ギャルルさんのパン
町長と行動を共にする怪しげな奴ら。
彼らこそが王子誘拐やトップター騒動に巻物探し等を主導していた悪党。
断定はできないが恐らくそうだろう。父さんも確信してるようだし。
それにしてもこんな奴らとどうして町長は手を組んだのか? まったくの謎。
どうやら父さんは奴らのことを知っている風だし。
もう何が何だか。頭がこんがらがるよ。
一体にこいつらは何者なんだ?
「よし行くぞ。これ以上離されたら見失う」
父さん指示で慎重に尾行再開!
ベネットは平和な街だとアンは言っていた。
ただそれはきっと昼間の話なのだろう。
僕たちの村みたいにのんびりしたところは珍しい。
あそこだって少し離れれば人喰いオオカミの噂があって実際巻き込まれた。
それでも人喰いオオカミはよそから来た一匹オオカミだ。
奴らだって元々ここの住民じゃないよそ者だ。
今のところ正体を現さずに大人しくただ龍神様を探している。
それでも困った奴らに変わりはない。平和を乱す最低な集団さ。
当然ベネットにも闇がある。
光のあるところには闇が存在する。それがこの世界の真実。
そもそもここにモンスターがいない訳じゃない。
奴らの気配を感じてモンスターどもは動きを抑えていると父さんは言う。
奴らが去れば元通り活動する。いつモンスターが襲って来てもおかしくない。
さっそくガンガンが現れた。
とにかく騒がしくして目立つのが彼らの特徴。
抑えてくれと言っても聞く耳を持たない。
危うく奴らに気づかれそうになる。
クソ! どうすることもできない。
「雑魚が大人しくくたばれ! 」
静かに戦えない父さんとハイとテルファーの三人組。
もう少し頭を使ってくれたら助かるんだけどな。
見つかるかもと言う恐怖と見失うリスクがあって動きづらい。
ベネットの剣を使用。
水を纏ったベネットの剣はガンガンを溺れさせる。
「ううう…… ガンガンさせてくれ…… 」
最後の言葉を遺して消滅。
「よし行くぞ! 」
リーダーは僕のはずなのに父さんが張り切って引っ張っていく。
だから大声を出したら尾行にならないってば。興奮し過ぎだよ。
「待ちな! 」
竜童が現れた。
竜童は夜行性のモンスター。
まるで龍が鳴いてるみたいな叫び声なので竜童と呼ばれてるそう。
滅多に現れないレアモンスターでもある。
「馬鹿め! 一撃だ! 」
ハイが果敢に挑むが効果なし。
「お前ら全員で掛かれ! 」
父さんの命令で一気に攻めるが肝心の剣が効かない。
「クソどうして! おかしいぞ」
「たぶん龍だから水が無効化されるんだと思う」
ゾークが答える。
「だったらゾークのスローでどうにか? 」
「無駄だって。動きが遅くなるだけでは逃げられない。人間じゃない。
スローは攻撃速度が遅くなるだけ。補助魔法だからね」
「だったらアン頼んだ! 」
だがアンも補助魔法以外使えない。
それならどうするか?
「おいノロノロしてると奴らどんどん行っちまうぞ! 」
父さんが痺れを切らす。でも逃げられない。騒ぎ過ぎても気づかれる。
こんな時に攻撃用アイテムがあればな……
そう言えばドラコが何個か置いていったんだった。
爆発の実。
「何だその紫っぽい見た目の食いものはよ! 」
テルファーは近づけるなと嫌がる。アンも遠慮しますと散々。
やはり普通の感覚では受け付けないか。だがそうでなかったら?
父さんがうまそうだと。ちょうど腹が減っていたと。
でも食べさせる訳には行かないのでストップ。だってそれは……
竜童に投げつけるとうまそうだと父さんと同じ反応を見せる。
どう言う神経してるんだ?
