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本当は完結するまで書かないようにしようと思っていたのですが、あまりにも嬉しかったのでつい抑えきれなくなりました。
もともと人気が出ずらい作品なので総合0ポイントも覚悟していたのですが、ついに、一日のアクセス数が1000を超えて、しかも総合評価も100を超え、さらに初のレビューまで書いて頂けて、感動のあまり狂喜乱舞してしまいました。
何がすごかったかって、数字の3桁目と4桁目の間に「、」が 入ることに、異常な興奮を覚えました。
ああ、なんて可愛い「、」なんだ! ハァハァ……、と、新たな性癖を開眼してしまった次第です。
底辺作家にしかわからない境地です(汗
お気に入り登録をしてくださった方々、評価を入れてくださった方々、感想を送ってくださった方々、レビューを書いてくださった方、そしてこの小説を見てくださった全ての方々に、この場を借りて心より感謝を申し上げます。
完結までもうしばらくお付き合い頂ければ幸いです。ではでは~。
深夜、人々が寝静まった頃に俺は目覚める。抱き枕代わりに俺を締め付けるユリアの腕をすり抜ける。
悪いな、ユリア。ちょっと離れるけど許してくれ。朝までにはちゃんと戻るから。そのままぐっすりと眠っていてくれ。
俺は宿を抜け出し、夜の街へと走り出そうとした。その瞬間、
「待ってくれ」
突然背後から声をかけられた。こんな夜中に誰だ?
振り向けば青髪の青年が俺を手招きしていた。
たしか名前はジーノといったか。ユリアに助けられたもとゾンビの一人だ。
俺に何の用だ?
「こんな夜中にどこへ行くんだい? キミがいなくなると彼女が悲しんでしまう」
答えようにも人語を話せない。
するとジーノは文字列が並んだ紙を差し出した。
「キミは文字がわかるんだろ?」
なるほど、文字をタッチして意を伝えろということか。
俺はユリアの境遇を伝えた。
「何てことだ! では、後二日で600万以上稼がねば、彼女は奴隷にされてしまうのかッ! いったい誰がそんなことを!」
アルバートってヤツだ。
「アルバートだとッ! あの悪徳高利貸しが!」
知ってるのか?
「昔……ちょっとな……。それよりも、どうする? ヤツは過去にも似たような手口で人を罠にかけたことがある。今すぐ手を打たないと大変なことになるぞ。何か策はないのかね?」
俺はその問いには答えずに、無言で見つめた。
「その目は……。何かを決意したような光。まさか!? キミは……」
それ以上は言葉を交わさずに、俺は歩みを再開する。
「待ってくれ、僕も行く」
「にゃぁあああ(無事に帰れるかわからんぞ)」
俺の忠告を聞き入れず、ジーノはついて来た。
やってきたのはアルバートの屋敷だ。街中にあるくせにそれなりに広い面積を誇り、小さな庭と噴水までついた豪華な二階建てだ。
金を用意できない以上、手段は二つしかない。非合法な手段を使ってでも金を用意するか、契約を破棄させるかだ。
ジーノには外で待機しているように文字で指示する。
俺は単騎で屋敷に潜入して調査する。
まずは鉄柵の塀をすり抜ける。人は通れずとも、小柄な猫なら楽々と抜けられる。《潜伏》スキルを発動して常時《猫歩き》で移動。《聴力強化》《夜目Ⅱ》《注意》と何気に豪華な索敵系スキルを駆使して広い庭を駆け抜け、屋敷まで近づく。
警備兵がちらほら巡回しているが、黒い毛は闇に溶け、肉球が足音を消す俺を発見することはできない。
潜入には天性の才能を持つ猫だ。このくらい楽勝である。
途中、見覚えのある石などが目に付いた。たしか触れると爆発する地雷石だったはず。《注意》スキルを持っていて助かった。
――ん? そういえば、どうして《注意》スキルを持っているんだっけか? どこで手に入れた? それと地雷石はどこで知ったんだったか……。
#### ギギギギ ♯###
本当に何もなかったのだ。俺は銭湯になんて行っていないし、何も見なかったし聞かなかった。そんな記憶はない。いいね?(にっこり)
#### ギギギギ ♯###
まあいいか。どうせ大したことではないだろうし、深くは考えない。
建物まで辿りつくと、侵入できそうな場所をさがす。
夜中とあって扉も窓も当然閉まっている。開いている小窓でもないかと探していると、排気口のように壁からせり出た穴を発見した。
壁に爪を引っ掛けてよじ登り、穴に入る。そのまま進めば屋敷の内部に繋がっていた。
中に人がいないか慎重に確認してから屋敷内に着地する。食器や調理器具が並ぶ空間に、果物や油の匂いが微かに漂っている。
どうやらキッチンのようだ。
