじゃうんじゃないんですか」
サンサは立ち尽くしたままだった。
「シアン君じゃダメね。そうだ、マニ君。あなたならもう終わりにできるわよね。いいことを教えてあげる。太陽が真南に来た時に私の魔力が一番下がるの。その瞬間に私を焼いてしまえばいいのよ」
彼女は瞳を輝かせながら語りだした。
「きっとマニ君は私の白馬の王子様だわ」
「違うよ。僕はそんなことはしたくない」
泥だらけの顔を上げてマニはゆっくり立ち上がる。
「師匠から昔の話を聞いたよ。辛いこともあったかも知れないけど、僕はサンサさんに助けられた。だからそんなこと言わないでよ」
自然と涙があふれた。
「ごめんね。マニ君」
サンサは歩いてきてマニを抱きしめた。
「背が伸びたね。初めてあったときはもっとコロコロして可愛かったのにね」
そのまま頭をなででくれた。
「本当に君と出会ってから色々楽しいこともあったのに……。もうそんなこと言わないからね」
「サンサさん」
「……本当におぞましいな」
声のしたほうを見ると眼鏡をかけた男が二人の悪魔を連れて岩陰から出て来た。
「誰だ?」
「私は大魔術師のカールだ。シアンよ、せっかくここまで連れて来てやったのに役に立たなかったな。ここで全員始末してやる。やれ」
カールが命じると二人の悪魔が宙に描いた魔法陣から10mと超えるだろう節足動物が出現した。
「あれはゼギフですー!毒があります」
ゼギフは制御不能のようで暴れ出し、カールと手下たちは飛んで逃げて行った。
一人ならともかくみんなを残して飛んで逃げることはできない。
立ち向かおうとするマニのもとにチャーリーが駆け寄ってきた。
「魔力を回復することはできませんが、肉体的ダメージは軽減できるかも」
彼はそう言って杖に力を込めるとゆっくりシアンが立ち上がった。
シアンは踏み込んだ一閃でゼギフを真っ二つにした。
「やった」
マニが油断した瞬間ゼギフがかみついてきた。
かみつかれたと思った瞬間、つきとばされ、地面に転がった。
シアンがゼギフに肩を咬まれていた。
「毒があるならお前じゃくたばるからかもしれなからな」
そのまま倒れてしまった。
「シアン!」
マニは反動をつけてゼギフの頭を殴りつけた。
そのまま何度も殴りやがて動かなくなった。
チャーリーが慌ててシアンに回復魔法をかけていた。
お風呂を借りたマニたちは温かいシチューをごちそうになった後、工房で雑魚寝して休んでいた。
チャーリーがサンサに今までの事情を説明してくれた。
シアンは叔父一家が自分を任務失敗に見せかけて殺そうとしていたことは知っていたが、何とかして父親をこの世界に戻したくてカールの言うことを聞いていたらしい。
暗くなり、星が瞬き始めた頃、じいじの家にいたサンサがクェンティンと工房にやって来た。
「私にシアン君のお父様を戻すのに試してみたいことがあるの。シアン君、その呪いの剣について教えてもらえる?」
「この短剣には一度だけ刺した相手を石化させる効果があるらしいぜ」
「それなら、今夜その呪いの剣を試してみたいの」
「だめだよ!サンサ」
マニは慌てて二人の間に割って入る。
「大丈夫よ。慎重にやるから」
そう言ったサンサの瞳はしっかりとした意思が宿っていた。




