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5-6 備えあれば憂いなし



「にゃにゃいあ。にゃにゃんにゃーにゃにゃにゃ?(なあユリア。ギルドに登録してからどのくらい経つ?)」

「もうすぐ一ヶ月くらだけど、どうして?」


 そろそろあれがくるか。


「にゃにゃっ。にゃにやにゃ(街に行こう。対策しないとな)」

「対策って何? …………あ、あれれ? ちょっと、待って! 今、ユリア、普通にナスキーとお話してなかった!?」

「にゃぁぁ。にゃにゃんにゃ(今さらだな。気付いてなかったのかよ)」

「えぇぇ!? いつから?」

「にゃ――(畑に移ったときくらいにはもう会話してただろう)」

「自然すぎて全然気付かなかったよ。もうっ! 早く教えてくれればいいのにっ」


 俺としては何日も普通に会話していて違和感に気付かなかったユリアの鈍感力のほうが驚きなのだが。


「でも嬉しい! いっぱいお話しようね、ナスキー」

「(話は移動をしながらな。時間が惜しい)」



 道中にユリアのステータスについて教えてもらった。

 すると、ユリアの職業が【乞食】から【獣使いⅡ】に変化していたそうだ。職業はレベルの高いほうが優先されたはずだから合点がいった。

 またスキルレベルも《獣調教Ⅱ》にアップし、その効果でペットの考えがわかるようになったという。


 俺、幼女の調教されていたんだな、とあらためて思い出す。

 なんだ、この切ない気持ちは……。

 


 アキバハラに戻ってきてまずやることは、スコップの修理と強化だ。ここ最近酷使し続けたせいで先のほうが潰れたり曲がったりしている。ちょうどスコップ戦闘術も覚えたことだし、そろそろ戦闘にも使える形態に打ち直しても良さそうなタイミングだ。


 武器屋に到着すると、鍛冶師の親方が迎えてくれた。がっしりとした体格のおやっさんだ。毎日鉄鎚を振るっているおかげか、その筋肉は四十を軽く超えても衰えるところを見せない。


「よう、譲ちゃん。スコップの使い心地はどうだい?」

「はい、とっても役に立ってます」

「そうかい、それはなによりだ。今日はメンテナンスかい?」


 ユリアはスコップを親方に渡した。


「ほう、こりゃ随分と使い込んでいやがるな。まだ買ってからひと月も経ってねーだろ。この刃先の潰れ具合は土を掘った時のものじゃねーな。譲ちゃん、木の伐採でもしてたのかい?」

「何でわかるんですか!?」

「はっはっ! そりゃ職人だからな。ちょいと武器の状態を診れば、大抵のことはわかるってもんよ!」


 親方は顔のシワを濃くしながら機嫌良さげに笑った。


「それなあ刃先の部分を赤鉄で強化してやろう。今よりもツーランクは硬くなるから木を斬ったってつぶれやしねーぜ。それに火の属性がこもってるから植物には効果覿面だ」

「わぁ! ありがとうございます」


 気前の良さそうな親方だ。まだ値段交渉もしてないのにどんどん話が進む。こういうタイプは仕事をすることが生きがいで、売り上げなんて二の次三の次であることが多い。

 ならば、言うだけ言ったほうが良さそうだ。


 俺は隣のユリアに猫語で話しかける。それをユリアが親方に伝える。


「あの、ユリア、スコップ戦闘術ってスキルを覚えたんです」

「ほう! お譲ちゃん、こんな短期間にもうスキルを覚えたのか。てぇしたもんだ。んなら、武器としても使えるように匙部を剣先型に変えた方が良さそうだな。あと重量も削るか。譲ちゃん、ちょっとこれ握って武器みてぇに振ってみな」


 表の広場に出たユリアは言われたとおりにスコップを振る。振り下ろし、振り上げ、水平薙ぎ。一通りの動作を親方はジッと見つめていた。

 幼女をジッとみる四十過ぎのオヤジ。通常なら通報ものだが、全く嫌らしさを感じさせないので許すことにした。


「なるほど、大体わかった。譲ちゃんの体格だと重心が合ってねぇな。匙部をもう一回り小さくして、柄も短くするか。あとは握り部に皮で滑り止めを付けてやろう。譲ちゃんの可愛いお手々が豆だらけになってずる剥けちまったらかわいそうだしな」

「あのう、いいんですか? ユリア、あまりお金持ってないです」

「はっはっ! 若いもんが遠慮しちゃいけねぇよ。お代のことなら気にするこたぁねぇよ。全部合わせて二万くらいで仕上げてやらぁ」


 安っす! ほとんど材料費だけじゃね? いいのか、そんなんで?


