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宿屋の女将さんに、再び畑を使わせてもらえないかユリアに交渉してもらうと、
「おお! それはタイミングが良い。実はこれから何日間か特別感謝祭を開こうと思っていたところなんだよ」
「感謝祭?」
「いやー、カブ商法が軌道に乗ってね。売り上げもかなり伸びてきたから、そろそろ古くなった建物を改修することになったんだよ。それで、少しばかりお客さんに還元しようってね」
そういえば女将はカブチートでぼろ儲けしていたのだった。儲けを独り占めしないあたり、性格の良さが現れている。
「近々、料理の全品半額祭りを始めようと思うんだ。だからたくさん野菜を持ってきてくれると助かる。もちろん買い取り額は通常通りで構わないよ」
「ありがとうございます、女将さん!」
「いいってことよ! あたいが立ち直れたのもユリアちゃんのおかげだしね。ああ、畑だけじゃなくて、裏庭も使ってくれて構わないから」
よし、善は急げだ。
俺たちは裏庭に直行した。
軽く地面を耕し、種と血貨をまく。そして、
「ゾンちゃん、お願い」
太陽光を浴びないように全身をコートで包んだゾンビシャーマンが仲間を召喚をする。カップに注がれたユリアの生贄を渡すのも忘れない。
地面に光で幾何学模様が描かれる。その召喚陣に生贄を注ぐと、心なしか恍惚とした表情のゾンきちとゾンすけが現れた。
表情筋も腐ってるはずなのに、どうしてあんなに器用に笑顔を作れるのだろう? なぜか殺意が沸いた俺は二人の首を落とそうと思ったが、俺が手を下す前に二人のゾンビは太陽に焼かれて灰になった。
行き場を失った殺意の波動を発散するように、俺は地面にこんもりと盛られたゾンビパウダーを撒き散らした。
あとはこれの繰り返しだ。ユリアには都合上、ひたすらに水を飲み続けてもらうことになる。
宿屋の裏庭では収穫日数が早い果菜類と葉菜類を中心に育てる。毎日収穫できるので、とにかく数を作ってまわす。
逆に郊外の畑では栽培に時間のかかる根菜類や豆類などを大量栽培する予定だ。広い面積を生かして一気に作業を進めて、一日から二日ほど放置して収穫。移動にも時間がかかるため、毎日の往復は無理と判断した。
「ゾンちゃんありがとう。また後でお願いね」
「オオオ」
ゾンビはアイテムボックスの中に帰っていった。
てか、そこに定住すんなよ! まったく。
そうだ、それならばいっそのこと家賃を徴収しようじゃないか。常時ユリアの傍にいられる物件なんて超高級マンションに匹敵する豪華物件だろう。家賃もそれなりに取っていいはずだ。
よし、家賃代わりにゾンビパウダーを納めてもらおう。それを売って資金の足しにしよう、そうしよう。
「ナスキー、行くよ」
俺たちに休んでいる時間はない。
街に繰り出して路上ライブをするのだ。少しでも稼がなければ。
ユリアが旋律を奏で、俺が爪と肉球でリズムを取る。タルでもスコップでも叩ける物なら何でも楽器になる。《演奏(打楽器)》スキルの応用範囲は広い。適当にそのへんに落ちてるものを集めて周りに置くだけで即席ドラムセットの完成だ。
ユリアの要求に合わせてちょいちょい猫芸も混ぜていく。踊る、宙返り、ハイタッチ。俺にできることなら何でもやる。
客の反応も悪くない。逆立ちしながらリズムを取ったときなんかは大きな歓声が上がった。
パフォーマンスが終わると拍手とおひねりが乱れ飛んだ。
一度の公演で2万以上も稼げた。
悪くない。場所を変えて可能な限り公演を続けよう。ついでに宿屋が半額感謝祭を始めることも宣伝しておこう。客が多く入ればその分野菜も売れるからな。
夜になると宿屋の酒場でもパフォーマンスを披露した。
酒が入って財布の紐がゆるくなった客が気前よくおひねりをくれる。
盛況のうちに演目を終えると、一人の青年が近づいてきた。
青い髪をたなびかせた、少々キザったらしい仕草の男だ。
「やっぱりユリアちゃんじゃないか! 遠目に見えてまさかとは思ったけど、こんなところで会えるなんて感激だよ!」
誰だてめぇ! ユリアに近づくんじゃねーよ!
