5-5 困難は、行動さえすればどうにかなる場合が多い。
「せやっ! とやっ! たぁーっ!」
「うにゃにゃにゃにゃにゃにゃ、にゃぁーー!」
一本の巨木を前に、ユリアはスコップを斧のように振り下ろす。一方俺はその反対側から猫パンチの連撃を繰り出す。
木の根元付近が徐々に削れて、やがて自重を支えきれなくなって倒木する。
「はぁ、はぁ……。やった、やったよ、ナスキー」
「ぜー、ぜー、うにゃぁ」
ジャングルと化した畑の開拓を始めた俺たちは、まず雑草を刈ることから始めた。足場すら見えないのでは話にならないからな。
足元をすっきりさせてから俺たちは木の伐採に取り掛かった。できれば放置したいところだったが、太陽光を塞がれてしまっては食物が育たない。
ところが斧もチェーンソーもない伐採は困難を極めた。
いっそのこと焼き尽くしてやろうかと火を焚いたが、その瞬間植物たちは身に水滴をまとって防御する。地球の常識が通じない、植物たちの驚くべき生態だ。
仕方がないので正攻法で攻めるしかない。一本一本切り倒すのだ。
ユリアはスコップを幹に何度も打ち付けるが、全体重を乗せた一撃ですら木の表面に僅かな傷をつけるのみ。俺も爪とぎの要領で木の幹をガリガリと削っていくが、効果は推して計るべし。
二人して気の遠くなるような作業を延々と続けた。
結局初日は幹の半分も削れなかった。しかし、二日目、三日目になると変化が訪れる。
何千、何万と同じ動作を繰り返しているうちにユリアも俺もスキルを覚えた。
ユリアは《スコップ戦闘術》、俺は《猫爪》(ニャンコクロー)を覚えた。
スキルを覚えてから状況は一変した。あれだけ手こずった木の伐採が驚くほど順調に進む。
一日で一本。半日で一本。今では数時間もあれば巨木を一本伐採できる。細木に至っては一撃だ。MPを消費する分、スキルの効果は絶大だ。小柄な少女が非力さを全く感じさせない。
全体の五分の一ほど伐採を終えて、太陽光もしっかり地面まで届くようになった。
そろそろ伐採は一旦止めて畑作りに取り掛かる。
伐採は済んだものの切り株は残っている。木の根を掘り起こして除去する必要があるが、これがまた酷い重労働だ。少女の細腕にま荷が重い。
しかしそれでもやり続ければ何とかなるのがネクラ仕様だ。
「あっ、またスキルを覚えたよ、ナスキー」
――ユリアは《穴堀り》のスキルを覚えた。
ほらな。
明らかにスコップの面積よりも多い量の土を軽々と救い上げるユリア。強靭な木の根もスパッと両断。スキルの補正が物理的にありえないような現象をも可能としている。
あるとき、ユリアが倒木の下をスキルで掘っていると、土の上に乗っていた木が土と一緒に宙に浮かぶ謎現象が起こった。
ユリアの腕力では持ち上げられない重量があったはずだが、バグか?
いや、開発者曰くバグはないはずなので、これはきっと隠しスキルだろう。
せっかくなので、それを利用して畑の一角に寝泊りできる簡易小屋を作ることにした。ただ木材を積み重ねただけだが、ないよりマシだろう。
使い道のない切り株は俺がスキル《猫爪》の連続使用で粉砕していく。
足掛け一週間ほど、もくもくと作業に没頭した。
気がつけば綺麗に整地された広場が森の中に生まれた。その中心で俺とユリアは大の字になって寝そべった。
日差しが眩しい。
「とりあえず終わったね、ナスキー」
「にゃんにゃにゃ(まだ五分の一くらいだけどな)」
「ふぇぇ~~、こんなに頑張ったのに」
「にゃにゃ、にゃなにゅんな。にゃにゃーにゃんにゃん(とりあえず、整地できたところから作物を植えていこう。後は余裕のあるときに少しずつ開拓していこう)」
「そだね~」
ユリアは銅貨を数枚土にすき込みながら畝を作る。
新しく植えるのはトマト、キュウリ、ナス、ピーマンの四種。いずれも二~三日で生育してその後一週間くらい毎日収穫できるタイプだ。
もちろん地球ではこんなことはあり得ない。ネクラのゲームシステムだからできる芸当だ。
一晩経つともう芽が出ていた。追肥代わりに銅貨をばら撒くと、翌日には立派な茎が伸びる。細長い木の枝を支柱にして固定してから再び銅貨を撒くと、その日の午後にはもう花が咲き蕾が顔を覗かせる。
またもや肥料代わりに銅貨を与えると、茎から触手のようなつるが伸びて銅貨を拾い上げた。まるで生きた腕のように触手を操って硬貨を花に近づけると、銅貨は光の粒となって花から吸収される。
なんとも見たことのない農業風景だ。まるで植物が食事をしているようにも見える。金を直接食うのはカネゴ○の専売特許かと思ったが、違ったようだ。遺伝子操作もされていない素の状態でこれだ。この世界の生態系にはモンサ○トも呆れるだろうさ。
ここまでしっかり幹ができれば、後は一週間ほど収穫と追肥を繰り返すだけだ。
トマト、キュウリ、ナス、ピーマン。いずれもカブ奴隷を卒業した初心者が次に育てるものだ。LPの回復量は最低でも10。多ければ100以上と、カブよりもコストパフォーマンスに優れている。
ただしカブとは違い農業スキルが低いと失敗することがあるので、しっかりとカブ奴隷生活をこなした人間でないと安定しない。
そのへん抜かりはない。これからしばらくは安定してLPを増やし続けられるだろう。
俺たちはこの世界に来てからようやく上昇気流に乗り始めた。
ここまで辛いことがたくさんあったが、耐え抜いた。一人では投げ出して自暴自棄になっていたかもしれないが、ユリアがいてくれたおかげで困難を乗り越えることができた。
「にゃ(ありがとな)」
「どうしたの、ナスキー? いきなり、あらたまって」
「にゃ、にゃーにゃ(いや、何でもない)」
「へんなのー」
面と向かってお礼を言うのって、何か恥ずかしいよな。
――――てか、ユリアさん。少し前から普通に俺と会話してませんか? ま、いいか。
珍しく穏やかな気分だ。
だがそんな俺たちに、いよいよネクラがクソゲーと呼ばれる最大の原因である、あのイベントが迫っていたのだった。