「そんじゃ、二~三日預からせてもらうぜ。受け取りは一週間以内に頼む」

「よろしくお願いします」


 無事商談は成立した。

 中々気の良さそうな親方だ。店に並ぶ商品や、ちょっとユリアの動きを見ただけで改善点を見出す観察眼など、いづれも熟練した気配を漂わせている。

 ならば俺も親方に依頼するか。


 ユリアの足首をちょんちょんと叩いて意志を伝える。ついでに通訳もしてもらおう。


「あのぅ、親方さん。ナスキーも依頼したいって」

「ん? その黒くて小っちゃいヤツかい?」

「はい。ユリアのペットなんです」

「ほほう、手前を選んでくれるったぁ、なかなか見所のあるヤツじゃねぇか! どれっ、どんな武器が欲しいんだ? 遠慮なく言ってみな」


 ならば遠慮なく。俺はユリアを通して要望を伝える。


「何!? 軽鋼にシルフの羽とスケルトンの骨を合成してネコ用の鉤爪を作ってくれだとっ? おめぇさん、ずいぶん鍛冶に詳しいな。その情報をどこで仕入れたんだい?」

「えっと、『昔ちょっとな』って言ってます」

「まぁ、言いたくねぇってんなら、それも構わねぇよ」

「お願いできますか?」

「ああ、任せときな。ペット用の武器ってのは初めてだが、まぁ何とかなるだろぅ。いやー、嬉しいね。この年で新しい仕事に挑戦できるとは、職人冥利に尽きるってもんだ」


 親方はおもちゃを買ってもらった子供のように屈託なく笑った。


「そいじゃ、指の型をとらしてもらうぞ。ここの粘土板に指を押し付けてくんな」


 親方に言われた通りに指の型を取る。指を開いたり閉じたり、爪を出したり引っ込めたり。何種類かの型を取って前金を支払った。

 しばらく雑談をしてから、俺たちは武器屋を後にした。完成が楽しみだ。 




 次に訪れたのはスキル屋だ。

 欲しいスキルが売りに出されてないかチェックする。残念ながら目ぼしい物はなかった。自分が覚えているスキルで必要のないものがあれば処分してしまおう。この世界ではスキル数は少なければ少ないほど有利だからな。


 スキルの整理が終わったら次は袋屋へ直行する。

 袋屋とは聞きなれない店だが、アイテムボックスの容量を拡張してくれる施設だ。


 ネクラにも異空間にアイテムを収納できる四次元ポケット的な便利システムは備わっている。クソゲーにしては珍しく普通の機能が搭載されているが、やはりそこはワンクッション挟んでクソゲー要素をねじ込んでくる。


 一般のゲームのように量も大きさも無制限に収納できるわけではない。

 ネクラのアイテムボックスは重量と容積の両方の制限を満たしたアイテムのみ収納可能だ。しかも出し入れする際はLPを消費するのである。多用するとバカにならない出費になるのだ。忌々しい。


 初期のアイテムボックスは重さ一キログラム、幅一立方メートルに固定されている。袋屋は、この重量などの制限値をLPを支払うことで増やすことができる。大荷物を運ぶ商人などはこの容量上げが必須になる。そして当然、容量は増やせば増やすほど多くのLPを消費することになる。最初のうちはたいした事なくても、そのうち信じられないくらいに高額の拡張料を取られることになる。


 さすがはクソゲーキング。細かいとこまで嫌がらせが行き届いている。その細やかな気配りをどうして人を喜ばせる方向に用いられなかったのか。


 まあそれでもやりようはある。じつはモンスターやペットもアイテムボックス用の領域が備わっているのだ。一部のモンスターは自由にその領域を使うこともあるが、大抵の場合はただの宝の持ち腐れだ。しかしギルド登録したりペットになることでその領域を活用できるようになる。


 ペットの場合は自由に出し入れできないものの、主人とアイテムボックス領域が共有されるようになる。つまり主人はペットのアイテム領域も自分の領域として統合できるわけだ。

 なので俺は自分のアイテム領域をめいいっぱい拡張する。その拡張した領域をユリアがノーリスクで使えるようになるわけだ。

 貨幣を使えないペットでも、なぜかアイテムボックスの容量は買えるようになっている。ペットにとっては数少ないLPの有効活用法だ。



 その後も俺たちは街を練り歩き、自分たちに投資できるものにLPを積極的に使った。残ったLPは二人とも3万ゾイくらいか。


「ねぇナスキー。ユリアたちこんなにお金を使って大丈夫なの?」

「(ああ。むしろ使わないと無駄になっちまうからな)」

「どういうこと?」


 なぜなら、もうすぐ迫っているからだ。ネクラの最大にして最悪のクソイベントがな。その名も、


 


 ――――『納税』システム。





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