でもひょっとしたらユリアの知り合いかもしれない。俺はユリアの様子を確認する。
「あのう、どちら様ですか?」
ユリアも知らないヤツみたいだ。よし、有罪だ。死刑執行!
俺はゾンビを斬れなったストレスも上乗せして、ストーカー男(勝手に認定)を始末しようと拳に力を込めた。が、
「ああ、この姿で会うのは初めてだからね。僕はキミに助けられたゾンビの一人だよ。ほら、覚えていないかい? 先日、キミの歌で昇天した最初のゾンビだよ」
「ああ! あのときの!?」
言われてみれば確かに、あの時に幻視した青年の面影に似ている。
「覚えていてくれて嬉しいよ。キミのおかげで僕は再び人間としてやり直すことだできた。本当にありがとう。キミは僕の命の恩人さ」
そう言いつつ青髪の青年はひざまずき、ユリアの小さな手を両手で握ると、その手の甲に口付けを――――、
「フシャァアアアアアアアアアア!」
――させねーよっ!
俺はキザ男の顔面に飛び掛ると、猫パンチを見舞う。
そのまま二人の間を引き裂くように陣取ると、毛を逆立てて威嚇した。
「おっと、これは失礼。僕としたことが、名乗る前にレディーの手を取ってしまうなんて恥ずかしい。キミとの再会にあまりにも感動してしまい、礼儀を欠いてしまったようだ。どうか許して欲しい」
「い、いえいえ」
男は顔に刻まれた赤い斜線を気にも留めず、優雅に一礼する。
「僕の名前はジーノ。小さな天使に魅了されてしまった、ただの平凡な男さ。もしも困ったことがあったら頼ってくれ。こう見えても盗賊系のスキルを持っているんだ。役立てることもあるだろう」
それを伝えるとジーノは踵を返した。
「名残惜しいが、本日はこれでお暇させてもらうよ。あまり長居をするとキミの小さな騎士様に怒られそうだ。ではまた」
帰り際に視線を俺に向けたジーノはウインクなどを飛ばしてきやがった。
ただでさえ逆立った猫毛が引っこ抜けそうなくらいに盛り上がった。
そんな一幕などもあり、多忙な一日は終わる。
宿屋の評判はすぐに口コミで広がった。
料理は美味くて安い、女将は美人、歌も聴ける、さらに天使がいるらしいとくれば、宿屋がフィーバー状態になるのにそう時間はかからなかった。感謝祭を始めて二日ほど経った頃には既に酒場に入りきらなかった客が店外に溢れるほどになった。
あくる日、ユリアに昇天させられたゾンビだった連中が、大量に押しかけてくる事件が起こった。きっと青髪のキザ野郎のせいだ。ただでさえ満員御礼の店内が満員列車のごとく人でごった返してパンク寸前になった。
急遽路上に野外テーブルを並べてテラス風の席を作って対応した。それでもイスが足りなけりゃ、もうタルでも自分で持ってきて適当に座っててくれ状態だ。
まあ、人が多い分、ライブでのおひねりは過去最高額を更新したから良しとするか。
急激に忙しくなった女将は料理に専念して、ユリアも接客を手伝うようになった。俺も荷出しくらいは手伝える。それでも店員の数が足りないとわかれば、もとゾンの連中たちがボランティアを申し出てくれた。ユリアへの恩返しだとさ。何人かは料理スキルを持っていたようで、女将の負担もかなり軽減された。
ただ働きに、おひねりまで出すとは、もとゾン連中は意外といいカモなのかもしれない。
後で聞いた話では、女将さんがまた料理スキルと接客スキルが上がったそうだ。完全に流れが来てるな。
そんな猫の手も借りたい、いや、実際に猫が手を貸している多忙な生活を、俺たちは一週間以上も続けた。過去を振り返る暇もないほどの過密日程で、あっという間に過ぎたという印象だ。
忙しかったのは俺たちだけではなかった。ゾンビシャーマンも召喚しまくったおかげで、《ゾンビ大召喚》とかいう上位スキルを覚えたそうだ。もう少し早く覚えて欲しかった。
期限まで残り二日。
某大手飲食チェーン店の店長も真っ青になるほど、俺たちは使える時間を全て労働に費やし、破竹の勢いで稼いだ。
その額、およそ500万。
平時なら申し分のない額だ。しかし必要金額には到底及ばない。このままではユリアが奴隷落ちする。
かくなる上は――。
俺は、ついに強硬手段に打って出る決意をした。




