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ネモのアトリエ

最終目的地。

ここは誰もが憧れる魅惑の町・ベネット。

水と芸術の街として栄え全国から大勢の観光客がやってくる。


「よしお前ら。まずはアトリエ探しだ! 」

「オウ! 」

一本抜けた大通りは故郷と比べ物にならないほど華やかで見惚れてしまう。

ここでアンと暮らせたらな。


「アン? どうしてカズはいつもそんなにひねくれてるのかな? 」

テルファーが心の声を読み取って責める。

「いや…… テルファーには似合わないかなって。もっと田舎がいいでしょう?」

どうにか言い訳するが果たして信じたか?

そもそも一言だってアンって言ってないんだけどな。

どうやら仕草ですぐに分かるらしい。勘のいいことで。

これはテルファーの前では危険過ぎるからやめた方がいいな。

でも無意識だからどうにもならない。


「まあいいやそう言うことにしておいてやる。それでゾークはどうする? 」

テルファーはらしくなくゾークを気に掛けている。これは何かあるぞ。

船酔いは収まっただろうがさすがに歩かすのも酷か。

でももう終盤。ここまで来たら我慢してもらわないと。

ゾークのスローの出番だってあるかもしれない。

「皆は先に行ってよ。僕はここでゆっくりしていくから」

そう言うとベンチで横になる。


「おいおい大丈夫か…… 」

「後三十分もすればどうにか回復すると思うから。ここで景色を眺めてるよ。

カズ君たちは早くアトリエに! 別の用もあるしね」

どうやらゾークにも予定があると。それならここで別れるのもアリだな。


「あの…… 済みません。龍崎にはどう行けば? 」

何も知らない町長が笑顔で話しかける。

龍崎とは龍神谷の入口だとされている。そこから龍神谷を見つけるのも一苦労。

龍神谷に行けば竜神様に会えるかと言うとそうでもないよう。

とにかく僕たちが集めた巻物に詳しく載っているはずだ。

後は迷わないでたどり着ければいいが慣れてないと大変だろうな。


「そうだな…… あっちだと思うぜ」

父さんが適当に答えてどうにかごまかした。

地元民の振りをしいい加減な方向を教えるんだから。

これでますます竜神様が遠のく。

「あれ…… あなたどこかでお見掛けしたような…… 」

帽子で格好をつけていたので父さんだと気づかれなかった。

ただどこかで見かけたことがあるなと引っ掛かってるみたい。

まずいと思い早く行こうと言って背を向け引っ張っていく。


「ああ…… それでは」

町長はこうして龍崎へ向かう。

どうやら急がないといけないらしい。

のんびりベネット観光は次に回して父さんの知り合いの家に。


ちょっと歩くだけでも見惚れてしまう家づくりにお洒落な壁画。

大聖堂から聞こえる鐘が響く。これはステンドグラスだとか。

青が太陽を浴びて輝いてるが凄く幻想的。

見惚れてると声が掛かる。


「そこの旅の人。どうだろう? 旅の安全を祈って行かないか? 」

強引なお爺さん。笑顔だが目の奥が笑っていないのでちょっと不気味。

「いえ…… 家を探してまして。この辺りだと思うんだよな」

父さんは普段は見せない顔でいい人を演じている。

ただ少しでも相手が舐めた真似すれば表情を一変させ怒り狂う。

それが父さんだ。ドラゴンカード一枚で怒るぐらいだからな。

「ああそれならネモさんのところだ。ここから曲がって大通りをまっすぐ抜け左。

すると見えてくるはずだ。分からなくなったら聞けば教えてくれるさ」

親切な勧誘に教わりついに目的地へ。


ネモのアトリエ。

「凄いね父さん? 見ただけで圧倒されるよ。これは芸術的だ! 」

一度言ってみたかったんだよね。

「そうか? 俺にはどうも工房にはでかすぎる気がするんだよな」

父さんが嫌な予感がすると騒ぐ。

僕としても想像とは随分違うかなと。でもそれでもいいじゃないか。

ないよりはマシだ。今日までどれだけ探して来たか。

ネモはちょうど絵を仕上げているところだそう。

これはまずいな。アトリエってやっぱりそっちでは?


「おいおいまさかおっさん。ジャックから仕入れたんじゃねのか? 」

テルファーが睨む。

「そうだ。友だちの友だちってのがいるからどうだって。

だからこんなとこに来ちまったんだ。うわー! 」

頭を抱え後悔する父さん。するとこれは無駄な旅だったのか?

いやそんなことはない。僕たち一家のルーツが分かっただけでも収穫さ。

竜人にも会えたし。決して無駄なことではなかったと思いたい。


「おおいらっしゃい! 」

画家だからかイチイチ大げさなリアクションで迎えてくれる。

テルファーなどハグされる始末。困った爺さんだな。

「ジャックの紹介でやって来たんだ」

「はあ? 」

「ジャックだ! 」

「おおジャック! って誰? 」

悪ふざなのか本当に思い出せないのか困り顔。

「とにかく中を見せてくれ! この屋敷の見学に来たんだ。

ほら。お前たちは外で遊んでろ。一時間は掛かるから大人しくな」

そう言うと追い出されてしまう。


ジャックの紹介で父さんはこんなところまで来た。

でもここが仮に芸術家の方のアトリエだとしてもどうにかなるはずだ。

もう時間がない。それで我慢しないと住むところがなくなるぞ。

それでは今までの苦労は水の泡。どうにかしないと。


父さんの強気の交渉術。

思いっ切り我がままと文句を言って値切るんだろうな。

それには僕たちが邪魔。だから離れたところでゆっくりしている。


さあのんびりしてよう。

これならハイにアンを任せなくてもよかったな。

どうしてるだろう二人とも? ハイがアンを困らせてなければいいんだけど。

「カズこっちに来てみろよ」

テルファーがいいところがあると。

「もうどうしたんだよ? 」

父さんと別れてアトリエの近くに流れる小川まで歩く。


「おいこっちだ! ほらいいところに茂みがあるだろう? 」

複数の茂みがある。ちょうどいいのでトイレでも……

おかしなことを考える。だって昨日もあまり寝れてなくて。

テルファーが興奮させるからまともな精神状態じゃなかった。


「見てよ。チョウが舞ってるよ。あははは…… 」

追い駆けようとしたところで強引に捕まえられる。

「最後のチャンスだ! ほらここでやるんだ」

昨夜はベットで今日は屋外プレーを強要するテルファー。

相当溜まってるんだろうな。何が?


果たしてこんなところでしていいものか?

ファンタジーの神が許してもコンプラ様が許さないような気がする。


うん? 何か今動いた?

いや気のせいか。でもどうも気配がするんだよな。

「ほら早くしろ! 怖気づいたのか? 」

テルファーは人が断れないように持って行くのが上手。

「でも何かいる気がしたんだ」

「気のせいだろう。さあ早くおっぱじめようぜ! もう時間がないんだからよ!」


最後のチャンス。大人しく従うとするか。


                続く

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