タンサン毒水再び
王子を連れネモのアトリエへ。
もしかしたら何かの役に立つかもしれないけどやはり安全が優先だよな。
急いで送り届けないと。せめて信頼の置ける人に預けなくてはいけない。
最終決戦を前にこれ以上余計なことに構っていられない。
「もうちょっと頼む! 」
「これ以上は無理だ! 他を当たりな! 」
やってるやってる。どうやら父さんは値切ってるみたい。
しかし相手だって安く売る気はないだろう。
でも父さんの得た情報では手放したがってるって話だったと思うけど。
「ここしかないから言ってるんだろう? もう時間もないんだ。頼むぜ! 」
「だったらこの条件を呑みな! 」
「クソ! 足元見やがって」
どうやら交渉成立とはならなそう。
我の強い芸術家相手に交渉してもいい結果が得られるはずがない。
大体なぜ値下げ交渉しようとするんだ?
「父さん? 」
「ああもうこんな時に…… よしもう少し考えさせてくれ」
「いいですよ。よりよい返事を期待してます」
こうして一回目のアトリエ交渉を終える。
二回目に期待したいけど父さんはもう諦めてるみたい。どうも想像以上らしい。
「クソ! これ以上出せない。限界なんだよ。やはりここは土地が高過ぎる」
分かっていたことだと嘆くがこの際値段はいいから早く決めた方がいい気がする。
それとネモは本気でアトリエ売る気あるのか?
おっと今はそれより王子だった。
「父さん。実は王子が落ちてて…… どうしよう? 」
実際に茂みに落ちていたのを拾ったのでこんなおかしな説明になる。
「あの王子が? 何かあるなこれは? よしとにかくこれを」
そう言って意外にも冷静な父さんが渡したのは例のタンサン毒水。
いつの間に作ったんだ? 確かに合成師なら作るのは簡単だけど。
まさか攻撃用アイテムを増やして最終決戦に臨もうとしたか?
タンサン毒水は飲むと三日三晩苦しむとんでもない合成アイテム。
その威力は前回王子で試した。
「くれ! これはありがたい! 」
王子は再びタンサン毒水を口にしてしまう。
何時間後に変化が見られるようになると三日三晩苦しむことになる。
これはまずくないか? でも王子は気づいてないし笑顔で元気。
まあいいか。王子が元気ならそれでいいさ。うん問題ない。
こうして王子救出大成功。
「済まんが王子を預かってくれないか? 」
「無茶を言うな。こっちも忙しい。大体値切って買おうとする奴があるか! 」
どうやら怒らせてしまったらしい。これはどうやら今回も無理そう。
値切ったのが直接の原因だろう。
ジャックとつるんで悪さばかりするからそんなことになるんだって。
結局第二交渉もうまく行かず。
ジャックから得たアトリエ候補は交渉不成立よりご破産となった。
「クソバカ野郎が! 」
捨て台詞を吐き去る父さん。
ベネットに来た意味はほぼなかったな。お荷物王子を抱えただけ。
それにしてもネモだって王子の支援が欲しいはずなのに反応が薄いんだよね。
やっぱりひねくれてる? それとも王子には見えなかった?
面倒を押し付けられると思ったのか?
するとネモもチャンスを逃したんじゃないのかな?
突然口笛を鳴らしたかと思ったらドラコが飛んできた。
「あら…… お兄様まで。どうでしたか昨日は? テルファーさんもお楽しみで」
どうやらドラコは探りを入れてるらしい。あと少しで邪魔が入った。
ただあのまま続けていたら父さんたちに見つかっていたから助かったとも言える。
「こいつらのことはどうでもいい。それよりドラコに一つ頼みがあるんだ」
父さんは足手まといと判断した王子を送り届けるように命令する。
おいおい嘘だろう? 一国の王子を面倒だからとドラコの背に乗せるか?
危険過ぎる。いつバランスを崩して王子が落下するか分かったものじゃない。
「もう仕方ないわね。では皆さんごきげんよう」
そう言うと飛び去って行った。
これで王子を安全圏に逃がしついに最終決戦に臨む。
しかし父さんはやる気を失くしている。
昼過ぎに合流。全員集合の流れとなった。
「ドラコと偶然ここで会ってな。張らせていたんだ。
そろそろ奴らは動くぞ。
町長とその仲間たちによる悪だくみを暴く時がやって来た。
龍神谷を探しに進展があったらしい。
あちらも町長と合流して全員で動き出した。
魅惑の町・ベネットで今何かが起ころうとしている。
それが何なのか? この目で確かめる必要がある。
風が吹いて来た。だがそれは生温くて不気味。
不吉な風だ。まるで僕たちを惑わすようなそんな感じ。
えっと…… 町長の姿はっと。
特徴的な緑色の帽子を被ってるのが町長と行動を共にしている一人。
背は高く腕力もありそう。僕など一瞬で捻りつぶされそう。
「あれ…… カズ君。いつの間にレベルアップしてるの? 」
どうやらゾークは僕の変化に気づいたらしい。
「そうか? 何も変わってないと思うぞ。なあカズ? 」
相変わらず鈍感なハイ。自分のこと以外は気にしてないところがある。
「ははは…… ちょっといろいろあってさ。ねえテルファー」
正直に言えるはずがない。
「ああそうだ。二人で秘密の特訓をした。そうしたらレベルアップしただけ」
テルファーが危なくばらすところだった。
「そう言えばこいつら一時間ぐらい遊んでたな」
父さんもどうやら感づいたよう。だからってからかわないで欲しいな。
ただでさえ疑われて事実二人は結ばれた訳で。これはバレたらまずい。
「何だかテルファーってばかわいくなったんじゃない。色っぽくもなった」
アンは褒めてるようだけどそれって大人になったと暗に言ってるようなもの。
危なすぎる。これ以上触れないでくれよな。
「おい静かに! 奴らが動き出したぞ」
父さんの一喝で静かに。これでいい。これでもう僕たちの事は忘れただろう。
大したことはしてないさ。ただテルファーの願いを叶えてあげただけ。
振り返られてはまずいので百メートルは離れて歩く。
隠れられる時は茂みに隠れて後を追う。
「テルファー! 」
ぼんやりしていたので茂みに隠す。
その瞬間最後尾の奴が振り向いた。まずい。尾行に気づいたか?
しかし問題ないと判断したのかまた動き出した。
「へへへ…… 強引だなカズも…… もう一度やる? レベルアップするかもな」
テルファーは尾行そっちのけでやりたがる。いや今は無理でしょう?
大体皆だってこっちを見てるんだから。
「よし進むぞ」
それから五分後に再び振り向く。
「危ないアン! 」
反応の遅れたアンをどうにか押し倒す。
奴らも警戒はしてるようだが本気で確認してる訳ではない。
五分おきに振り返るのはただの決まりごと。だからいい加減で適当なもの。
もしきちんと見ていれば怪しい動きを察知されただろう。
しかしだからって今動くのはまずい。
「カズ君…… 」
「ごめんねアン。でも奴らもプロだから」
そうして五分ほど押し倒したアンにかぶさる。
決して望んでないがアンが恥ずかしがってしまう。
ちょっとやり過ぎかな? でも尾行の下手な者もいる。放ってはおけない。
「おいいつまで抱き合ってるんだよ。行くぞカズ」
父さんがもう大丈夫だと判断したらしい。
これ以上離されれば見失う恐れがあると。
危険を冒してでも尾行を再開しろと。
もう間もなく辺りも暗くなる頃。
続く




