三つの願い
お腹空いたな…… どうして僕たちが我慢しないといけないんだ。
でも持ち場を離れて龍神様が現れたら僕の責任だしな……
「ほらカズ君も行ってきなよ。龍神様が出現したら呼ぶからさ」
腹を空かせよだれを垂らす寸前の僕を気遣うゾーク。
いい奴だな。やっぱり持つべきは物分かりのいい親友さ。
アンもそうしなよと言ってくれた。だったら僕も行くかな。
二人を残すのは悪い気もするがせっかくなので遠慮なく。
「カズ! ほらお前たちの分だ」
タイミングよく戻って来た。もう少し我慢してれば格好がついたのに。
これでは我慢できずに離れた情けない男になってしまう。まあいいか。
「おおこれは? 」
「ギャルルさんのパン2だ」
最新のバージョンだと。
以前と比べると甘みが増し食感も改善されてるとか。
後は見た目さえよければ完璧だと。でもそればっかりは難しいだろう。
「うおおお! 美味かったぞ! 」
ハイが大喜び。まだ食べ足りないとごねたが父さんが許してくれなかったらしい。
厳しいな。まあごちそうはすべてが解決してからでいいさ。
その時は父さんの奢りで豪勢に行こうじゃないか。思いっきり食うぞ!
ついその時を思い描いて再びよだれが垂れそうになる。想像だけでもうお腹一杯。
ではさっそくギャルルさんのパン2を一口。
うわ…… 口いっぱいに広がる甘さ。これはもうパンじゃない。スイーツだ。
ゾークもアンも満足そう。ハイは食べたはずなのに他の人の分まで狙ってる。
やっぱり美味いものは美味い。そんなつまらない感想しかない。
パンに夢中になってると突然空が光り出した。
「あれは何だ? 」
東の空に巨大な爺さんが出現した。
ようやく龍神様を呼び出す呪文を思い出したらしい。
パンも食べたことだしそろそろ準備するかな。
「あなた様が龍神谷に棲む龍神様でしょうか? 」
「いかにも! 」
「おお! 」
大盛り上がりの町長たち。これは凄いことが起きた。
「おいカズ? 俺にはいつもの爺さんに見えるが? 」
黄金に輝く謎の爺さん。父さんは信じられないと。
そう言えばファンタジーの神の爺さんに似てる気もするな。
いや似てるも何も声も喋り方も顔だってそっくりじゃないか。
すると爺さんはファンタジーの神であり龍神様でもあると?
それは何てとんでもないお方なのか。気軽に爺さんなんて呼べないぞ。
「うーん。でも本当かな? 」
つい疑問が口に出てしまう。だってあの爺さんだよ?
ただ覗いて鼻血を出す変態爺じゃないか。
「これが龍神様さ! きっとそうに違いない! 」
「待てよゾーク。あり得ないだろう? 」
ゾークが興奮気味。逆にハイの方が冷静に見える不思議。
「なあカズ? これはいつもの変態爺じゃないのか? 」
テルファーだって何度も会ってるからすぐに気付く。
二度も覗かれ昨日は勝手に人の部屋に入って来た困った爺さんだからな。
忘れたくても忘れられない常に人騒がせな爺さん。
「神様…… ファンタジーの神がなぜこのような姿に? 」
ただ黄金に輝いているだけだがそれでも驚きは隠せない。
だが龍神様は反応することなく町長たちに向き合う。
余計なことを言う奴とは口を利かない姿勢。
「何じゃお前たち? 気持ちよく寝てたのに起こしおって! 」
怒りの表情を見せる。だが昨日だって忙しいと言いながら出現していた。
心配性のファンタジーの神。
「どうぞ願いをお聞きください! 」
町長が跪く。そこまでする? まあ願いが叶うならそれくらいするのか。
「よかろう。話だけなら聞いてやってもよいぞ。さあ話すがよい! 」
まさかの人生相談をするつもりか? でも相手もバカじゃない。
それでごまかせるはずがない。ここまで来てそんなんで我慢できるはずがない。
「待ってくれ! 願いは? せっかく呼び出したのにそれはあんまりだ! 」
町長の仲間の緑の帽子を被った男が懇願する。
「うむ。よかろう。願いを三つだけ聞いてやる。言ってみるがよい」
どうやら龍神様は太っ腹なのか三つも願いを聞くそう。これは初耳だぞ。
しかしどうであれ奴らに願いを叶えられてはお終い。
ここでぼうっとしてる時ではない。
「では改めて。世界征服できるだけの力をお与えください! 」
ついに男たちは本性を現した。これでもう世界は終わり?
