謎の肉食獣
三十五、謎の肉食獣
お茶会の場に一人の男が連れてこられた。
服装を見るに農家の一人らしい。
「この人はシアン様のお父様が消える所を目撃したそうです」
「そうですだ」
「本当か?」
「はい。あの戦いの中、急に領主様が戦われている戦線に湖の魔女が何もない所から現れたんです。タイミングが悪うて、敵兵の放った攻撃魔法が湖の魔女の肩をかすめた瞬間、魔女の周りがぐにゃっと曲がってそこに領主様たちが吸い込まれていったです。それからすぐに湖の魔女もまた消えてしまったですだ」
「なぜ、それを早く言わなかったんだ!」
「言いましたけど、その時は取り合ってもらえなかったもんで」
シアンが叔父たちを睨みつける。
「あの時は戦いが激しくで、兄上を捜索する余裕なんてなかったのだよ。それが最近急に思い出してね」
「おそらく、湖の魔女が傷つけば、空間が歪み他の世界との扉ができると考えております。私としては湖の魔女を抹殺すれば、また貴方のお父様が現れるのではと思います。」
これは大変なことになった。
お茶会の開かれた部屋のカーテンにくるまって隠れて見守っていたシアンの部下たちは彼らの上司と信仰する女神のような存在の間で悩み、司祭に相談することに決めた。
その日、マニは農村部で農作業を手伝っていた。
最近、見慣れない影を見た、家畜が襲われていたという報告を受けて、様子を見に来ていたのだ。
慣れないクワを振り下ろし、畑を耕していた。
土も重くて大変な作業だった。
そこへ叫び声が聞こえて来た。
「大きな獣がでたぞ!」
叫び声の方向に向かうと、大きくて紫色の毛をした肉食獣らしき動物が唸り声を上げ周りの人々を追いかけていた。
「うわあああ」
村の人たちが逃げ惑っている。
興奮した獣は恐怖で動けない村人に襲い掛かる。
マニはすかさず、爪の剣を飛ばす。
爪の剣のかどが獣の額に突きささり、獣は倒れ動かなくなった。
「なんなんだ。あの大きな獣は?」
「この村に長く住んでいるけど、初めて見たぞ」
襲われて怪我をした住民は手当を受けるために運ばれている。
マニはまだ他にもいないか辺りを警戒していると、ココアがキャスとこちらに飛んで来ているのが見えた。
キャスが杖の後ろにシアンの部下の一人を乗せていた。
ココアはフラッタスの町で魔法の勉強をしていたので、マニのいる村の場所を案内したのだろう。
「師匠、丁度良い所に来てくれました!!さっきここに見たことない大きな獣が来て、村の人たちを襲ったんです!」
「そうでしたか。被害の状況は?」
「獣に襲われた数人が怪我をしましたが、何とか獣は追い払いました」
「では、ココア。神殿に行ってヒーラーにこの村に来てほしいと伝えてください」
「ありがとうございます」
ココアは神殿の方へ飛び去った。
シアンの部下は唖然とした表情で混乱する村の様子を見ていた。
近くの北の森には野生動物が住んでいるが、大型の肉食動物は渓谷の向かい側にしか生息していないはずだ。
師匠の話では北の森の生態系にこんな種類の動物はいないという話だった。
しばらくして、神殿のヒーラーたちが到着してけが人の応急処置を行った。
その様子を見て、将来ヒーラーになりたいなあという子どももいた。
落ち着いた所で、師匠が連れて来たシアンの部下の話を聞くことにした。
ベクトル伯爵家に雇われた新しい執事と叔父夫婦がシアンをそそのかし、湖の魔女であるサンサを殺害させようといるらしい。
師匠によると、もしそういう状況になればシアンの方が命を落とす確率が非常に高いという。
執事は今、サンサが神殿を離れ、西の方にいると情報もつかんでいるということだった。
「おそらく、叔父夫婦はシアン君を消すつもりで勝ち目のない勝負をけしかけたのだと思います。そして謎の肉食獣の村の襲撃もタイミングが良すぎるので関連があるかもしれません」
「早く、サンサに知らせないと。でも、今は村を守らなきゃ……」
「それは、私がいるから大丈夫」
ココアが杖を両手で握りしめながらマニを見つめる。
「さすがココア様!」
「頼りになります!!」
たびたび野菜泥棒を捕まえているココアは村人たちの熱い支持を得ていた。
「我々は大丈夫です!!どうぞ行ってください!」
「あの獣と関係があるかもしれないんでしょ」
「あ、ありがとうございます……」
「……マニ様は神殿に強いコネがあって助かります」
「やっぱり人脈は大事ですじゃ、なあ」
小さな声で返事したマニを気遣った村人たちであった。