扉の前で跳躍してドアノブに爪を引っ掛けて開ける。猫の小さい身体ではドアを開けるのも一苦労だ。
そのまま廊下に出ると《聴覚強化》で警備兵の足音を感知しながら、見つからないルートを予測して走る。
ドアの前で耳を立てて、人の気配がないことを確認してからドアノブに手をかける、いや、前足をかける。
それを繰り返して、屋敷の間取りをだいたい把握した。
一階はキッチンや食堂、リビングなどの共有スペース。二階は寝室や使用人の部屋だろう。ドアの向こうから微かな寝息やいびきが聞こえてきた。
他には鍵がかかっていてわからない部屋と明かりが点いていて調べられなかった部屋がいくらかあった。お目当ての品はこれらの部屋のどこかにあると踏んでいる。
明かりの点いた一階の部屋が怪しいと感じた俺は、ドアの前で聞き耳を立てる。紙にペンを走らせるような音と、イスがきしむを音を拾った。
おそらく書斎だ。書類でも書いているのだろう。と、廊下の端から足音が聞こえてきた。
俺は急いで反対の方向へ走る。壁から顔を覗かせて確認すると、メイドらしき女が書斎の部屋をノックしていた。
「失礼します。お客様がお見えになっていますが、いかが致しましょう」
「こんな夜更けに誰だ?」
「ハワード様でございます」
「……応接室に通せ」
「かしこまりました」
こんな夜更けに訪問客とは妙だ。
俺は先回りして応接室にあった革張りのソファーの下に隠れた。
数分後、メイドに連れられて、体重の重そうな男がどかどかと足音を鳴らしながら入室してきた。俺の隠れているソファーを盛大にきしませながら座るなり、大きく屁をこいた。
――むぐっ! 臭せぇーな!
俺は思わず鼻を押さえた。ここで声を出すわけにはいかない。鼻が曲がりそうだ。
すぐに屋敷の主人がやってくる。すると会うなり男はソファーから立ち上がって怒鳴り始めた。
「どういうことだ、アルバート! 話が違うではないか! 奴隷商館で待っていればあの娘が身売りに来ると言っていたが、未だに来る気配がない。それどころか、あの娘、歌でかなりの額を稼いでいると言うではないか! このままでは計画が破綻しかねないぞ!」
この声。聞き覚えがある。宿屋で酔っ払ってユリアに求婚した中年オヤジだ。今思い出したが、オークションのときに最後までユリアと競り合っていた男の声もこいつとよく似ていた。
「ご心配には及びません、ハワード様。既に手は打っております。あの娘が期限内に返済額を集めるのは不可能でしょう」
「どういうことだ?」
「まずはお座りください。そして、こちらをご確認ください」
向かいのソファーに座ったアルバートはアイテムボックスから一枚の紙を取り出すと、ハワードと呼ばれた男に差し出した。何が書いてあるのか気になるが、これ以上顔を外に出すと俺の存在がばれてしまう。確認は断念するしかない。
しばらく無言が続いた後、ハワードが悪辣な笑い声を漏らした。
「ぐっふっふ。なるほど、そういうことであったか」
「ご納得頂けましたか?」
「うむ、どうやらわしの早とちりであったようだな。よもやこのような契約をしておったとは。お主も狡猾な男よのう」
話の内容から、あの紙は契約書のようだ。そして俺が欲しかったものでもある。
契約書を盗んで借金を踏み倒す計画だったが、アルバートがすぐさま契約書をアイテムボックスに収納してしまったことで、それは実現不可能となった。
ボックス内にあるものは《窃盗》スキルを使っても盗めないのだ。
「いえいえ、ハワード様ほどではありませんよ。つきましては、また戦闘奴隷を二人ほど貸して頂けないかと。この前の方々は良い働きをしてくれました」
「いいだろう」
二人の戦闘奴隷? まさか!? 俺の直感が過去の記憶とその情報を結びつける。ひょっとしたら、その二人は俺を襲撃したヤツじゃないだろうか。だとすると、始めから全て仕組まれたことになる。
「夜分に失礼したな」
「いえいえ。もう夜も遅いですし、今晩はこちらにお泊りになっては?」
「いや、それには及ばん。外に馬車を待たせてある」
「左様ですか。では門までお送り致します」
話は終わってハワードは帰るようだ。
契約書を奪えない以上、プランAは失敗だ。プランBに移行する。
「旦那様もそろそろお休みになられてはいかがですか?」
「そうするとしよう」
アルバートも就寝するようだ。
人の気配がなくなってから、俺は静かに移動すると裏口の鍵を開ける。外で待たせていたジーノを呼びに行くためだ。そのとき、
「やあ!」
ビクリと飛び跳ねた。心臓がバクバク鳴って、しっぽがタヌキのように膨らむ。
誰かと思えばジーノだった。
脅かすんじゃねーよ! 警備兵に見つかったかと思ったじゃねーか! てか、ここ敷地内なんだけど、どうやって入ったんだ?