事前にどうにかしようと思ってたが遅かったらしい。
「それは無理だな。コンプラに抵触する。ファンタジーでもギリギリでグレーだ」
言い方を変えろと。でもどうすればいい? スローにでもするか?
いやいや大した効果にならないさ。
「世界一強い人間になりたい! 」
「うーん。叶えられないこともないが面倒。これで本当によいな? 」
「待ってください! この世界の国王にになりたいです! 」
それまで大人しく見守っていた町長が訴える。
「うむ。よろしい。それくらいは構わんぞ」
こうしてあっと言う間に願いは叶えられる。
あまり展開に待ったも言えずにただ見守るだけになった。
裏切りの町長はここでも裏切ったらしい。
僕たちを見込んで巻物探しを依頼。
しかしそれは町を守るためではなかった。
そして今も仲間たちが世界征服と頼んでいるところで言い直す。
世界の王になりたいと。さすがは町長になっただけはある。頭もいいし冷静だ。
「馬鹿野郎! ふざけるな! 」
「うん? 王に向かって大変無礼であるぞ。そこで跪くがよい! 」
もうこの世界の王になったつもりらしい。
まるで人が変わったような町長。これが町長の本来の姿なのかもな。
「それで二つ目は? 」
だが仲間割れを始めてはいくら叫んでも聞こえやしない。
黙らせるしかないが欲がそれを阻む。
「よいのか? 本当によいのだな? ちなみに願いの効力は明日から」
すると町長はまだその手に世界を収めてない。ただの町の偉い人。
「そんな…… 今すぐが…… 」
「よしこいつをぶっ飛ばせ! 」
仲間割れから町長潰しに発展。
本来ならここで助けるところだが裏切り者の上にこの世界の王になら放置。
「いいのだな? おいお前ら! 」
「では龍神様! 今の一つ目はなかったことに。キャンセルで! 」
仲間割れしてるどさくさに紛れて飛び出し願いを言う。
危険極まりない行為だがここで動かないと奴らに世界を奪われてしまう。
「もったいないがよかろう。では最初の願いであるこの世界の王はキャンセル!
そして今の二つの願いはもう叶えられない。
キャンセルされてはせっかくの願いが無にになるそれを避けるため」
「では三つ目の願いを言うがいい! 」
恐らく爺さんだがどうやら本物の龍神様らしい。
「よし目的は果たした。もう悪用されないように適当に願いを言うんだ! 」
父さんの命令で仕方なく自分の願望を言おうとするが……
しかしテルファーの視線が突き刺さる。そのテルファーは別にないと無欲。
アンもいい人なので思いつかないと。
ならばゾークは…… まずいぞ。町長と同じような危険な感じがする。
ゾークは今回は遠慮してもらうか。
残るはハイでそれが無理なら父さんが待機。これ以上ノロノロしてられない。
「ハイ! お前の好きな願いを言え! 」
「でも…… 親方。俺特に…… 」
意外にもハイは困ってるらしい。
「だったら俺が…… 」
「待って父さん。好きなことでいいんだぞハイ! 」
「それなら…… 」
そう言って立ち上がると胸を張る。そして腹が鳴る。恥ずかしいなもう。
「龍神様! 俺の願いを聞いてくれ! 」
「嫌じゃ! 」
すると全員がずっこける。
「冗談じゃ。それでは三つ目の願いを言うがいい。ハイよ早く言え! 」
絶対に爺さんだ。ハイを知ってるんだからさ。
ただの変態覗き爺さん兼ファンタジーの神の正体はやっぱり龍神様だった。
分かってたけど決め手がなかったから。
「パン…… ギャルルさんのパン2が腹一杯食いたい! 」
何と食い意地の張ったハイ。これは絶対仲間だと思われたくない。
「うむ。お前は正直者じゃ! ではギャルのパンティー1年分でよかろう。
それでは願いは叶えた。サラバじゃ! 」
こうして龍神様は姿を消す。
続く




