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4-4 記憶の封印は正常な防衛反応だと思う。たぶん。

長くなったから分割。


 ペットの首輪に備わった恩恵の一つは、ギルド員と同じように死ぬと50%の確率で教会に送られるようになることだ。ただし一度教会に送られるとタグが壊れてしまうので、再発行手数料としてLPを1万ほど取られる。


 こうして俺は夜のうちに、何事もなかったようにユリアのもとへ戻った。


#### ギギギギ ♯###

 本当に何もなかったのだ。俺は銭湯になんて行っていないし、何も見なかったし聞かなかった。そんな記憶はない。いいね?(にっこり)

#### ギギギギ ♯###


 翌日。


 さて、現在俺がもっとも欲しいのは《念話》スキルだ。これさえ習得できれば意思疎通が可能になって、猫でも街暮らしが容易になる。もう少女に放尿を強要されるようなこともなくなるはずだ。

 スキルの習得は特定の行動を繰り返したり、特定の装備を使い続けたりしたときに自然に覚えることが多い。他には敵を倒したときに低確率で得る場合と、アイテムを使用したり、街のスキル屋を利用して覚える場合がある。

 ネクラではスキルの売買ができるのだ。人によってはスキルの売買で生計を立てている人もいるくらいだ。低レベルの人気スキルを買って装備し、高レベルに育ててから売ると大きな差額を得られる。

 しかし品揃えは完全にランダムで、俺は街のスキル屋を定期的にチェックしているが、なかなかお目当てのスキルは見つからない。

 もうしばらくは無口キャラを続けなければならないようだ。


 ん? そういえば、いつの間にか《雷耐性》《注意》というスキルが身についている。なぜだろう。まったく身に覚えがない。


#### ギギギギ ♯###

 本当に何もなかったのだ。俺は銭湯になんて行っていないし、何も見なかったし聞かなかった。そんな記憶はない。いいね?(にっこり)

#### ギギギギ ♯###


 まあ、いいか。


 それならばと、次に俺が目指すのは文字の習得だ。

 読み書きができれば会話をせずともコミュニケーションできるかもしれない。

 そのために必要なアイテムを、ユリアと商店街を歩いているときに偶然発見した。


「にゃ!? にゃにゃにゃ!」


 俺はユリアの肩を肉球で叩いた。

 人通りの多い商店街ではぐれないように、また商品が良く見えるように俺はユリアの肩に乗って移動している。


「どうしたの、ナスキー? 何か欲しいものでもあるの?」

「にゃん!」


 俺は露店の一角を指差してユリアを誘導すると、商品が手に届く距離まで近づいてもらう。

 そして一つのアイテムをポンポンと触った。


「コレは、トランプ? これが欲しいの?」

「にゃん!」

 力強く頷く。


「そうね。ナスキーはたくさん稼いでくれたから、たまにはご褒美も必要よね」


 トランプは嗜好品に分類されるので少々お高めだが、手に入れられて幸いだった。


 宿に戻り、早速ケースから出して中身を床に広げる。

 同じ図柄が並ぶカードを二枚選んでひっくり返す。裏の数が同じだったら場から外して、数が合わなかったらもとに戻す。

 そんなことを何度か繰り返していると、


「ひょっとして神経衰弱をしているの?」

「にゃ」


 そう、俺がしていたのは有名なトランプゲームの一つ、神経衰弱だ。

 別に遊びたかったわけではない。俺はネクラをプレイした経験から、トランプが地球のと同じであることを知っていた。つまり、地球のトランプと同じ図柄に異世界の数字が描かれていることになる。これを利用して数字を把握しようというわけだ。俺、頭いい。