「その顔はどうしてここにいるのか、腑に落ちない感じだね。さっき馬車で客が来ただろ? 警備兵の注意がそれたから、その隙に侵入したんだよ」
なるほど、さすがは盗賊スキル持ちか。そうでないと困る。
俺は首をクイッと傾けてついて来いと合図する。
幾つか目星を付けておいた鍵付きの部屋へ案内する。
「この部屋かい? ちょっと待っていてくれたまえ」
ジーノは手馴れた手つきで鍵穴に針を入れると、ほんの数秒でカチリと音がした。
早いな。かなり手馴れてる。
部屋に入ると書類が納められた棚が並んでいた。そして――――ビンゴ! 調度品や美術品なども一緒に保管されていた。
「ほうほう、これは中々いい品じゃないか。どれも値打ち物だよ。こんなところで眠っているのはかわいそうだ。僕がお日様の元へ出してあげようじゃないか」
ジーノはお宝を次々とアイテムボックスの中に入れていく。
まるで囚われた捕虜を解放しているような雰囲気だが、やっていることは紛うことなき窃盗である。本人の表情を見る限り罪悪感らしきものは見当たらない。相当場数を踏んでいるな、コイツ。
まあ、俺が言えた義理ではないが。
プランB、非合法な手段を使ってでも金を作るだ。
俺は室内を注意深く観察してた。すると《注意》スキルの恩恵か、違和感のある場所を見つけた。
一つの書類棚が妙な位置にある。もっと端に寄せればもう一つ棚が置けるのに。それに、この辺りだけ埃の量が少ない。
不審に思った俺は棚に飛び乗って怪しいところがないか調べる。すると、下から二番目の棚の裏側にスイッチを見つけた。
ポチッと押す。
すると、戸棚がサッーと横に滑るように移動した。
棚があった場所の床には木の扉があった。開くと地下に通じる階段が現れた。
「おお! キミ、お手柄だよ!」
ジーノが嬉々として階段を降りていった。俺も後に続く。
地下は光源がなく暗いが、ジーノがアイテムボックスから携帯ランプを取り出したので、問題はなくなった。
冷たい石の床に降り立つと、地下室にしては広い空間に驚いた。
しかし書類棚が幾つか並ぶだけの殺風景な部屋だ。お宝の類は見当たらない。
おかしいな。
ジーノの話ではあのアルバートという高利貸しはかなり私腹を肥やしているらしい。そんな人間が税金を逃れるためには、LPを高価なアイテムと交換してどこかに隠しているはずだ。
アイテムは購入するか装備するかアイテムボックスに入れると、その所有者として記憶されて税金が発生する。が、いずれもしなければ所有者不明のままとなり税金は発生しない。
しかし所有者不明なアイテムのままだと、アイテム探知系のスキルで発見されてしまうリスクが残ってしまう。そこで、もうひと工夫が必要になる。
アイテムをわざと盗ませるのだ。
盗品扱いになれば税金は発生せず、スキルで発見されることもない。なのでわざと他人に盗ませて自分の隠し場所に運んでもらうのだ。
これがネクラの有名な脱税法の一つ、『セルフ盗難』だ。
この地下室なんて絶好の隠し場所だろうに。それが、ただ古くなった書類の保管場所としてしか使用していないなんて不自然だ。
だが、俺は今、その様なこととは全く別の意味で心が掻き乱されている。
――この匂いッ!?