しかしこれでいい。
ボリボリ
ボリボリ
美味しそうに爆発の実を食べてしまう。
「うおおお! 何だか燃えて来たぞ! 」
竜童は最後の言葉を遺して散る。
大爆発後になぜかパンが散らばっていた。
意地汚くこれを食べるとあら不思議。体力も魔力も完全回復した。
「あれ…… これって三年前に流行ったギャルルさんのパン…… 」
なぜか顔を赤らめるアンだがどうやらそのギャルルのパンは大盛況だったよう。
ドラクリオで大人気になったが一年で飽きたと言う話。
その後ひっそりとギャルルさんは町を離れた。
すると彼女はこのベネットで新しく店をオープンさせたのだろう。
これは何個か買っておくのもいいかもしれない。
レアアイテム合成でできる回復系アイテム作りの参考にもなるはず。
味も悪くないなら文句ない。
「何だか元気になった気が…… 」
ゾークと分け合って食べたので二人とも完全回復とは行かないけどほぼ回復。
アンは遠慮していたが彼女は体力も魔力もほぼ減ってないので問題ないだろう。
それ以外の三人も奪い合ってギャルルさんのパンを食べた。
もう充分体力回復はできただろう。
「よし尾行再開! 」
こうして怪しげな集団の後を追う。
それから十分もしないで山を上りちょっと下ったところでついに動きを止める。
ここがどうやら目的地の龍神谷のよう。
そう言えば雰囲気あるな。それにしてもベネットの外れにあるとは思わなかった。
ベネットも決して大都市と言う訳でもない。
水の町として栄えていたそう。だからおかしくはないか。
「おい連中何か唱えてるぞ…… 」
どうやら巻物に記された言葉を唱える事で龍神様を眠りから覚まさせる気らしい。
ついに始まった復活の儀式。
あれから皆じっとしてるな。動きが見られない。
意外にも我慢強い。敵ながら見直したよ。
だがそれで我慢できないのが父さんとハイとテルファーの三人。十分と待てない。
三十分もすると辺りは暗くなり始めた。しかし敵は誰一人として微動だにしない。
これは長期戦だろうか?
「おいカズ! お前一発お見舞いしてこい! 」
父さんが無茶を言う。そんな事したら僕がやられるだろうし龍人様は出て来ない。
今までのことが無駄になって僕がボコボコにされるだけ。
考えれば分かることなのに父さんは息子を犠牲にしてでも急かすつもりか?
信じられないがそれが父さんだ。
ただ僕だって黙ってやられる訳には行かない。ここは身代わりを立てる。
「ハイ任せた! 」
「俺? 」
「ほらふざけないのカズ君! さあ大人しく待ってましょう」
アンが止める。
どうやら復活に期待してるようだけど出て来られたら困るんですけど。
「なあそろそろ飯にしないか? 」
龍神様がちっとも現れないので痺れを切らした父さんが呑気に提案する。
よく考えれば初めに父さんたちがおかしかなことを言いだしたんだよな。
町長が変だから見張ろうって。これは最初からある程度分かってた事なのでは?
きっとそうに違いない。それなのにいい加減だから困るんだよな。
もうそろそろ奴らの正体を教えてくれてもいいのに。
僕たちがここに来たのはただのアトリエ探し。クエストだってもう終わっていた。
それを怪しいとか世界征服しようとしてると大げさに言ったのはすべて父さんだ。
「ああ腹減ったぜ」
テルファーが賛成に回ればもう誰も反対する者はない。
「でもどこで? 」
「あそこにちょうどいいのがあるよ」
小さな家から匂いがする。うん。これはパンだな。
「よし最終決戦の前に飯にするぞ! 」
父さんが言うと二人が賛成と行ってしまう。
おいおい食事中に龍神様が出現したらどうする気だよ?
気にしない三人組は中でのんびり。出て来やしない。
もう何をしてるんだよ? 僕だってお腹空いたのに。
続く




