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7-2

 宿屋に戻ってから、ユリアは片時も俺と離れようとしなくなった。

 寝るときは抱き枕代わりに締め付けられ、移動するときも抱っこ状態。食事もトイレも何もかも一緒じゃないと気がすまなくなっていた。

 今ではユリアの肩にへばりつくか、マフラーのように首に巻きつくのが俺の定位置となっている。

 さすがにそれではマズイと、見かねた宿屋の女将さんが間をとり持ってくれて、ユリアの半径一メートル以内に居れば許すとの妥協点を見いだした。


 それはそうと重大な問題について対策を練らないといけない。


「(ユリア、あんな大金どうしたんだ?)」

「一週間くらい、街中で歌を歌ったの」

「(なるほど。で、いくら集まった?)」

「200万くらい」


 そりゃぁ、すごいな。もう立派な歌姫じゃないか。週給200万ペースなんて、一流のアーティストだってそんなにもらえないだろう。まあもちろん安定的にそのペースで稼げるわけではない。一度聞かせた聴衆からはかなり時間を空けないと飽きられておひねりを貰えなくなる。街中でやったってことは、これからしばらくは歌で稼ぐことはできないというわけだ。

 その前のゾンビパウダー農場チートで荒稼ぎしたのが300万以上あったはずだ。あわせて500万以上。それがユリアの全財産だったはず。


「(で、1000千万はどこから出た?)」

「貸してもらったの」


 やっぱりな。


「(あの時、隣に居た男からか?)」

「うん。アルバートさんって言うの」

「(で、いつまでに返せって言われた?)」

「10日後」


 無茶苦茶だ……。まんまと騙されたわけか。金を借りてもその場で使ってしまったら増やせない。ゼロから10日で1000万を稼げなんて無茶振りすぎる。


「(返せなかった場合は?)」

「どれい、になるんだって」


 奴隷……だと!? くそっ! なんてことだ! 俺が下手をうったばかりに、ユリアがこんな目に合うなんて。

 絶対に阻止する! どんな手を使っても!


「(利子は何%だった?)」

「りしって?」

「金を借りたらな、少しおまけをつけて返さないといけないんだよ。その利率」

「えっと、たしか10日以内に、10%って言ってたと思う」


 ヤミ金じゃねーか! 日本ならば明らかに悪徳業者だ。だがここはネクラだ。違法業者を取り締まるような法律はない。


「(ユリア、LPはどのくらい残ってる?)」

「えっと、70万くらい?」


 厳しいな。

 この一週間、ユリアは街中で歌を歌っていた。その稼ぎが200万なら、今から同じ事をしても半分も稼げないだろう。猫芸じゃそこまでは稼げないし……合わせてみるか? ユリアが歌で俺が猫芸と打楽器でアンサンブルをしてみるか。

 それは一つの案だ。しかしそれでも足りない。どんなに成功したとしても必要額の半分にも満たないだろう。


 そういえば、ランドセルは売らなかったんだな。レアアイテムだから普通のバックよりは高く売れると思うが。


「(とりあえず、ランドセルを売ろうか)」

「これはダメ! ナスキーが初めてくれたプレゼントだもん!」

「(いやしかしお金が……)」

「絶対、ダメっ!」


 なら仕方ない。ユリアの嫌がることを無理やりするわけにはいかない。

 てか、そのランドセルもユリアの金で作ったのだが、いつの間にかプレゼントしたことになっていた。まあ、いいか。


 だとすると他に何か稼げる手段は……。

 俺が眉間をひきつらせながら唸っていると、


「ナスキー、アイテムボックスがモゾモゾするよ」

「にゃ?」

「ゾンビさんたちが出たがってるみたい」


 そういえば昇天するのを拒んでゾンビとしてユリアの傍を離れなかったヤツラが数匹いたな。アイテムボックスに入れっぱなしだったのを忘れていた。

 ユリアはアイテムボックスを開くと、中から腐臭を漂わせながらゾンビたちが出てきた。


「ゾンちゃん、どうしたの?」

「オオオォ、ォオオ、オオオオ」

「え? それはできるけど、いいの?」

「オオ! オオォオオオォオ!」

「ゾンきちくんと、ゾンすけくんも一緒にしてくれるの?」

「「オオオオ!」」

「わかった、ありがとう! ナスキー、ゾンちゃんたちが協力してくれるって」


 ちょっと待て、幼女! なに普通にゾンビと会話してるんだよ! 名前まで付けてるし。てか、ゾンビよ、お前ら思考とかできたの? 脳みそ腐ってるんだろ? いやいや、そんなことより――、


「(ユリアがゾンビと会話できたとは知らなかった。それで何を協力してくれるって?)」

「ゾンちゃんたちがゾンビパウダーをたくさん作ってくれるって」


 それは魅力的な案だ。しかしデスリポップを繰り返すとなると、教会にリポップさせるためにペットの首輪が必要になる。それがないと世界中のあらゆる場所にリポップしてしまうから、最悪の場合は会えなくなる。