甘く、樹脂を焼いたような独特の匂い。
これは、俺が一週間も檻に閉じ込められていたときに嗅いだ匂いだ。
間違いない。俺は、ここで監禁されていたんだ。
そしてその犯人がアルバートであり、ユリアに金を貸した人物でもある。また、オークションでユリアと競っていたハワードという奴隷商人と夜中に密会をしていた事実。二人の戦闘奴隷という情報。
――――全てが一本の線に繋がった。
「残念だが、ハズレのようだね」
書類棚を調べていたジーノは、めぼしい物を発見できず、落胆の色を隠せない。
どうやらお宝は別の場所に隠されているようだ。しかし、この屋敷の間取り的には地下くらいにしか隠せそうにもない。この屋敷とは違う場所か? だとしたら検討がつかない。
悩む俺だが、肌がざわっと動くのを感じた。
何かと思えば空気が妙な流れを作っているのに気付いた。人肌よりも敏感な猫の体毛が微細な空気の揺らぎを捉える。
俺はその空気を辿って地下室内を歩き回ると、怪しい書棚を発見した。
「にゃっ、にゃっ」
「この棚が怪しいのかい?」
ジーノが調べると、何かがゴリッとずれる様な音がした。瞬間、書類棚がぐるっと回転した。
瞳を爛々と輝かせるジーノの肩に乗って、俺は壁の裏側へ送り出された。
そこで見た光景に驚愕する。
黄金、宝石、クリスタル。
それだけではない。一見しただけで一級品だとわかる武器防具や秘薬の類などもある。
お宝の山だ。
秘宝特有の怪しげな輝きに、俺は息を呑んだ。
「見たまえ。これは数年前に行方がわからなくなった、古代王が使用していたとされる『純金の杯』。こっちのは、今はもう手に入らない希少な粘土で作られた焼き物。これはまさか獣王が気に入った人間を自分の眷属にするための秘法、『獣魂玉』かい!? ――ややっ!? これはつい先日盗難にあったという幻の名画『モンクの嘆き』じゃないか! こんなところにあったのか!」
盗品やいわく付きの品が並ぶ光景は威容な圧迫感を放っている。
これは思ったよりもでかい魚を釣ってしまったようだ。知ってしまった以上、もう後には引けない。
ジーノは両目をお金のマークに変えながら、次々とお宝をアイテムボックスに放り込んでいった。そんななか、ふと目に留まったのは書類棚だ。
お宝の中に場違いに鎮座する書類の束。外にまとめられていた書類棚の一つが、なぜここに紛れ込んでいるのか。
ジーノはその書類の束から取り出した一枚の紙を手にして固まった。
「ニャニャ?(どうかしたのか?)」
「いや、なんでもないさ」
何を見ているんだ? と気になった俺は覗きこもうとするが、それよりも早くジーノは書類を棚ごとアイテムボックスに収納してしまった。目の前のお宝よりも価値のあるものなのか?
まあいいか。
それからジーノはアイテムボックスの残りスペースに入る限りのお宝を詰め込んだ。それを待ってから、俺たちは屋敷から脱出した。
屋敷を出る際に、この地下室へ続いていた書斎の小窓の鍵をバレないように壊しておいた。これで何かあってもまた忍び込むことができるだろう。
ちなみに、盗品を盗むことは、この世界では窃盗に当たらない。おそらくセルフ盗難脱税法に、リスクを与えるために設定されたのだろう。それならば、最初から脱税できないようにすれば良いと思うのだが……、システム設計者の考えることはわからん。
宿屋に戻ってきたときには既に明け方だった。
ユリアの部屋の前までくると、「ナスキー……? ナスキーどこぉ……?」と震えるような声が漏れていた。
慌ててドアを開けて入室すると、「ナスキー!!」と勢いよくユリアに飛びつかれた。
「勝手に離れちゃダメじゃない! またナスキーが居なくなったと思って、ユリアはどうしたらいいか……、っんぐ、怖かったんだから!」
ユリアは小柄なからだを一層小さく縮めながら、涙声になっていた。
「(ゴメンゴメン、ちょっとトイレに行っていただけだよ)」
「心配させないでよ、もう!」
小さな肩をぷるぷる震わせたユリアは落ち着くまでにしばらくかかった。
ユリアの心に傷を負わせた罪は大きい。
アルバート、お前には必ずその高すぎる代償を支払ってもらうからなッ!
俺は瞳孔に力を入れた。自分では見えないが、きっとするどい狩人の目つきになっているだろう。