「ユリアもやる!」


 ユリアと一緒になってゲームを続ける。

 三ゲームを終える頃にはすっかり数字を覚えた。


「ねえ、前から聞こうと思っていたんだけど」

「にゃ?」

「ナスキーってユリアの言葉がわかるの?」

「にゃんにゃ。にゃなにゃーにゃにゃあにゃ(なんだ、今頃気付いたのか)」


 俺はわかるが、ユリアは猫語を理解できないだろう。

 それでも、俺の反応に何か思うところがあったのか、


「ねえ、ナスキー。このカードと、このカード。どっちの数が多い?」


 ユリアはダイヤの2とハートの4を持っていた。俺は迷わずハートの4にタッチする。


「――っ!?」


 ユリアははびっくりしたように肩を跳ねさせて、別のカードに持ち替える。


「じゃ、じゃぁじゃぁ、この二枚のカードの数を足したのと同じカードを持ってきてくれる?」


 ユリアは5と3のカードを持っている。俺は床に散らばったカードの中から8のカードを指差した。


「すごいっ! 本当に言葉がわかるのね!?」

「にゃ」


 抱きしめられる。痛い。もっと優しくしろよな。

 言葉が通じると確信したからか、ユリアはボロボロ泣き出した。自分を理解してくれる人が周りにいると安心するものだ。

 それでも本当に言葉がわかっているのか不安なようで、「右手上げて」だの「しっぽを振って」だの「二足立ちして」だの、何度も何度も確認をする。それに全部応じた俺はようやくユリアの信用を得たようだった。


 何にしても嬉しい誤算だ。

 ただ数字を覚えるためだったはずが、ユリアに人語を解すると伝えられた。これは大きなアドバンテージだ。

 これからはユリアも俺の意思を一部だが理解できるようになる。「はい」は「にゃ」と短く鳴き、「いいえ」は「にゃーにゃ」と鳴く。これで俺の賛成と反対を彼女も共有できるのだ。

 


 その後、俺もユリアも地球時代の懐かしい遊びに時間を忘れて没頭した。

 夕食の時間まで遊んでいた頃に、ようやくトランプゲームをしていた真の目的が達成された。


 ――スキル《暗記》を覚えた。


 そう、これが俺の狙っていたスキルの一つ。文字を覚える前に持っていると習得時間が大きく短縮されるスキルだ。


 一度で三つも美味しいとは、トランプさまさまである。


     ◆


 数字を覚えたなら次は文字だ。『文字入門』という初心者用の本を手に入れたので、宿屋の女将さんに教えてもらう。ある程度覚えたら、簡単な本を読んでみてわらかなかった文字を文脈から予想して解読しながら残りの文字も覚える。

 ユリアの膝の上に乗りながらページをめくってもらい、二人で二日かけて文字を習得した。

 ステータスで確認すれば、初級文字スキルの項目がマスターになっていた。


 次に出向いたのは図書館だ。

 せっかく文字を覚えたのだから、さっそく情報収集に活用する。

 特に必要なのは安全や生活に関わることだ。『モンスター図鑑』『植物図鑑』『地図』『交通表』など、片っ端から記憶していく。《暗記》スキルがめりめり上がっていく。 


 図書館に入るにもお金がかかるからに、一度入ったら一日中こもりっきりになるのがデフォだ。ちなみにモンスターは入れないので、ユリアの服の中に隠れて潜入した。


     ◆


 さて、数日間アキバハラ内で場所を変えながら芸をすることでお金、もといLPにはだいぶ余裕が出てきた。俺もユリアも10万近いLPを保持している。

 このまま旅芸人として安定した生活ができるかもと一瞬頭をよぎったがそう上手くはいかない。一度芸を見た聴衆は同じ芸を見ると飽きてしまって、次回から見物料を払わなくなる。芸で稼げるのは最初だけなのだ。


 というわけで近いうちに新たな稼ぎ口が必要になる。

 今の自分たちでもできる仕事がないかと、ギルドの掲示板に視線を走らせる。すると、


「な、ナスキー! 日本語が! 日本語があるよ!」


 ユリアが大声をあげた。

 見覚えのある文字だ。地球人がいたらギルドに連絡を、と書いてある。なるほど噴水広場で会った連中が街中のギルドにも張り紙をしていたのか。


「ナスキー、ユリアは日本ってところから来たの。同じところから来た人がいるなら会ってみたい。いい?」


 正直、また奴らと会うのは微妙だ。何せ初対面の俺を襲おうとした連中だ。しかしユリアにとっては同郷の人と繋がりを持つことは有益かもしれない。精神的に軽くなれば儲けものだし、何かのときの助けになるかもしれない。

 俺は少し考えてから了承した。


「やったー」

 ユリアは軽やかな足取りでギルドの受付へ向かう。


「すみません。掲示板にあった地球人についてなんですけど」

「チキュウ人の方ですね。言伝を預かっております」


 ユリアはいつになく目をキラキラと輝かせた。



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