 しかも首輪は一度死ぬごとに1万ほど手数料を取られる。余程高いリターンが見込めないとむしろ赤字になりかねない。

 

「(残念だけど、それだと採算が合わない)」


 ユリアはがっくりした様子でそのことをゾンビに伝える。しかしゾンビはなぜか誇らしげに何事かを言い返した。


「え? そうなの?」

「オオォ、オオォーオオォ」

「ナスキー、お金はかからないんだって」

「(どういうこと?)」


 金をかけずにゾンビパウダーを入手できるなら、それは恐ろしい利益を生むだろう。それどころかこの世界に食料革命を起こしかねない。


「ゾンちゃんはね、ゾンビシャーマンなんだって。それで《ゾンビ召喚》っていうスキルが使えるらしいの。それを使うと配下のゾンビをいつでも好きなときに呼び出せるの」


 ユリアはさらにゾンビ語の通訳を続ける。


「召喚したゾンビは役目を終えるともとの場所に送り帰されるの。もしも召喚されている間に死んだ場合も、もといた場所で復活するんだって」


 え? マジか。それは知らなかった。俺も多少はゾンビプレイをした経験があるが、あまりにもザコすぎてやりこむ気が起きなかったんだ。

 ゾンビ召喚にそんな特殊効果があったなんて……、ん? ということは……、


「だから一人のゾンビがユリアのアイテムボックスの中にいれば、召喚して灰になっても、戻ってくるところはアイテムボックスの中になるんだって」

「ニャぁーーー!」


 すげー! 思わず叫んじまった。それ、ゾンビパウダーの無限生成じゃないですかッ! チート来たこれッ!


「あ、でもね、召喚されて死んだゾンビは『へいと値?』っていうのが上がっちゃうみたいで、次から召喚の呼びかけに応じてくれなくなっちゃうんだって」


 ダメじゃん。そりゃそうか。そうそううまい話が転がっているわけがない。ここはクソゲーの世界なんだ。


「でもでも、生贄を用意すれば、へいと値が高くても来てくれるんだって」

「(生贄って?)」


 ユリアが聞くと、ゾンビは僅かに躊躇するような間を空けてから答えた。


「ユリアの『おしっこ』だって」

「ニャフッ!?」


 反射的にゾンビを八つ裂きにしそうになった。が、我慢する。ひょっとしたら聞き間違えかもしれない。


「(ユリア、すまないが、もう一度聞いてくれるか? 聞き間違いかもしれない)」

「え? わかった。ゾンちゃんたちは、ユリアのおしっこが必要なんだよね?」


 ゾンビたちは頬を染めながらもじもじと身をくねらせて、コクリと小さく頷いた。


「ニャァアアアア!(有罪ぃいいいい!)」


 今度こそ俺は飛びかかる。てか、血行悪いくせに、どうやって頬を染めたんだ! そもそもゾンビのデレとかキモイんだよ! どこに需要があんだよ!

 空中に飛んで、ゾンビを切り裂く寸前の俺だったが、ユリアにキャッチされてしまった。


「まって、ナスキー。続きがあるの。生贄は心臓とか目玉とかが普通なんだけど、ゾンちゃんたちはユリアへの忠誠がマックスなんだって。だから、ユリアの心臓とかじゃなくても、おしっこくらいで召喚できるって言いたかったみたい」


 うぐっ、そう言われると見方が変わってくる。確かに召喚のたびにユリアの心臓が必要なんていわれても不可能だ。しかしおしっこくらいなら現実的な話になってくる。


 少女のおしっこを求める変態と勘違いして斬りかかったが、コイツらはコイツらでユリアへ恩返しをしようとしているのかもしれない。それは俺がユリアを支えようとするのと同じことではないか。

 くそう。そういわれると、理解できなくもない。ユリアのおしっこでこの魅力的な提案が実現する。一番大事なことはユリアの奴隷落ちを防ぐことだ。そのためならば……。


「(わかった。その案でいこう)」


 俺は、止むに止まれず許可を出してしまった。

 ユリアもゾンビも喜んでいる。みんなが幸せになる、正しい選択をしたように思える。


「やったねー、ゾンちゃん」

「オオオォ。オォオォオオォ。オッオッオ(計画通り。猫とかチョロイわ。ぐっへっへ)」


 ――んッ!? 今、何か不穏な声が聞こえたような気がするが、気のせいか? 気のせいだよなッ!?

 不安を覚えた俺は、釘を刺しておくことにした。ユリアにそのことを伝えてもらう。


「ナスキーがね、『じか飲み』は許さないだって」

「「「オゴフォッ!?」」」


 その言葉を聞いた瞬間に、ゾンビたちは鼻血をふいて倒れた。


 …………怪しい。やっぱり、斬るべきだろうか?

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